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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第6章 ラプラスは地獄を見た 前編  王国の崩壊
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ゼロルド1世最後の親征

ゼロルド1世は前王となった。


次男のルイスを国王に、長女のカサブランカを副王に任命して自分は国王を生前退位した。歴代国王が終身で務めることが多い王位だが、彼が生前に退位した理由はただ一つである。それは後継者争いを防ぐことだった。


代々、ラプラス国王の王位は長男が継ぐ。しかし、ゼロルド1世の長男レオは狂人だった。彼が継ぐと王国が滅びてしまう。そこで、ゼロルド1世は生前に次男を国王とすることで、死後に後継者争いが起こることを事前に防いだ。


自分の子供たちを冷静に比べて長年続いてきた伝統に逆らってまで行った判断は英断である。さすがは長きにわたる治世によって王国を安定させてきた名君であろう。


そんな彼に最後の仕事があることは誰よりも本人が分かっていた。長男のレオの処分である。


レオは王国の東端に駐屯し、隣国からの防衛を仕事としていた。しかし、ここ数年は伝統的に全貴族が招集されるハバロフ招集にも姿を見せず、王国に敵意を持っているのは明らかだった。商人からの情報で密かに必要以上の武器を集めているという話もあった。はやく何とかしなければならない。


だが、レオは皇族だ。ゼロルド1世の長男であり、本来ならば皇太子であった男である。貴族に皇族の討伐命令を出すわけにはいかない。また、ルイスやカサブランカに兄を討たせるわけにもいかなかった。これでは後継者争いと変わらず、ゼロルド1世が生前退位した意味がない。また、万が一にも敗れると国王と副王の権威が失墜してしまう。


よって、レオの討伐は皇族であり、父であり、現役からは退いたゼロルド1世が行う以外にあり得なかった。


扉をノックする音が聞こえ、大宰相ルーベルが入ってきた。


「陛下、会議の準備が整いました。」

「ルーベル。余はもう陛下ではないぞ。」

「失礼しました殿下。なかなか慣れないもので。」


ルーベルは苦笑しながら白髪だらけの頭を下げる。

男爵家の後継者争いに敗れた彼の能力にほれ込み、大臣に任命してから数十年、大宰相として国の政治のかじ取りを任せてきた。ゼロルドが名君と呼ばれるのはルーベルの働きが多分に含まれる。


「皆のもの待たせたな。」


会議の間には前王以外の出席者が皆揃っていた。


「父上」

「殿下」


ルイスとカサブランカ、そして重臣たちが立ち上がって出迎える。王、副王、前王がいるため、今回の会議はいつものように上下関係がはっきりとしたものではなく、円卓で行われる。


今回会議を招集したのはゼロルドだ。彼は水を運んできた使用人たちを下がらせ、扉を厳重に閉じさせると早速真剣な顔をして話し始めた。


「早速本題に入る。余の最後の仕事だ。王国中の貴族を動員してレオを討つ。」


途端に会議の間にピリッとした空気が流れる。前王の長男にして現王と副王の兄。現在の皇室の厄介ごとになっている男だ。


「レオはハバロフ招集に来なかった。内密に武器を集めているという情報もある。ここで余が討たなければならない。そして全貴族を動員して討つことで余の最後の花道とし、新しい国王と副王に忠誠を誓わせるのだ。」


そこまで言い切ると、前王は出席者の面々をじろっと眺めて意見を促す。


「皆の者、忌憚なき意見を述べよ。」

「立派なご決断でございます。いつかは誰かがレオ殿下を討たなければなりません。しかし、全貴族を動員することは相当のリスクがございます。」


最初に口を開いたのは大宰相ルーベルだ。彼は前王を諫めた。大宰相として忖度せずに国王に対して意見を述べることは珍しくない。そしてゼロルドも彼の意見をよく聞き、修正や改善を繰り返した。このことが王国に長い間の安定をもたらしたものであった。


しかし今回、前王はルーベルの諫言に対して露骨に不機嫌そうな顔をした。自分の意見が否定されても真摯に意見を聞いてきたこれまでの前王から見るととても珍しいことであった。


「他の者はどうか?」


ぶっきらぼうな声で他の重臣に尋ねる。


「私も全貴族を動員するのは反対です。指揮系統は乱れ、戦う前に大混乱してしまいます。」

「人数が多すぎると進軍が遅々として進みません。敵に準備する余裕を与えてしまいます。」


他の重臣たちもルーベルと同様に反対の立場を表明した。実際、客観的に見れば全貴族を動員しての戦いなどあまりいい点が思い浮かばない。


「大臣たちは反対か。」


前王はますます不機嫌な声で言った。


これで会議の出席者は察した。

前王は忌憚のない意見が聞きたいと言いながら、本当は賛成の意見を求めていたのだ。意見が聞きたいというのはあくまで自分にとっての都合がいい意見であり、自分の案が素晴らしいと褒めてくれる意見であり、これからの展望が明るくなる意見である。


「父上。私は賛成でございます。」


真っ先に意図を察したのはルイスだった。常に貴族の機嫌を窺っているため、こういう時に察しがいい。


「全貴族を動員することで父上の立派な威厳が王国中に示されるでしょう。最後の戦いとしてこれ以上立派なものはございません。」

「おおっ、やはりそうか!」


不機嫌だった前王は一気に明るくなった。ルイスの甘言で嬉しそうにしている。

それを見てカサブランカも負けじと声をあげる。


「私も賛成です。」

「貴族たちを動員することで貴族の力を削ぎ、皇族の力を温存することもできます。後々の治世までお考えになられた素晴らしいお考えだと思います。」

「そうかそうか!」


前王はすっかりご機嫌になった。そして重臣たちの方を向いて自分の子供たちの自慢を始める。


「大臣たちは年を取ったな。心配性になりおって。齢をとったら保守的になるから仕方がないか。それに対してどうだこの二人は!精力に溢れて若々しい。これからの王国が楽しみだ。」


大臣たちはここまで言われたら反対できなかった。唯一、ルーベルだけが食い下がっていたが、前王の機嫌を損ねるだけで何もならないとわかり、最後には賛成に回った。


こうして、全貴族を率いての前王の親征が決定された。

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