進軍
ウォーデン軍はアークが率いていた。
軍事関係は軍務官テュールにすべて任せていたが、テュールは反乱の鎮圧から帰ってきたばかりでミーアやハルらにも疲れがたまっていること、ランドルやライカがミカンダ領に慣れるまでは一緒に居たほうがいいこと、といった理由で今回の軍はアークとユリア、ユナらが参加していた。
「アーク様、もう出発してから1週間経ちますがほとんど進みませんね。」
ユリアが退屈そうに言った。
「そうだな。まあこんなに大軍なんだから仕方がないんだが、、、」
「これでは戦いになるのは一体いつになるのか。」
1週間で政府軍が進んだのはわずかな距離。馬で走ったら1日で駆けてしまうような距離だ。
ただダラダラと歩くだけで士気が上がるはずもなく、兵士たちはおしゃべりをしながら行軍をしている。アークも間延びしてしまって、それを注意する気力もない。
ハング=ウォーデンがやって来たのは話し相手が欲しかった丁度いい時だった。
「やあアーク!」
「やっぱり来ていたか。忙しいだろうにわざわざ顔を出してくれてありがとう。」
暇を持て余していたアークは両手を上げてハングを歓迎する。
ハングはウォーデン商会の商人たちを率いて今回の行軍の後ろについて来ている。食料を始めとして行軍中は様々なものが必要になってくるから、商人にとってはビジネスチャンスなのだ。
「いやいや。せっかくなので挨拶をしておこうと思ってね。お嬢さんも久しぶり。」
ハングはアークの後ろにいるユリアに挨拶をするが、ユリアは頭を下げてアークに隠れるように後ろに下がる。ユリアはハングが苦手だ。商人になるために生まれてきたような男であるハングはユリアと初めて会った時から値踏みをするような眼で見てくる。人ではなく商品として見られることは、アークに買われる前の剣闘士時代のことを思い出してつらくなるのだ。
「調子はどうだ?」
アークが聞いた途端、ハングは我慢できなくなったように頬を緩める。
「笑いが止まらないよ。食料、武器、酒、日用品。何でもかんでも飛ぶように売れる。仕入れた数だけ売れるんだ。しかも定価の2倍3倍で。商人人生最大のモテキだね。」
「それは良かった。」
「ミカンダ領の開発でかなりの資産を使ってしまったけど。今回のおかげでウォーデン商会の金はあと2つくらいミカンダ領があっても大丈夫だ。」
ハングが嬉しそうに言う。いつも快く資金を提供してくれていたが、やはり一つの領地を開発するのには膨大な金が要る。大商人のウォーデン商会と言えども大変だっただろうが、今回の戦いでかなり儲けることができそうだった。
「やっぱり戦争は儲かるな。アーク。」
「ハング。」
しばらく儲けの話をした後、帰ろうとしているハングに向かってアークは声をかけた。
「戦いが始まったら商人たちは退避させろよ。」
「もちろん。どさくさに紛れて略奪なんかされたらたまったものじゃないからね。」
少し浮かれている様子のハングが心配になり念のため声をかけたが、ハングは分かっていると言った表情で帰って行った。まあ、リスクヘッジもできる優秀な商人であるからあまり心配はしていないが。
それから2週間がたち、政府軍はダラダラとようやくレオの領地付近へと到着した。アークが独自にはなっているシービ教団からもたらされた情報をユナが報告する。
「、、、アーク様。敵はおよそ2万人だそうです。」
「2万人!たったそれだけで50万と戦うつもりでしょうか。これは私たちの勝利は間違いないですね!」
2万人という言葉を聞いてユリアが反応する。確かに数の上では圧倒的な多数だ。このような兵力差で負けた話など歴史上も聞いたことがない。
「それはどうかな、、、」
しかしながら、アークは少し嫌な予感がしていた。
まず政府軍の士気が低い。とても殺し合いに行くと言ったような雰囲気ではない。人数が少ないウォーデン軍ですら士気が悪いのだ。大軍で司令官の目が届かない部隊によっては酒を飲んだり、喧嘩をしたり、近隣の村から略奪をしているところもあるようだ。
さらに指揮官たちの当事者意識もない。どの司令官も戦うのは他の貴族たちで、自分はただ参加しているだけだという意識がある。圧倒的な人数差ゆえの弊害であろう。実際、アークも政府軍の隅っこに配置されていることもあり、自分がレオと戦わなければならないとは思っていなかった。
つまり、政府軍はレオの軍に対して中身は圧倒的に負けており、人数差で何とかできるかどうか。こう考えると圧倒的な有利などではなく、もしかしたら互角かもしれない。
アークはそう考えており、どうにも気分が乗らなかった。
補足
・前話で全貴族が招集されたとありましたが、レオ領に近い貴族たちは進軍の途中で合流している形になります。




