出征へ
「ハバロフ召集の次は親征か。まだ前回の招集から半年しかたっていないのに、また都に来てしまった。」
呼び出しが来たのは、テュールの反乱鎮圧からすぐのことだった。そのため早くもテュールとランドルの一件がバレてしまったと青ざめた。しかし都にいるシービ教団員を使って情報を探らせると、どうやら全貴族に対してレオ討伐のために招集をかけているらしいと分かり安堵したのだった。
反乱鎮圧したばかりで領地が疲れていることを理由に辞退を申し出たが、全貴族強制参加ということで許されなかった。しかたなく、そこから冒険者を千人集めて(ミカンダ領には軍人は数十人、テュールやハルを始めとした「外部」の人間しかいないのだ)都に到着したときには、招集から2か月を優に超えていた。
大遅刻におそるおそるやって来たアークだったが、これでも貴族の中では早い方だと聞き安心すると同時に不安になる。他の貴族たちも兵を集めるのに時間がかかっているらしい。大貴族は何万人も集めているのだから仕方がないかもしれないが、初めからこんな調子で大丈夫なのだろうか。
結局、王国に100人近くいるともいわれる全貴族が集まったのは招集から4か月後のことだった。それまでアークは連れてきた千人の冒険者たちに軍事訓練を行っていたが、千人を2か月も養うのは少し出費が痛い。まあ、都に押し寄せる他の貴族の大軍勢に商売をするウォーデン商会ホリヌス支部がボロ儲けしているからいいのだが。
連合軍は総勢50万にものぼった。大貴族たちがそれぞれ何万人も率いてきたらしい。そのため都に入りきらず、出征式は都の外で行うことになった。
「諸君!久しぶりだ。前王のゼロルドである。」
城壁から出てきたのはゼロルド1世である。久しぶりの登場に貴族や兵士たちが歓声を上げる。もっとも、ウォーデン男爵家は50万人のほぼ最後尾にいるため豆粒にしか見えないが。
「余は王国の平和と安定のため、諸君の力を借りて息子を討つことを決意した。諸君の存分な働きを期待している。以上だ!」
それだけで演説が終わったと分かった兵隊から歓声が起きる。その声は聞こえなかった兵士たちにも伝染し、あっという間に全軍にまで広がった。アークのところまでは声が聞こえなかったから早めに終わってくれてありがたい。アークたちも内容は全く聞こえなかったのだが、一応歓声を上げておいた。
「全軍出発!」
「出発だ!」
「出発!」
貴族たちが一斉に軍を動かす。全軍で50万という大軍だ。王国と貴族たちの動員可能兵力が最大で100万人と言われているから、その半分が動員されたことになる。ただ一人を討つためにだ。
人の波がうねるように動き出す。途端に騒がしくなって近くの声も聞こえなくなる。アークは身振り手振りで何とかしながら、ウォーデン軍1千に出発の命令を下した。
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一方で王国の敵になったレオの領地にも軍勢が向かっているという情報がもたらされていた。
「遅っ!決めてから動き出すのにどれだけ時間がかかってるんだよ。これじゃあここまで来るのに1年くらいかかってしまうんじゃねぇか?」
レオは領地に建てた王宮そっくりの自分の館で玉座そっくりの椅子に座り、馬鹿にしたように高笑いをしながら報告を聞く。
「ひゃひゃひゃひゃ。じゃあこっちも準備するか。おい将軍!お前名前何と言った?」
レオはそばにいた熊のような大男の部下に尋ねる。
「クーレオです。レオ様につけていただきました。」
「そうだった。よしウーレオ。」
「クーレオです。」
「クーレオ。さっさと兵隊たちを呼んで来い。親父たちを出迎えにゃいかんからな。」
「かしこまりました。」
クーレオは慣れた様子で部屋を出て行く。名前を間違えられることなんか日常茶飯事なのだ。そもそもレオは人の名前を覚えない。人に興味がないからだ。そのため仕えて10年になるにもかかわらず、いっこうに名前を覚えてもらえないことに対しても全く気にならなくなっていた。
ついにレオ側も兵隊を動員し、戦いの準備に入った。といっても国王側と違って自領の兵士だけであるのですぐに招集は終わる。
「俺が勝ったら俺が王になっちまうな。ひゃひゃ」
レオは自分の鎧を探しながらニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。




