討伐軍:テュールら(7) 戦い
ルノーが他の貴族に対して援軍を要請した後も、ライカが率いる先遣隊との激しい戦闘が続いていた。しかし、状況が立つにつれて圧倒的な数の優位を誇る鎮圧軍が乱れてくる。
「ルノーさまああ!まもなく敵に包囲網を突破されます!」
「バカな!?相手はたったの5百程度だぞ。こちらは何千人いると思っているんだ!」
ルノーは信じられず、半分パニックになっていた。
今度は反対側で兵士たちの怒鳴り声が聞こえる。城に立てこもっていた反乱軍がライカ達を補助するために城から出撃してきたのだ。
「城からも敵が出てきました!このままではわが軍は挟み撃ちにされてしまいます。」
「ルノー様。一旦退却しましょう。」
部下たちが口々に退却を進言する。
「くそっ。だいたい敵の援軍を迎え撃つはずだった司令官は何をしていたんだ!しっかりと仕事を果たしていれば俺がこんな目に合わなくて済んだのに。」
ルノーは今回の戦いの責任を他の司令官に感じていたが、今は敗因探しをしている場合ではない。城の中と外側から挟み撃ちにされる前に一刻も早く撤退をする必要があった。
「全軍、いったん退け!距離をとるぞ。」
ルノーが軍を引き上げるとライカはそれ以上追わず、城に入って反乱軍と合流することを優先させた。
こうして、ルノーはライカたち援軍の先遣隊の入城を許してしまったのである。
反乱軍の大歓声に迎えられながら堂々と入城していくライカを遠くから眺めながら、ルノーは血が滲むほど口を噛みしめていたが、がっくりと肩を落として陣地へ戻る。
陣地へ戻ろうとするルノーの目に飛び込んできたのは、他の貴族家の司令官たちの援軍だった。今来たばかりといった様子ではない。明らかに少し前にやって来ていた。ご丁寧に整えられた陣営を設置してルノーを出迎える。
彼らは待っていたのだ。ルノーが失敗するところを。だからわざわざ近くまで来たのに戦闘に参加してくれなかった。ルノーの頭に血がのぼる。
鎮圧軍においてルノーの次に位が高いペインが下品な笑みを浮かべながらうやうやしく出迎える。
「おやおや、ルノー様。敵の援軍が城に入ってしまいましたぞ。我々が協力して敵を包囲していたというのに。この数週間の努力が水泡に帰しましたな。」
「これはペイン殿。そこまで来ているのだったら、助けに来て頂ければよかったのに。私が敗走するのがそれ程見たかったのですか?」
苛立ちをぶつけるルノーに対してペインも反論する。
「貴方が援軍を頼んだのでしょう。わざわざ担当の日でもないのにやって来たのですぞ。何ですかその言い草は。」
口論を始めた二人の間に他の司令官が仲裁に入り、両者を抑える。
「まあまあ。しかし、ペイン殿の言い分ももっともですぞルノー殿。貴方は敵の援軍を城に入れたことに対する責任を取ってもらわないと。」
責任という言葉にルノーの眉がピクリと上がる。
ミシガン子爵家から派遣された以上、自分の失態は子爵家の失態と同じことだ。しかし、領主に迷惑をかけて顔に泥を塗ることはあってはならない。何としてでも、今回の責任を回避しなければならない。
「待ってください。責任は私ではありません。私は敵の援軍を想定して他の司令官に対策をお願いしました。これは皆さんもご存知のことでしょう。今回の敗北の責任は敵の援軍を防げなかったその司令官にあるはずです!」
ルノーは必死に責任転嫁をした。
しかし、ペインはどうしてもルノーのせいにしたいらしい。ルノーが失脚をすれば、次はペインが指揮官になるのだから追い出したい気持ちはよく分かる。
両者が外から見れば醜い、しかし本人にとっては家名を賭けた言い争いをしている。そんなところへ傷ついた兵士がフラフラと報告にやって来た。
「も、申し上げます!」
司令官たちが一斉にその兵士に注目する。
「反乱軍の本隊が!本隊が間もなくこちらに来ます!!」
「援軍はあれだけではないのか!本隊はどれくらいだ??」
完全に戦いは終わったと思っていたペインが慌てて聞く。
「約6千です!」
「直ちに体勢を立て直せ!迎え撃つ準備をしろ!」
6千ならば鎮圧軍の数で押し切れる。
