討伐軍:テュールら(3)
移動を初めて数日、ウルトからの報告で前線に到着したことを知ったテュールは見晴らしのいい丘に陣を構えた。そして、食料や物資を運ぶ馬車を押してきた冒険者たちにも休憩を命じた。
冒険者たちの面倒はミーアに任せて、ハルと共に丘の頂上へと移動する。丘の上からは攻略目標の城が良く見えた。すでに鎮圧軍と反乱軍の激しい攻防戦が始まっていた。鎮圧軍の兵士たちが下から矢を放ちながらハシゴを使って城壁を登ろうとしている。一方で農民たちが城壁から石を投げ落としたり、ハシゴに火を付けたりしていた。
テュールはハルに実践授業を行うことにした。戦場に出るのはおそらく初めてであろうが、とても冷静な表情で戦いの様子を見ている。
「おお~やってるね。ハル。あの戦況を分析してみろ。」
「うん。」
ハルはしばらく戦いの様子を見ながら自分の意見をまとめていたが、一つ頷いて自信があるように話し始めた。
「結論から言うとこのままでは決着はつかない。膠着状態になる。」
「理由は?」
「理由は簡単。鎮圧軍の兵力不足やね。今回は1万の鎮圧軍が参加しているけど、あのくらい大きな城を落とすには2倍は必要。」
「反乱軍の兵力は考えなくていいのか?」
「基本的には考えなくていい。あれくらい城壁が高くて扉が丈夫な城だったら、ハシゴは少しずらせば倒れるし、城門が破られることはない。3千人いれば防衛は何とかなるやろ。」
「なるほど。よく見えているな。」
テュールはうんうんと頷いた。現状の分析についてはハルと同じ意見である。もちろん絶対の正解かはわからないが、現状をよく見ていると言っていいだろう。
続いて尋ねる。
「じゃあ、ハルが司令官だったらどう攻める?」
「何もしない。」
「何もしないとは?」
「ただ包囲するだけ。いつか食料がなくなるから、援軍を警戒するだけでいいと思う。」
「ふむふむ。」
テュールは満足して頷く。
破れない城を無理に破らなくてよい。豊富な兵力を使って援軍を追い返していけば、城は飢えて勝手に自滅する。食料をちらつかせて降伏を促せば、自分から城門を開けてくるだろう。
なんだ分かっているじゃないか、こいつ。
だが、手放しで褒めると成長しないような気がするし、何より調子に乗りそうだから少し反論を入れておく。
「あれくらい大きな城には立派な食糧庫があるんだ。食料が満杯だったら何もしなくても1年は持つぞ。」
てっきり褒められると思っていたのが反論されて、ハルは不満そうに口をとがらせる。
「でも農民たちは食料に困って反乱を起こしとるわけやろ!だったら食糧庫にはほとんどないに違いないんじゃ?」
「真っ先に狙われる城だから、食料を多めに回しているかもしれないぞ。」
ハルはそこまでは考えていなかったのだろう。黙り込み少しシュンとした。テュールはここぞとばかり、少しフォローを入れつつ反省点を挙げる。
「なるべく『だろう』とか『違いない』といった不確定な希望的観測はやめろ。もちろんスパイを送るなどして正確な情報が分かったら、ハルの考えた戦法で全く問題はない。」
「じゃあテュール様はどんな戦法をとる?」
「まず火を放つ。城の中までは燃えないだろうが壁周辺は制圧できる。そこからハシゴで兵士を送り込んで城壁を占領する。あとは分かるな?」
「理想論やね。」
ハルはぷいっと顔を膨らませながら反論した。
「火の勢いだって天候とか風に左右されるし、農民たちがうまい具合に消火するかもしれんやろ?」
「まあ、確かに。だが、ここが指揮官の腕の見せ所というわけだ。」
テュールはハルに促して冒険者たちが立てている陣営へ戻りながら言った。
「同じ方法でも指揮官によってうまくいったりうまくいかなかったりする。その場の状況やハルが言った天候などの条件によって柔軟に対応することができるかどうかというところだな。まあ、今回の戦いでの俺の統率力というのを隣で見ているがいい。」
今回のテュールたちの軍は、物資の供給という役割しか与えられていない。しかし、現在の戦況を見るに、戦線が膠着する可能性が極めて高い。この場合、重要になってくるのは兵站、つまりテュールたちである。戦いになれていない冒険者たちを率いながら、敵からの襲撃に耐え、仲間に物資の供給をし続けなければならない。このような難しい立場において、いかに司令官としての手腕を発揮することができるかテュールは張り切っていた。




