討伐軍:テュールら(2)
とりあえず、司令部から舞台に戻ってきたテュールはミーアを呼んだ。ミーアは今回の戦いにおいて、中隊長の役割を期待している。ほとんど顔を合わせたことがないテュールよりも、日頃から他の冒険者たちとコミュニケーションを取っているミーアの方が、冒険者たちの統率に適しているからだ。テュールがミーアに指示を出し、ミーアから冒険者たちに伝えてもらうことにする。
「反乱軍はここから40キロほど南にある城を占領して立てこもっている。反乱軍の支配地域の一番最初にある城だ。鎮圧軍はまずこの城の陥落を目標としている。」
「なるほどっ!では我々はこの城を責める鎮圧軍の後ろにこびり付きながら、食料と物資を補給してあげればいいのですね。やはり、たくさんの食料と重たい武器を積んだ馬車は移動速度も遅く、軍から遅くなりがちです。孤立した補給部隊なんかは番犬がいない豚の群れと同じようなものですから、反乱軍だけではなく山賊や流民たちの格好の標的となってしまいます。できるだけ、本隊から遅れないように行軍することが大事でしょう。」
ミーアは自作の折り畳みの椅子を設置して、一人で椅子に座りながら元気よく返事をした。上官が立っているのに自分だけ座るのは、軍隊上がりのテュールにとってはとんでもなく失礼なことであるが、冒険者の生態についてよくわからないため何も咎めないことにした。それに、そんなに堂々と座られているとこちらが間違っているような気もしてしまう。
とりあえず話す内容に集中して聞いていると、なかなかに良いことを言っているので頷いておく。やはり、いろいろな欠点があるものの能力はとても優秀なようだ。
「ミーアその通りだ。これは私の軍人時代の話なのだが、、」
だが、テュールの言葉はまたしてもミーアに遮られる。
「ああっ!そういえばテュール様は王国の軍人出身でありましたね。てっきり弟のアーク様と同じ商人出身とばかり早とちりをしてしまいました。冒険者のわたくしの忠告も、軍人であるテュール様にとっては教師に勉学を教えるようなものでありました。これはこれは大変失礼いたしました。」
「、、いや。謝ることはない。」
テュールは完全に調子を崩してしまう。
ひたすらにしゃべって、こちらが返事をしようとするとそれさえも遮られてまた話される。ミーアを派遣してきた姉のイアンナの意地悪い笑顔が浮かんできた。
先ほどからテュールの中でのミーアの評価がぐるぐると変わり続ける。
そんな中、外で情報を収集していたウルトが入ってきた。
「テュール様。貴族たちの鎮圧軍がそろそろ出発するっす。準備をお願いしゃす。」
「よし。全員出発準備だ!」
テュールは気を取り直して待機していた冒険者たちに出発を命じた。
とりあえず、いつものように教団員であるウルトを偵察に派遣する。そしてテュールとハルが先頭で、ミーア最後尾を受け持つことになった。
最初はミーアを先頭にしていたのだが、ひたすらに話しかけてきてテュールの頭が爆発しそうになってきたのでハルと交代させたのだった。
移動しながらテュールはハルと久しぶりの二人きりの会話をする。久しぶりとはいってもここ数日が準備に忙しくてできなかっただけなのだが。
「ハルは軍人学校でどこまで習ったんだ?」
「戦術の授業はほとんどやらんかった。剣術と槍術をマスターしただけ。」
ハルは在学中にテュールを追ってきた。そのため、学校を卒業しているエリートの軍人ならば習っているようなことを知らないということもある。テュールは学校や地元に何も言わずに勝手についてきたハルを叱り、一旦都に帰らせてた。しかし、ちょうどその間に旧ウォーデン領がイワン侯爵の襲撃を受けてしまった。
それからハルは素知らぬ顔でミカンダにまでついて来た。本来ならばしっかりと勉強してこいと追い返さなければならないのだろう。しかし、テュールの方もウォーデン家の深刻な人材不足から、ハルの忠誠に甘えてるような形になってしまっている。
「じゃあ指揮官の能力は実戦で身につけていくしかないな。」
「うちはテュール様と一緒じゃないと戦わん。テュール様の副官のままでいい。」
「副官は司令官に何かあった場合は代わりに指揮をとるんだから、指揮官の能力もいるんだからな。」
しかし、ハルは前を向いたまま不満そうに首を振った。
「テュール様に何かあったら後追いするけん。」
テュールは思わずハルの方を見る。
風に吹かれて短い髪に飾りのようについているリボンがゆらゆらと揺れている。軍人学校時代は女の子からも大変モテていたという噂も信じられるくらい凛々しい横顔からとんでもない発言が飛び出たものだ。
テュールはため息をついて言った。
「重いよお前。俺が結婚したら婚約者刺しそうだな。」
「別に男としてはどうも思ってない。」
「あっそう。」
即答したハルにテュールは相槌を打つしかできなかった。もちろん心の中は嵐のように動揺している。
えっそうなのか、、、学校を辞めてまで追いかけてくるものだから、てっきり俺のことを好いてくれているのかと思っていた。確かに「好き」と直接言われたことはない。だけど、普通は俺のことを想っているからこその行動ではないか。
これではまるで俺が自意識過剰の哀れな男ではないか。
「うそ。」
いろいろと思い返して自分の自惚れに悶えているテュールの方を振り返り、ハルは真顔で言った。
「、、、、、お前やりやがったな。」
いつの間にこんなに男の心をもてあそぶような女になっているのだ。見事にやられてしまった。女に、それも年下にからかわれた経験があまりないテュールは恥ずかしさを誤魔化すために舌打ちした。
ここはハルのたった一つの残念な欠点を突いて反撃する。
「お前、胸がないくせに女みたいなことを言うな。」
テュールが言い終わらないうちに背中を思いっきり蹴られた。
馬にまたがりながら蹴るとは器用なことである。