ルノーは口論を中断し全軍に命令を下した。ペインも緊急事態とあって、ルノーの責任追及はひとまず置いておくことにしたようだ。
わああああああああああ
鎮圧軍が残っている全軍の体制を整えているうちにも鬨の声が近づいてくる。
「く、来るぞ、、」
兵士たちは城の南に生い茂っている森の方を凝視していた。
やがて金髪の男が森から現れる。
続いて徒歩の兵士たちが剣や鍬で武装し、こちらへ向かって来た。
「金髪の男、、名前はランドル。反乱軍の大将だ!」
ライカの兄ランドルで間違いない。
ルノーが大声で叫ぶと同時に、ランドルも剣を抜いた。
「てめえら貴族共をぶっ潰せえええええ!!!!」
「うおおおおおおおおおおお」
反乱軍は一斉に武器を構え、鎮圧軍に突撃を始める。
「怯むな。敵はしょせん農民だ!数もこちらが勝っている。しっかりと態勢を整えて迎撃するぞ。」
ルノーは突撃してくる敵に怯える兵士たちを鼓舞しながら自らも剣を抜いた。
反乱軍は全く躊躇うことなく陣形に突っ込む。
ぶつかった反動で反乱軍の兵士や鎮圧軍の兵士が宙を舞う。
現場はあっという間に乱戦へ発展した。
勢いの反乱軍に対して数の鎮圧軍で抑える。両者ともに全くの互角の勝負であった。
ルノーも一般の兵士に混じって敵を倒していく。
時間にして数十分後、戦っている当人たちは何時間でも戦っているような感覚であったろう。次第に、数で勝る鎮圧軍が押し返し始めた。じりじりと反乱軍を後退させていく。
「よし!このまま押し切れる。」
ルノーは返り血で真っ赤になった顔をほころばせながら叫ぶ。
これで援軍の本隊を押し返すことができたら、さっきの名誉を見事に挽回することができるのだ。ルノーは戦い続きで動かない体に鞭を入れながら必死に戦っていた。
しかし、奮戦しているルノーを遠巻きに眺めていたランドルが不敵に笑う。
「ふっ。馬鹿が、、」
「わあああああああ」
突如、鎮圧軍の後ろの兵士たちから悲鳴が上がる。
「どうした!」
後方の部隊を確認しようと振り返ったルノーは一瞬で状況を理解した。そこには見えるはずがない城が見えていたのだ。少し遅れて部下から報告が入る。
「城から、、、城から敵が出てきました!!挟み撃ちです!!」
「しまった、、」
もともと、鎮圧軍は援軍と城の軍による挟み撃ちを警戒して、少し城から引いたところに陣を構えていた。しかし、今は背中の方向に城がある。ランドルを押し返しているうちにいつの間にか城に背中を向けてしまっていたのだ。誘いだされてしまっていたのだ。
何という不覚、そしてランドルの何という統率力。
陣営が崩れないように少しづつ後退させるなんて並みの司令官には無理だ。しかも、戦いは素人の農民の反乱軍を率いてやってのけた。恐ろしい統率力である。
「敵は挟み撃ちにあったぞ!!今だ突撃ーーーーーー」
ランドルはとどめを刺しに来た。再び自らが先頭に立って鎮圧軍に突っ込む。
一方の鎮圧軍は浮足立ってしまった。
「落ち着け!まだ数はこちらが有利だ!」
必死に兵士たちを鼓舞するルノーに無情な報告が突き付けられる。
「申し上げます!左翼を担当していたペイン殿が撤退しました!」
「なんだと!?」
貴族の結束は脆い。自分の兵士を犠牲にして他の貴族の兵士を助けるものなどいない。今、ペインがさっさと一抜けしてしまった。一人が抜けると、二人三人と抜けていく。
ルノーは頭が真っ白になった。
敗北、責任、家名に泥を塗る、主人への迷惑、味方の逃走、、、、
ぐるぐると目が回る。
「このままでは総崩れだ。、、、いや、もう総崩れになっているか。」
ルノーは戦場で自嘲気味に力なく笑う。
ミシガン子爵家に申し訳ない。まてよ、今ここで死んだら私は生きて責任を追及されなくて済む。
「ルノー様!」
ルノーが顔を上げると、いつの間に突破したのか、目の前には剣を突き出して突っ込んでくるライカがいた。ルノーには抵抗する気力はもうなかった。
「鎮圧軍の大将をライカが討ち取った!!」
鎮圧軍の大将が討ち取られ、大勢は決した。
残って戦っていた他の貴族たちの軍も慌てて逃げ出す。
こうして、再び鎮圧軍は敗北したのだった。




