マリーの乱
「マリー様いかがでしたか?マリー様」
放心状態で教会に戻ってきたマリーにシスターが声をかける。その言葉で我に返ったマリーは一気に様々な感情に襲われて、火が付いたようにわっと泣き出した。
「もう私は死んでしまいたい!」
今までの人生の中で考えられないほどの恥辱を受け、自分が無力であることをまざまざと見せつけられたのだ。マリーは生まれて初めて自分の存在意義を疑った。
泣きじゃくるマリーを見て結果を悟ったシスターはマリーを抱き寄せて一緒に泣く。
「可哀想なマリー様。ライハ侯爵はなぜ助けに来てくれないのでしょう。たった一人都に残って、レオ様に立ち向かっているマリー様があまりに可哀想です。」
ライハ侯爵。マリーの婚約者だ。
しかしレオとの戦いで敗れた侯爵は、マリーがいる王都を素通りしてさっさと自領に逃げ込んだ。王家の威信が失墜した今、マリーとの婚約はもはや無かったことになっているかもしれない。
「アーク様、、アーク=ウォーデン様、、」
マリーは無意識に一人の名前を呼んだ。
ウォーデン男爵。ハバロフ招集でマリーを王宮から連れ出してくれた人。初めて皇女としてではなくマリー自身を見てくれた人。向こうはあの一夜限りの出逢いだと思っているだろう。でも、もし、もし彼が助けに来てくれたのならば、、、
「マリー様。入ってもよろしいですか?」
「マリー様は今取り乱しておられます。落ち着いてからに」
「急ぎの連絡です。」
こう言って入ってきたのは神官長ゼノンだ。マリーは慌てて涙を拭き、シスターを下がらせた。
「実はラシアン選帝侯に匿われているルイ様から極秘の手紙が届きました。」
「ルイお兄様から?」
マリーは手紙の封を切り、中身を見る。間違いなくルイの文字だ。
「これは、、」
「どうしました?」
「ルイお兄様がレオ兄さまに反乱を起こすらしい。私に参加するように促してきたわ。どうして私なんかに。」
「マリー様は教会との結びつきが強いですからね。マリー様の支持はラプラス教徒である国民の9割の支持も同然でしょう。マリー様の判断によって事態は大きく変わります。」
ゼノンの言葉で自分はいまだに重要な地位にいることを認識する。レオにはいろいろと言われたものの、マリーは皇女なのだ。王家の威信が失墜しようが、少なくとも神輿としてまだまだ価値がある。
確かにレオの暴挙を一刻も早く止めなければならない。だが、ルイの反乱に加担してよいのだろうか。教会の保護を受けているマリーまで反乱に加われば、貴族同士の争いにとどまらない。間違いなく大規模な内乱になる。
自分の判断で死ななくてもいい無実の人々が大勢死ぬのではないか。マリーは躊躇した。
「た、大変です!」
そこへ外の警備についていた神官たちが慌ててやって来た。
「火が教会に燃え移りました!早く避難を!」
「おのれレオめ。神の代理人に対して何という仕打ちだ!」
ゼノンは怒りながら神官たちに指示を出すと、マリーの方を向き直り、決断を迫った。
「マリー様。ご決断ください。ルイ様と手を結び、レオを打倒しましょう。」
「でも、、戦いになれば死ななくていい無実の人々が大勢死ぬことになります。果たして神がお喜びになられるのか。」
「マリー様。確かに戦いが始まれば1年で10万人は死ぬでしょう。しかし、このままレオに政治を任せてしまえば10年で1000万人が死にます。それにレオを倒すための戦いは聖戦の犠牲です。死ぬ者は神によって天国へ行けるでしょう。」
「しかし、、」
ゼノンは苛立ちを抑えるように深呼吸をすると。最後の二択をマリーにつきつけた。
「マリー様。火が迫っています。地下室に逃げてこのままレオの圧政を見過ごすのか。都から逃げてルイ様と王国を救うのか。最後はご自身でお決めなさい。」
マリーは自分の手を見た。汚れたことのない綺麗な手。いままで父王を始めみんなの努力で自分が綺麗のままでいられたのだと思い知った。父王が生死不明の今、自分で決めて、自分で責任を取らなければならないのだ。
マリーはついに覚悟を決めた。
「お、王都を脱出します。馬を用意してください。」




