鎮圧(4)
「ランドル様、全員の準備ができました。」
夜も更けてみんな寝静まったころ、部下が報告にやって来た。
食料庫の襲撃にはまだ体力が残っていて、十分に信頼がある数十名を選抜した。人数が多ければ襲撃を有利にすることができるかもしれないが、同時にあまりにも多いと敵にすぐに見つかってしまうのだ。
「よし、早速出発するぞ。グズグズしていると夜が明けてしまう。」
「やはりライカ様は参加されないのですね。」
「ライカには留守をお願いしている。いつもあいつに頼ってばかりだし、何より今のあいつは今にも倒れそうだ。」
ライカは日に日に弱っている。ただでさえ十分な食事がない中で、悪夢によって精神的にも消耗し、食事が喉を通らない。戦場の真ん中で倒れられても困る。
斥候に出していた仲間の案内で森を抜ける。真っ暗な森は静かでとても危険だったが、しばらく注意していれば目が慣れてきた。
敵に見つからないようにゆっくりと慎重に移動したランドルたち襲撃グループは数時間後かけてようやく目的地まで近づいた。
「見えてきました。あれです!」
森の中の少しひらけた場所に無数のテントが張ってある。軍営にしては兵士が少ない。間違いなく食料庫だった。
「本当だ。確かに食料が入っているような樽が山積みにされている。」
「見張りの兵士は数十人と言ったところでしょうか?」
「まさか敵は俺たちが食料庫を見つけ出したとは思っていないだろう。それに近くに軍勢も潜んでいないようだし。こんなチャンスはない。」
ランドルははやる気持ちが抑えられず、少し上ずった声で言った。
「俺の合図で突入するぞ。」
一応、周辺を注意深く観察する。しかし敵は本当に気づいていないようで、伏兵で待ち構えている様子はなかった。
これで城の皆を救うことができる。ランドルはもう成功したつもりで有頂天になる。
「よし、突入だ!」
数十人が一斉に襲い掛かる。食料庫の兵士にとっては完全に不意打ちだ。真っ暗でこちらの人数が何人いるかどうかもわからない。
「わわっ反乱軍だ!」
「早く報告を!」
あまり人数の差はないはずだが、見張りの兵士たちは戦わずに逃げた。
対して抵抗を受けずにランドルたちはテントに侵入した。テントの中にはたくさんの樽が並んでいる。その一つを開けてみると、中にびっしりと穀物が入っていた。
「あった!あったぞ!やっぱり食料だ」
「よし!みんな持てるだけ食料を持て!」
ランドルたちは嬉しさで大喜びしながら持ってきた袋に穀物を詰めていく。持てるだけ持ってきた袋はすぐにいっぱいになった。袋に入らない分は胃袋に詰める。全員でむしゃむしゃとつまみ食いを始める。
仲間の一人がランドルの背中を叩く。振り返ると肉を口いっぱいに頬張っていた。
「ランドル様。逃げていった見張りの奴ら、一般の兵のくせに肉なんか食べてやがりましたよ。」
「そいつはけしからんな。おい、みんなこの分の肉は食べてしまえ。冷めてるけどうまいぞ。」
ランドルの言葉に物色していた部下たちが一斉にやってきた。久しぶりの肉に我先に群がって食べ始める。
ランドルももちろんたくさん食べたかったが、ここはリーダーとして部下に思いやりを示さなければならない。一口だけ食べて残りは部下たちに譲った。
「持てるだけの食料を持ったか?敵の軍勢が駆け付ける前にずらかるぞ。」
そして少しの時間食事を楽しんだ後、早速逃げる。今ごろ討伐軍のところに報告が入っているところだろう。
ランドルたちは抱えられるだけの食料を持って、城に戻るために森の中を移動した。逃げ始めると、敵に追いかけられていないか心配になり焦ってしまう。一行は闇夜に目を慣らしながらもできる限り急いで戻る。
「お前らちゃんとついて来てるか?」
しばらくしてランドルは振り返った。自分の足元の心配ばかりしていて、仲間に構っている余裕がなかったのだ。
しかし、振り返ったそこにはだれもいなかった。
「はぐれた!?」
ランドルが焦って暗闇の周りを見渡すと、一人が地面に這いつくばっているのが見えた。。
「ハアハア。ら、ランドルさん、体が動きません。俺のことは置いて行って先に逃げてください。」
ランドルは慌てて駆けよる。体が硬直していて動かせない。
「他の皆は!?」
「途中でバタバタと倒れていきました。もう何が何だかわかりません。」
「そんな、、なぜだ。早く城に戻ることで頭がいっぱいで」
「俺のことはいいから、はやく逃げてください!」
何とかして担ぎ上げようとしているランドルを仲間が一喝した。確かに大の大人一人を背負えるほどランドルの力は強くないし、今の体力では不可能だ。
「うう、、、」
ランドルはうめく。
見捨てて逃げることはとても恥ずべきことだと思いながら、今の自分にはそれしかできないと言い聞かせた。仲間を茂みに隠して再び一人で逃げ始めた。
城まであと半分ほどの距離になった時、ランドルの身にも異変が起こった。
急に体が重くなる。足が動かなくなる。
「なぜだ」
よろめきながらも必死に進むが頭が働かない。
「もうだめだ。」
木にしがみつくように移動していたが、ついには足が全く動かなくなり、ランドルは地面に倒れた。そのまま仰向けになり、再び起き上がろうとするが体が言うことを聞かない。
空には満天の星空が浮かんでいた。
「星なんて見上げるのはいつ以来だろうか。」
あまりにも美しいその光景にランドルはふっと笑った。
俺は死ぬのか。人は死ねば星になるとか昔聞いたことがある。
俺もあの星の一つになるのだろうか。
「ら、ライカ、、」
ランドルは星に手を伸ばす。
まだ死ねない。妹を一人にするわけにはいかないのだ。
「あっここにおりました!」
騒がしい声でランドルの朦朧としていた意識が呼び戻される。目を開けると一人がランドルの顔を覗き込んでいる。暗くて全く見えないが、声や影からして女だろう。
「テュール様!ここにも餌にかかった獲物がおりましたよ。ご覧下さい!やはりわたくしのような冒険者には殺し合いよりもこうやって人探しをする方が性に合っておりますねえ。まだ意識はあるようです。獣たちに襲われた形跡もありません。」
「ミーア。こんな真夜中に大声を出すのはやめてくれといっているだろう。頭にガンガンと響いてしまう。」
ミーアと呼ばれた女の声に続き、男がやって来た。
テュールといわれた。確か鎮圧軍の司令官だった男か。
テュールはミーアに続いて覗き込む。
「見つけた。」
倒れている男が反乱軍のリーダーであるランドルだとわかるとニヤリと笑った。
「圧倒的な統率力を持つのは農民ばかりの部下を信用していないことの裏返し。君なら直接やってくると思ったよ。久しぶりだねランドル。」
「てゅーるう、、」
ランドルは何か言ってやりたかったが、体が動かずうまく話せない。
そしてそのままミーアに担ぎ上げられた時、最後の糸が切れたようにランドルは気を失った。




