大学創設
ミカンダ領の今後の政策についての話し合いが始まったが、アークたち兄妹を中心に意見が割れた。
「今は各都市の開発に忙しいんだから、しばらくは今まで通りそこに集中すればいいんじゃない?」
イアンナは保守的だ。そもそも現在は各都市を絶賛開発中なのだから、新しい政策をする必要がないという意見だ。この意見には各都市の町長たちも賛意を示すように頷く。
「でも第3都市はイアンナ姉さんが、第4都市はリシュ―がよくやってくれている。だから、もっと他にやれることがあると思うんだ。」
イアンナを説得しようとしたアークの言葉にリシュ―が反応する。
「ボクは冒険者の仕事を放り出してまで都市の運営をしているんだから、キミはボクを手伝ってくれてもいいんだよ?」
「もちろんリシュ―もとても頑張ってくれていることは分かっている。ただ、ミカンダ地方に僕たちが来てから第1都市だけ変わっていないんだよなあ。仮にもウォーデン領の中心の町なんだから、しっかりと開発をしたいんだけど。」
「「はい」」
テュールとミネルヴァが同時に手を挙げた。どちらが先にしゃべるか迷ったのだろうか、二人は顔を見合わせた。しかし、このような場合には兄であるテュールが先に話し始める。
「おれはやっぱり軍人学校を作るべきだと思う。これまでの王国からの出兵要請は冒険者と農民たちを動員していたけど、自前で職業軍人を育てる時期じゃないか?これから王国が混乱していくだろうし。」
続いてミネルヴァ。
「私は普通の学校を作るべきだと思います。何よりも優先するべきは領地を運営する優秀な人材の育成でしょう?これまでは旧ウォーデン領のよしみで優秀な人たちが来てくれていたけれど、これからは私たちの手で育てないと。」
両者とも第1都市に学校を建設することを主張した。しかし、学校の内容は全く異なる。
「ミネルヴァ。優秀な役人が育つのに何年かかると思っているんだ。この王国の混乱で頭のいい奴が行き場を失っている。育てなくても、雇えばいいことだ。」
「テュールお兄様こそ軍人は傭兵を雇えばいいではありませんか。旧ウォーデン領ではそのようにやって来たんですし、兵隊なんて戦争中しか必要ないのですから。」
「お前は軍事の役割を何にもわかっていないようだな。」
討論を始めた二人を慌ててアークが止める。テュールもミネルヴァも負けず嫌いだから徹底的に口論を始めるだろう。そしておそらく最終的にミネルヴァが泣く。アークは強引に話題を進める。
「とりあえず議論は意見が出尽くしてからにしよう!」
「じゃあボクからも一ついいかい?冒険者学校作って欲しいな~なんて。」
アークの言葉でリシュ―からも要望が出た。
「今出ている主張はテュール兄さんの軍人学校とミネルヴァの学校とリシュ―の冒険者学校の3つか。リシュ―。俺は冒険者のことあまり知らないんだけれど、冒険者っていうのは学校を造らないといけないのか?」
「う~ん。なんというかなあ。学校出てない冒険者もたくさんいるけどーあくまで”自称”冒険者になっちゃうなあ。」
ウォーデン家に冒険者えお経験した者がいなかったため、リシュ―から冒険者についての詳しい解説を受ける。
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<冒険者のクラスについて>
冒険者というのは資格があり6級から1級まであるのだそうだ。ちなみに冒険者学校に行かない冒険者も一定数いるが、彼らは無資格者であり、肉体労働のような簡単な仕事しか受注できない。
6級(全体の10%ほど)
冒険者学校を出たばかりで素人同然の駆け出し。
5級(全体の50%ほど)
6級冒険者として1年活動すると昇格。冒険者の中で最も割合が多い。
4級(全体の30%ほど)
5級として1年以上活動し、冒険者ギルドの試験に合格すると昇格。
3級(全体の5%ほど)
4級冒険者として活躍し、冒険者ギルドごとに毎年1人選ばれて昇級。平均年齢は30歳程度である。
2級(全体の1%以下)
3級冒険者として功績を残し、各ギルドから推薦された冒険者の中で試験を行い昇級する。王国では毎年0~1人誕生する。ラプラス王国の中では現在約40人いる。
1級(王国内に2名)
2級冒険者として長年にわたり活躍し、多大な功績をあげた冒険者の中で、極まれに選ばれる。大陸で現在17名。
ラプラス王国では、20年かけて大陸を東から西に横断しながら人々を救った冒険者ポーロと冒険者として大陸史上初めて貴族に任命された冒険者ユオンがいる。
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「だから質のいい冒険者を集めるためには冒険者学校を作るのが一番だね。どうせミカンダ地方の開発は十数年かかるでしょ?冒険者の仕事もあるっちゃあるんじゃないの?」
「確かに。」
「学校としての認可をもらうために冒険者協会にある程度の資金を提供しないといけないけど、その他の費用はそんなに掛からないよ。基本的なことを教えたら実践あるのみだから。」
「なるほど。」
「それに冒険者学校は王国には5校くらいしかないはずだから、競争相手も少なくていいと思うなあ。」
「分かった。じゃあ」
冒険者学校を作るのはメリットの方が大きそうだ。初期投資もあまりかからないとのことだし。
「お兄様!」
「待て待て!軍人学校は?」
流れるように話すリシュ―に流されてアークが結論を出そうとすると慌てて兄妹が割り込んできた。あまりにもあっさりと冒険者学校の建設が決まりそうだったので納得がいかなかったのだろう。うまく乗せていたリシュ―がペロッと舌を出す。
どの学校がいいかを一つずつ見ていこうとしたとき、姉のイアンナが手を叩いて注目を集めた。彼女は長い会議を何よりも嫌っている。
「全部作っちゃえば?普通の学校も、軍人学校も、冒険者学校も。」
「姉さん?予算が」
「借りてくればいいじゃない。ウォーデン家は貴族兼王国一の大商人なんだから。他の商人たちは争うように投資してくれるわよ。」
それができたら苦労しないが、他から借金してくるというのなら全部作ってしまうという案も意外と現実味がある。
ウォーデン家は国家で1番の商人であるし、貴族という身分もある。金を貸す方からすると、逃げられるリスクなく、メリットしかないのだ。
「ボクもイアンナ様に賛成だね。商人のアークはもちろん分かっていることだろうけど、何事も選択と集中だよ。思い切って金を使うときは使わないと。」
「決まりだな。」
「私も異論はありません。」
リシュ―、ミネルヴァ、テュールの3人もイアンナの案に賛成をする。一方のアークは借金するということがあまり好きではない。なかなか落ち着かないからだ。だが、みんな賛成してしまったのならば仕方がない。
「分かった。でも多額の借金にならないように、なるべくウォーデン商会の出せる範囲で全部の学校を作る。とりあえず軌道に乗るまで小規模にしよう。」
学校関係はミネルヴァに一切を任せることにする。
「ミネルヴァは教育官に任命していたから学校の建設はすべて任せていいか?」
「お兄様!それでは名前はミカンダ大学がいいです!」
「大学?」
「ただの学校ではなく軍人学校と冒険者学校も統合するのですから『大学校』略して大学です!」
「そうか、、ではミネルヴァ。大学について全権を委任する。よろしくな。」
激動の渦に飲み込まれていく王国。ウォーデン家はその中で人材の確保と育成のために多額の資金を投じることに決めた。このことは今後のウォーデン家、王国にとって吉と出るか凶と出るか。今はまだわからない。




