降伏(2)
長期間続き、多くの貴族を動員したランドルの農民反乱はこうして終了した。
ランドルがテュールに囚われたと知った反乱軍は完全に戦意を喪失し、城門を開けた。4000ほどにまで減っていた反乱軍は全員鎮圧軍に降伏した。
テュールは反乱軍が城門を開けたと知って、ただちにミーアにライカの救出を命じた。ミーアたち冒険者は城から続々と出てくる武器を捨てた農民たちを横目に城に入り、栄養失調で死にかけているライカを発見し救出した。
ミーアがライカを抱いて外に出るのと入れ違いに鎮圧軍が城の中に入っていく。この後起こることを事前に知らされていたミーアたちは目を合わさないようにして足早に城から出て行った。
ミーアが城の外に出ると、そこではすでに地獄が始まっていた。
鎮圧軍、いや政府軍はこの農民たちを許すつもりはなかった。反乱を起こせばこうなるという見せしめにするつもりなのだろう。王国は反乱軍の首一つにつき懸賞金を用意していたのだ。つまり殺せば殺すほど賞金がもらえることになる。
今回の鎮圧軍のリーダーはテュールだが、鎮圧軍の大半は他の貴族たちの兵士だ。もちろん以前ランドルにコテンパンにやられた貴族も参加している。以前の敗戦の恨み、そして賞金。兵士たちを暴走させるのには十分だった。
「ミーアさん、、」
「見てはいけません。耳を塞ぎなさい。わたくしたち冒険者にとっては少し刺激が強すぎる。」
怯える部下の冒険者に対してミーアは短く言った。
反乱軍は殺戮された。徹底的に殺された。最初に城から出て行った反乱軍、城の中で動けなくなっていた反乱軍、さらには反乱軍と見分けがつかない城の住人まで皆殺しにされた。
ミーアはひたすら自分の五感を消すことに集中しながら馬で駆けていく。賞金を巡って死体の取り合いをしている兵士たちの中を。
「止まれ。」
不意に馬に乗った兵士がミーアたちの行く手を阻む。豪華な鎧を付けているので指揮官クラスに間違いない。
「お前たちはどこのものだ?まさか反乱軍じゃないだろうな。」
「テュール=ウォーデン配下の冒険者ミーアと申します。」
ミーアが頭を下げながらウォーデン家の紋章を見せると、相手は慌てて剣をしまった。
「おお。総司令官の!これは失礼した。」
馬に載せているライカについては触れられたくない。ミーアはなるべく早く立ち去るために頭を下げて足早に帰ろうとする。
「待たれよ。」
ライカが気づかれたか?
内心では冷や汗をかいているものの、それをおくびにも見せずミーアは振り返る。
しかし、別件のことだった。
「テュール殿の部隊は来られないのか?殺せば殺すほど王国から褒美がもらえる。今の城には金が落ちているのも同然だというのに。」
「テュール様は参加いたしません。配下として補佐してくれた貴族の皆様への御礼の代わりだと申しておりました。」
特にテュールからはそんなことは聞いていないのだが、いつも何でもかんでも話す癖のおかげでそれっぽいことが言えた。
「そうですかではありがたく。商人貴族は金に余裕があって羨ましいですな。」
最後に本音か皮肉かわからないような一言をもらい解放される。こうしてミーアたちは、無事にライカを連れて戻ることができた。
ミーアはテュールのところへ戻ると、早速ライカの救出に成功したことと、途中で他の貴族の兵士に呼び止められたことを報告した。テュールは救出成功に喜んだものの、他の部隊の兵士に見られたことに渋い顔をする。
「見られたか。」
「ライカちゃんを救出してここに戻る途中、指揮官クラスの兵士に呼び止められました。家紋も何か書いてあったような気がしましたが、どの家紋がどの貴族なのか全くわからないのでご勘弁ください。相手の方からライカちゃんについて何も触れられなかったのですが、わたくしに話しかけていた以上、私の馬に乗せているライカちゃんも当然目に入っているでありましょう。気になったかは別として。」
「わかった。ご苦労だった。少し休め。」
「ありがとうございます。」
しばらく考えていたテュールであったが、一つ頷くと、ミーアに礼を言って下がらせた。
見られてしまったものは仕方がない。後後面倒なことにならないように、とにかく何か手を打つ必要があった。




