鎮圧(2)
「ランドル、、みんなの不満がたまっている。早く何とかしないと。」
「何とかって何だ!なにをすればいいんだ!!」
完全に包囲されて1か月。
仲間の声にランドルは苛立って声を荒げる。
いよいよ食料がなくなってきた。
少しでも節約するために食事回数を1日2回から1回に減らし、1回あたりの食事量も減らした。
しかし、何も食べる物がないから反乱に参加した農民たちにとって、食事を減らされたことによって当然不満が高まり、脱走者も相次いでいる。
反乱軍はじわじわと崩れている状態だった。
「このままだと敵が攻めてきても戦う体力が残っていない。」
ランドルが頭を抱えていると、見張りの仲間から報告が入る。
「ランドル様!敵の兵士が城のすぐ近くまで来て何か叫んでいます!」
ランドルが城壁に登ると、ぐったりとしていた見張りが慌てて敬礼をした。反乱軍のみんなも話を聞きつけて城壁に集まってくる。
敵の兵士は男女の二人だった。立派な鎧を着ているからかなり位が高い兵士だろう。
「おいおい。ずいぶんとおとなしいじゃないか。最初の頃の威勢はどうした?」
男の方が黙ってみているランドルたちを煽る。
ボーっと見ていたランドルは我に返る。
「何しに来た!」
「聞け。私は今回の討伐軍の司令官であるテュール=ウォーデンだ。」
その言葉に反乱軍がざわつく。敵の司令官の名前は聞いていたが、直接見るのは初めてだった。まさか司令官が直接やってくるとは。
「ほう。司令官が直接何しに来た?」
「俺はお前たち反乱軍が死のうが生きようが全くどうでもいいことだ。俺の目的はただこの反乱を鎮めるだけ。」
テュールは続ける。
「もし俺に降伏したら命は助けてやる。そして腹いっぱい食料を食わせてやろう。」
「そんな妄言誰が信じるとでも?」
食料という言葉にランドルの体がピクリと反応する。当然と言えば当然だが、敵は反乱軍が何に苦しめられているか完全に把握している。誤魔化しがきかない。
「おう。別に信じなくてもいいぞ。だが、ずっとその城に引きこもっていたら食料が尽きて必ず死を迎えることになる。俺を信じるか、城で餓死するのを待つかお前たちの自由だ。」
「俺たちは死を覚悟して反乱を起こしたんだ。そんなに簡単に降伏なんてできるか!!」
「そうか。他にいるお前らはどうなんだ?」
テュールはランドルの怒声を無視して、城壁から顔を出している他の反乱軍に向かって声をかけ始めた。
「俺は別にそこにいるリーダーだけに言ってるわけじゃないんだぜ。リーダーは腹いっぱい食べているから分からないと思うがな。栄養失調で今にも倒れそうなやつが何人もいるじゃないか。腹いっぱい食いたければいつでもうちに来い。」
腹を空かせている時にそんな言葉を聞かされたら迷いが生じる。もともと領主の圧政に耐えかねて生きるために反乱に参加した者たちにとって、降伏したら腹いっぱい食事ができるという誘惑は刺激的すぎる。もはやなんのために戦っているのか分からなくなる。
まずい。はやくこの男を黙らせないと。
ランドルは頭が真っ白になった。体から冷や汗が止まらない。今まで討伐軍を何度も破り、何人もの司令官を討ち取ってきた反乱軍が、言葉一つで崩壊しようとしている。どうすればいいのか、、、
悠々と見ていたテュールの顔に何かが反射する。次の瞬間、テュールの隣にいたハルが立ちふさがり剣を抜いた。剣と剣がぶつかる音がして短剣が転がる。
テュールが剣が飛んできた方向を見ると、いつの間にかそこにいたライカが鬼の形相でテュールを睨みつけていた。
「おっと、”戦場の稲妻”が登場か。怖い怖い。」
テュールは少しおどけて言うと最後に城壁の反乱軍たちに大声で伝える。
「じゃあな。ウォーデン家はいつでも降伏を歓迎するぞ。」
そしてテュールとハルはくるっと向きを変えてのんびりと戻って行った。
テュールが帰った後、ライカがランドルの元に駆け寄ってくる。
「兄ちゃん!」
「ああ。ライカ。助かった。」
ランドルは疲れた声でライカの頭を撫でた。
しかし、反乱軍には動揺が走っている。食料不足が続いている以上、テュールの提案が魅力的に映ったのは確かだ。リーダーのランドルですらそうなのだから、一般の兵士たちにとっては真剣に脱走を考えるものが増えるのは十分に考えることができる。
「これから脱走する奴が増えるだろう。見張りを強化しておけ。」
ランドルはそれだけ仲間に指示して部屋に戻って行った。ランドル自身もここ数日は何も食べていない。テュールの対応でさらにどっと疲れてしまったから、早く休みたかったのだ。
~おまけ テュール~
ランドルのところから自陣に引き上げるテュールはハルからずっと説教を受けていた。
「怖かった、、怖かった、、えっ何あれ。あんな遠くからあんなに正確に短剣を飛ばしてくるか?普通。」
「だから言ったやん!短剣を飛ばしてくる少女には気を付けてって。もし私がいなかったら今頃あんたは他の司令官たちと同じ天国よ!いや地獄か。」
「あんた呼ばわりするな。そして地獄に落とすな。いや、でもハルがいてくれて助かった。ハルがいなかったら死んでたな。」
「冗談でもそんなこと言わんといて。言ったやろ私、テュール様死んだら後追いするって。」
「はい。本日はすみませんでした。」
「油断なんかして、次は許さんけんね。」
ハルは怒っているが目が赤い。少し泣きそうな顔にもなっている。
「ハル、俺が悪かった。だから泣くな。」
「泣いとらん!」
真面目に謝ったテュールだったが、ハルは泣きそうになっていたのがバレていたことが恥ずかしかったのか、ぷいっと横を向いてしまった。




