戦後処理
テュールが鎮圧軍の諸将を集めたのは城が開城して数日後のことだった。反乱軍の虐殺と略奪に夢中になっていた諸将は文句を言いながらも最高司令官の命令に渋々とやって来る。
「揃ったか。」
テュールは一人ひとりを丁寧に出迎えた。総司令官であるテュールは一応役職上の立場は上である。しかし、彼が総司令官になったのは他の貴族家が責任を取りたくなかっただけであるから、実質的には平等なのだ。
「まずは鎮圧軍の司令官として将軍たちにお礼を言いたいと思います。将軍たちの活躍、そして背後にいる貴族の皆様のご協力により、無事に反乱を鎮圧することができた。多くの貴族たちがこの反乱の鎮圧に失敗していた中で我々が見事に役目を果たしたことはとても名誉なことです。」
「テュール殿、お礼はいつでもいえるではありませんか。現在は反乱軍の残党狩りに力を入れているところです。そんな中で我々を集めた理由を教えていただきたい。」
一人の司令官が不満を口にする。やはり立場が同じなのですぐに本音の意見が飛んでくる。用件があるならば、さっさと始めろということだ。
「では早速本題に入りましょう。」
テュールは一つ息を吸って深刻な表情になる。
「反乱軍のリーダーである若者が行方不明です。彼を捕らえなければなりませんが、彼はどこにいますか?」
「えっ」
司令官たちは一斉に驚きの表情を浮かべた。敵のリーダーがいないなんて全く予想もしていなかったのだろう。
「いないのですか?」
一人が信じられないと言った表情で尋ねる。そして一瞬の静寂の後、早速責任の押し付け合いが始まった。
「俺が担当なのか?」
「お前の部隊が一番最初に城に入っただろう!」
「お前たちだってすぐそのあとに入ったではないか!」
「略奪に夢中になって逃がしたんじゃないか?」
「なんだと!?」
あっという間に騒がしくなる。どの司令官たちも自分の責任になってしまうことを何とかして避けなければならない。そのため、何とかして相手になすりつけようと一生懸命になった。
「静粛に!」
テュールが怒鳴る。
そして静かになった部屋で穏やかに尋ねた。
「そのような若者は見なかったのですか?」
「降伏してきた農民たちが口々に『リーダーが政府軍に降伏した』と言っていたので、もうどこかの部隊に捕らわれているのかと、、、」
「吾輩もそのように聞きました。」
「私が捕らえた農民たちもです。」
城に入城した司令官たち全員に尋ねたが、彼らは皆同じことを言った。それは当然のことだ。事実なのだから。ランドルはテュールに捕らえられ、それがきっかけで農民たちは降伏した。しかし、この部屋ではそれは農民たちの嘘ということにしなければならない。
「それであっさりと信じたのか。一度私に報告してくれたらよかったのに。」
テュールが少し呆れたように言うと、司令官たちは俯く。他の諸将はそれを見て責任を擦り付けるチャンスだと思ったのだろう。一斉に彼らを糾弾した。
「農民に騙されるとはな。」
「どうせ農民たちを殺すことしか考えてなかったんだろうさ。」
「うるさい!城の包囲を担当していたお前たちの部隊だって責任は同じじゃないのか!」
先に城に入った司令官たちとその他の諸将の口論が再び始まりそうになった時、テュールは再び大きな声をあげて止めた。
「とにかく!!」
「首謀者を逃がしてしまったのはとてつもない不祥事ですぞ。皆さん」
深刻な声に諸将は一斉に不安になる。
「総司令官たる私に一番の責任があるでしょうが、皆さんも無事ではすみますまい。」
テュールはみんなの面目を保つため、自分の責任であると言いながらも、暗に諸将にも責任があると非難する。
そして、テュールは今回の会の本題の中の本題であるある提案をする。
「反乱軍のリーダーの容姿は分かりますか?」
「金髪の青年ということは知っています。私の部隊は以前に直接戦ったことがありますので、容姿を知っている兵士もいます。」
「では似ている農民の死体を代わりに王都に送りましょう。これで解決です。」
諸将たちはあっけにとられた。テュールが行ったことが理解できなかったのだろう。先ほどまでの重苦しい沈黙とはまた違った種類の静けさが部屋を支配していた。ようやく理解が追いついた者から驚愕の表情に変わっていく。
要するに別人の死体を送り付けて主人である王国を騙そうと言っているのだ。
「偽装するということですか?」
「我々鎮圧軍しかこの事実を知らない。それに反乱軍のリーダーの容姿を正確に覚えている者はあまりいないでしょう。金髪で年齢が近い者の死体を送れば今回の失態はバレません。」
「しかし、、、」
当たり前だが諸将は一斉に渋い表情になった。それも当然である。王国相手に誤魔化そうというのだ。もしもこの偽装がバレたらただでは済まない。自分だけでなく、主人である貴族までもが「王国の敵」として処罰される可能性だって容易に考えられる。
「よろしいのか!」
突然のテュールの大声に、ためらっていた司令官たちが一斉にビクッと反応する。
「せっかく反乱を鎮圧したというのに、お前たちが略奪に夢中になっていた間に首謀者を逃がしてしまったなんて当主たちにどう説明するのだ!」
テュールの怒号が部屋に響く。それぞれの貴族たちに任命されて鎮圧にやって来た司令官たちにとって、首謀者を逃がしてしまったという事実は取り返しのつかない不祥事である。目を逸らそうとする司令官たちに対して、テュールはその現実を見せつけた。
「まず間違いなく家紋に傷がつく。我々は王国中から笑いものだ。私のウォーデン家は商人から貴族になってわずか二代だからそんなに気にならない。だが、伝統ある貴族家から派遣されている諸君はどうか?このまま事実が明るみになったら果たしてその貴族家でこれまで通りに生きていけるのか?」
「、、、、」
司令官たちは唸った。テュールの言っていることは全くその通りであった。そして、一人、また一人とテュールが示す甘い言葉にゆらゆらと揺れていった。
「背格好、容姿が似ている者を大至急探させます。」
誰かが震える声で言った。
その声を聞いてテュールは満面の笑みで頷いた。




