鎮圧(1)
「ランドル、、、食料が徐々に少なくなっている。」
「ああ。分かっている。挑発は続けていろ。こちらとしても早く手を打つ。」
仲間の報告に対してランドルはこれまでと同じ命令を繰り返しながらため息をついた。外見上は今までと変わらない様相であるが、反乱軍は完全に追い詰められている。そのことに気づいているのはランドルたち一部の反乱軍のトップだけだ。
前回の勝利から1か月。討伐軍の司令官がまた変わっていた。
ウォーデン男爵家のテュール。
この人選を知った時、ランドルは安堵したものだった。
司令官が男爵。
王国はこの反乱に本気で取り組む気がなくなった。
つまりはランドルたちの粘り勝ちだ。
実際にテュール率いる討伐軍は数週間何もしてこなかった。
ただのお飾りの討伐軍だと思ったランドルはすっかり安心して反乱軍を休め、自分も久しぶりの休息をとった。そして、この油断が命取りになってしまった。
食料の補給が来ないと連絡を受けて慌てて調査をした。そして、気づいたときには補給線はすべて討伐軍に抑えられていた。今までの籠城を可能にしていた秘密の抜け道、隠しルート。これらはすべてテュールによって丸裸にされており、反乱軍が休んでいる間に完全に穴がふさがれてしまっていた。
戦えば反乱軍は強い。ならば反乱軍に戦わずして勝てばよい。
農民主体の反乱軍相手に意地もプライドも関係なく、ただ最善手を討つだけ。テュールはいかにも商人の血を引いたようなそういう人間だった。
「やーい政府の犬ども!農民の俺たちがそんなに怖いか??出てきて戦え!」
「出てこないなら俺たちはここで昼寝でもしてやるぞ!」
「農民相手にビビっている弱虫ども!」
反乱軍は城を出て包囲している鎮圧軍に罵声を浴びせる。声が届くほど近くに行って挑発を続けるがそれでも討伐軍は包囲したままで動かない。たまに若い兵士が我慢できなくなったかのように飛び出してくるが、すぐに他の兵士たちに抑えられて包囲網の中に消えていった。
反乱軍は相手にするな、と厳命が出ているようだった。
命がけで戦う必要がなくて反乱軍の兵士たちは安堵しているが、司令官のランドルは追い詰められている。戦えないのなら敵の食料を奪えない。包囲を崩して補給物資を城に運ぶこともできないし、隙を見て脱出することも難しい。これまでの方法が全く通用しない。
戦わなければ戦わないほどランドルは追い詰められていた。
自室にこもり、難しい顔をしていたランドルはふいに後ろから抱きしめられる。
「兄ちゃん、、、」
「ん?ライカか」
食事をあまりとらなくなった兄を心配して、ライカが様子を見に来たのだ。
「大丈夫?最近暗い顔ばかりしてるよ。せっかく敵が攻めてこないんだから休みなよ。」
「ああ。少し困ったことになっててな。」
「そっか。私準備してくる。」
ランドルが反応できないくらいの即答で答えたライカに慌てて声をかける。
「待て。まだお前の出番じゃない。」
「兄ちゃんが困っているなら私の出番だよ。」
困っている時にそんな言葉をかけてくれる妹を見てランドルの心は少し軽くなった。その気持ちだけで十分に助けになっている。しかし、反乱軍全体が妹に頼り続ける状況は何とかしたかったし、何よりこれ以上妹に無理を強いるわけにはいかなかった。
「最近も眠れていないだろ。ひどい顔だぞ。」
「むっ。女の子に対してなんて失礼な言葉なんだ。ちゃんと寝てるよ。」
ライカは少し拗ねて頬を膨らませる。
しかし十分に食事がとれない中で、さらに定期的に悪夢が襲ってくる彼女は痩せこけており目の下にはクマができてしまっていた。
ランドルは兄として妹を抱き寄せた。これ以上妹を戦場に出したくない。
「いつかお前の力が必要になる。だからそれまで休んでいてくれ。」
「リーダーにそこまでお願いされたらしょうがないねえ。じゃあ休むとしよう。」
兄の真摯なお願いにライカも冗談交じりに頷いた。




