カサブランカ脱出
マリーの脱出とルイの反乱がほとんど同時にレオに報告された。
クーレオはレオが自室にいないためあちこち探しまわっていたが、こういう場合だいたいはカサブランカの部屋に押しかけてきているのだ。
「ルイ様がラシアン領で反乱を起こしました。各地の貴族も呼応して20万人ほどの大反乱になっているそうです。」
「だそうよ。」
クーレオの報告に反応したのはレオではなくカサブランカの方であった。全く気にするそぶりすらなく肉にかぶりついているレオに冷たい視線を向ける。
「ルイって誰だ?」
「あんたと私の弟。」
「あ、そう。」
レオは弟と貴族の反乱に対しても特に気にするそぶりは見せず、食事を続行した。クーレオがそれを見て報告を続けようとする。
「殿下!申し上げ、、ぐはあっ。」
突然、大きな巨体が吹き飛んだ。レオが彼の胴体に蹴りを叩き込んだのだ。さっきまでの無関心な表情とは打って変わって、レオの顔は噴火しそうなくらい真っ赤になっている。
「誰が殿下だボケええええええええ!!!!俺は国王だ。陛下と呼べと言っただろうがあああああああ。」
「申し訳っ、、申し訳ございませんんんん。」
体を縮めて土下座をするクーレオに蹴りを入れ続けた。
「ちょっと!私の部屋を汚さないでよ。部下への折檻は他所でやって!」
カサブランカのとりなし、というかただのクレームでようやくレオは落ち着きを取り戻した。
「ったく。で報告はなんだ?」
ドカッと腰を下ろしたレオにクーレオが報告を再開する。気の毒な彼の顔はパンパンに腫れており、鼻血もたらたらと流れている。
「は、はい。先日都を脱出したマリー様が聖教徒たちを率いて反乱を起こし、ルイ様に合流したそうです。」
「マリーっての」
「あんたと私の妹。」
「あ、そう」
案の定妹の名前を覚えていなかったレオにカサブランカは即時に補足を入れる。
「兵士たちを集めておけ。」
「はっ!」
悩むまでもない。
レオとしては反乱を鎮圧するしか手段はない。もともと弟と妹に対し何ら親愛の情なんて持っていないのだから。何も気にすることはないのだ。歯向かってくる者を叩き潰すだけ。ただそれだけである。
レオからの報告を受けたクーレオが足早に出て行くが、少し足取りが怪しい。先ほどの暴行時に頭も殴られたようだ。
フラフラと出て行く部下を見ようともしないで豪華な食事を再開したレオを、カサブランカが呆れたように見つめた。
「あんたの部下には心底同情する。どこが怒りのスイッチか全く分からないわ。本当に狂人ね。」
「国王に殿下と呼んだ方が悪いだろう。そんなことよりどうして機嫌が悪いんだ?」
「せっかくの食事時に押しかけられたら誰だって機嫌悪くなるわよ。」
「いい景色を眺めながら優雅に食事か。」
「誰かさんが一面焼け野原にしてくれたおかげで王宮から城門まで見えてしまったわ。」
レオは窓から外を眺めた。つられてカサブランカも窓の外に目をやる。
カサブランカの自室は王宮の最上階にあるため、もともととても遠くまで見渡すことができた。だが、今見えるのは一面焼け野原になった土地だ。黒焦げになった土地と今も燻っているように噴き出る煙しかない。
カサブランカは外を見ながらため息を一つつくと、窓から目を戻してレオを睨みつけた。
「あんた。本当にロクな死に方しないわよ。」
「ひゃひゃひゃ。建物でごみごみしていた都が綺麗になったな。」
レオは全く悪びれるわけもなく、楽しそうに笑った。
そして立ち上がり、部屋から出る。
「俺は反乱をぶっ潰しに行くけど、お前はどうする?」
「あら?私にここに座っていること以外にできることってあるの?」
「ひゃひゃ。すぐに戻る。」
カサブランカの嫌味は完全に無視して、レオは自身の部屋へ帰って行った。
レオの兵士たちはすぐに反乱鎮圧のため、都を出発して行った。たったの2000人だから準備も数時間で終わったらしい。報告が入ってから出発するまでの早さが異常だが、この圧倒的な俊敏さがレオの軍隊の最大の強みであろう。
慌ただしく城門から出て行ったレオの騎馬隊とは入れ違いに、二人の少女が城門をくぐった。彼女らはあっという間に見えなくなったレオの軍隊を見ながら感心したように話す。
「一日もかからずに準備から出発までできるなんて早いね。いくら兵士が少ないからって。」
それから二人は王宮の門をくぐった。レオが来てからというもの警備体制が崩壊しており、王宮の入り口ですら警備兵がいない時もある。昼間ですら食料を盗みに忍び込む貧民たちが後を絶たないのだ。
彼女らはそのままカサブランカの自室まで行く。王宮の最上階にある彼女の自室はさすがに治安が守られている。
「お互い、服装は大丈夫ね。」
「うん。」
二人は互いの服装に乱れがないことを確認しあって、一つ深呼吸をした後ドアをノックした。
「第3隊士リリィ、第6隊士サーニャ参りました。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
二人がドアを開けると、いつもとは全く違う光景が映し出されていた。
棚はすべてひっくり返されており、衣服や宝石類が散乱している。二人以外のカサブランカの親衛隊が全員揃っており、慌ただしく大きな鞄に荷物を詰めていた。
カサブランカは少しあっけに取られている二人に近づき、二人の髪を触りながら尋ねた。
「二人でどこに行っていたの?今は王都でも治安が悪いんだから危ないじゃない。」
「はい殿下。天気がいいので少し郊外まで出かけていました。」
「そうなのね。」
カサブランカはあっさりと納得した。一応二人は休日であったので、どこに出かけていようが咎めることではない。そしてカサブランカは何でもないように続けた。
「日が沈むまでに王都を出るわよ。当分帰ってこないからそのつもりで荷造りしなさい。」
「えっ。」
「兄が出て行った今がチャンス。逃げるの王都から。」
「はっはい!」
レオが王都を出かけた隙に王都を脱出する。
他の親衛隊員が忙しくしている理由が分かった。それと同時に二人は慌てて荷造りに加わった。




