反乱軍(2)
部下の不始末で面倒な仕事がまた一つ増えたランドルは、その夜宿泊している部屋でライカにひたすら愚痴を言って聞かせていた。反乱軍の仲間の内では絶対的なリーダーとしての役割を期待されていたランドルにとって、自分の本当の姿をさらけ出すことができるのは妹であるライカくらいであった。また、心から信用している仲間が一人もいないという理由もある。
「やれやれ、やっぱり農民ばかりの反乱軍は馬鹿ばっかりだ。俺も含めてな。貴族や商人たちが俺たちを見下すのもよく分かるぜ。」
「でも兄ちゃんはそんな貴族たち相手に連戦連勝じゃない。」
「ばーか。相手が俺たちを舐めてくれているからだよ。今俺たちが相手にしているのは男爵とか子爵のような貴族の中でも下っ端の奴らだ。いかに仲間の足を引っ張るかしか考えていない連中相手は簡単に勝てる。ライカ、お前も居てくれるからな。問題は今からだよ。」
今まで相手になっていた鎮圧軍の兵士たちは明らかに鍛錬不足だ。そもそも素人主体の反乱軍相手と互角でしか戦えないというのは一体どれだけ訓練をしていないのかといいたい。もちろん、ランドルに統率する力があるのも事実だ。しかし、それにしたってあまりにも弱すぎるのだ。きっと伯爵や侯爵の軍隊は違う、、そうに違いない。
「そっか。じゃあ、私も敵将を斬って斬って斬りまくって兄ちゃんの負担を少しでも減らすから。」
胸を張っているライカの頬は痩せている。反乱を起こした時に比べて少し食料の余裕もできたが、彼女の体は痩せたままだった。
しかし、戦力としては反乱軍一の戦士だろう。こんなに強い兵士はきっと討伐軍にもいない。実際、ランドルの作戦はライカの戦闘力頼みのものばかりだ。しかし、ライカはしっかりと成果を出して帰ってくる。この優秀過ぎる彼女ばかりに頼るのは少し危ういような気がした。
「ライカ。」
ランドルは彼女を抱き寄せる。身軽な体はふわっとランドルの膝の上に乗った。
「あまり無理をするなよ。俺に取っちゃあ反乱軍なんてどうでもいい。貴族に殺された父ちゃんが村の代表者だったからみんなが俺をリーダーに祭り上げただけだ。」
「だから」と続けてランドルはライカの美しい金髪を撫でながら彼女の目を見る。
「俺にはお前がいれば何もいらない。」
反乱軍の指導者としては失格かもしれないが、これがランドルの本心だった。ライカは兄からの正直な想いに照れたのか、それとも久しぶりに頭を撫でられたことに照れたのか恥ずかしそうにはにかみながら頷いた。
「うん。、、、私もだよ兄ちゃん。いつかまた家の裏の原っぱで呑気に日向ぼっこできればいいね。」
そう言ってライカはランドルの膝の上から腰を上げる。
「今日は酒はいるか?」
「ううん、いらない。おやすみ。」
そのまま寝室へと向かって行った。
ライカがいなくなった後、ランドルは暖炉の火をボーっと見ながら心を落ち着かせる。反乱軍のリーダーとして心配するようなことは山ほどある。
次に鎮圧軍を率いてくる貴族の士気の能力は?人数は?強いのか?
仮に勝ったら次はどうなるのか?そもそも反乱軍のゴールはなんだろうか。
食料はだんだんと無くなってきている。食料がたくさんある都市を襲撃しようにも、周辺都市は反乱軍に対抗するため防備を固めている。
一体この先どうなるんだ。どうすればいいんだ。
「ああああああああああああああ」
延々と繰り返される思考の渦は寝室からのライカの絶叫でぶち破られた。
”来た”
ランドルは寝室に飛び込むとライカがベッドで苦しそうに悶えていた。
「ライカ!ライカ!」
「ああああああ、、、、、はあはあはあ」
必死にライカを揺さぶるとライカは目を覚ました。この状況を分かりやすく説明するために正確に言えば目を覚ましたことで、文字通りの悪夢から解放されたのだ。
「ライカ!大丈夫だ。よしよし、いい子だから。」
「兄ちゃん!兄ちゃん!兄ちゃん!兄ちゃん!兄ちゃん!兄ちゃん!」
ランドルが抱きしめると、ライカは汗びっしょりの体でランドルにしがみついた。涙と汗でびしょびしょになった顔をランドルの胸にうずめて喚く。
「怖くない。怖くない。大丈夫だよ。安心しろ。夢だ。夢だから。」
「はあはあ、、、はああ」
部屋の外が騒がしくなる。ライカの絶叫を聞いて仲間たちが駆けつけてきたのだろう。
「ランドル様!?」
「大丈夫だ。いつものだ。」
ランドルは扉の外に声をかけて駆け付けた仲間たちを全員返した。今日初めての仲間にとっては何が起こったのか理解できないと思うが、慣れている他の仲間たちが代わりに説明してくれるだろう。
ランドルはコップ一杯に酒を注いだ。男でも一口で酔ってしまうようなうんと強い酒だ。
「さあ。これを飲め。一気にな。」
「あいぁおせはろぁそいし」
「うんうん。大丈夫。大丈夫。」
意味不明なことを喚きたてるライカの背中をさすりながら落ち着かせていると、やがてライカは寝息をたて始めた。
こうなるのなら初めから無理やりにでも酒を飲ませるべきだった。
まだ少女であるライカに強い酒を飲ませるのは体に毒であろうからついつい躊躇してしまうことが多いが、いつも後になって後悔してしまう。夢であっても恐ろしい思いをした妹に対して申し訳ない気持ちが溢れてしまう。
悪夢を見始めたのは父の処刑後からだ。ライカによれば、悪夢といってもいつも内容が思い出せないらしい。ただ恐ろしいことだけは体が覚えているそうだ。
以前は月に数回程度だったが、最近は週に1回はうなされるようになって頻度が多くなってきている。
医者に見せても聖職者に相談しても具体的な治療はできていない。聖職者に至っては悪魔にとりつかれたと言い出してライカを殺そうとする始末だった。なので最近は悪夢に襲われたら酒を使って無理やり眠らせている。体に良くないとは思いながら、悪夢を見させるよりはましだと思うのだ。
ライカの体は休まらない。連戦続きなうえに悪夢によって睡眠すら満足に取らせてもらえない。早く何とかしなければならない。
「お前だけは何としてでも守る。たった一人の俺の家族なんだから。」
疲れ切ったライカの寝顔を見ながら、ランドルはそっと呟いた。




