討伐軍:テュールら(1)
テュールが鎮圧軍の拠点に着いたとき、拠点の中は新しく派遣された兵隊たちで大騒ぎだった。様々な服を着た各地の兵士たちでごった返している。
「ロンドン男爵家がやられたらしい。」
「指揮官は一人も帰ってこなかったそうだ。」
「捕まったら容赦なく殺されるらしいぞ。」
嘘か本当かわからない真偽不明の情報が兵士たちの間で飛び交う。上層部が何も言ってこないため、兵士たちは疑心暗鬼になり、ますます反乱軍との戦いに怯えるのであった。
鎮圧に手こずる王国側はついに周辺の貴族たちに一斉に動員をかけた。それまでのように近い貴族にちまちま命令を下すだけでは追いつかないのである。いい加減に鎮圧しなければ農民反乱の波は王国中に広がってしまうだろう。それは最悪の事態と言っても良い。そのようなことがないように、全国の農民たちに希望を与えないように、早急に潰す必要があった。
テュールは連れてきた冒険者たちに待機を命じて、司令部まで挨拶に行く。司令部は拠点となっている都市の中心にある教会であった。
「ウォーデン男爵家から派遣されましたテュールと申します。」
窓から外を望みながら優雅に煙草をふかしていた人物が振り返る。
「今回の鎮圧軍の司令官となったルノーだ。ミシガン子爵家から派遣された。」
あちらこちらから派遣された貴族たちがいるだろうと気が重かったが、司令部には一人しかいなかった。
鎮圧軍の司令官は子爵家か。ということはこの鎮圧軍には伯爵家以上の貴族は参加しないということか。あいつら高位の貴族はいつもそうだな。いろいろと危機感を煽って貴族の義務とばかりに責務を任せる一方で、自分たちは何も負担を負わずに義務を放棄する。まあ、悔しかったら高位の貴族になってみろと言う話なのだろうけれど。
テュールは心の中で毒づいた。
司令官のルノーも自分の責任の重さに苦笑する。
「いやあ参ったよ。前の軍を率いたロンドン男爵家は指揮官が真っ先に殺されたというじゃないか。それもまだ子供の少女に。えっと、なんていったけ?戦場の、、」
「”戦場の稲妻”ですね。自分も噂には聞いています。接近戦では巧みな剣捌きで圧倒し、遠距離からは短剣を投げてくるそうな。」
「今やロンドン男爵家は子供に大敗したということで貴族の間じゃ笑いものだ。」
農民の反乱軍相手に壊滅したロンドン男爵家は面目が丸つぶれだ。それでも、他の貴族も前に鎮圧失敗しているので分散されているが。
反乱鎮圧に失敗した貴族の中には婚約が決まっていた子息の縁談が破談になったという家もあるらしい。農民の反乱軍なんて勝って当たり前、負けたら笑いものの貧乏くじなのだ。
「私は笑えないよ。次は我々の番だからな。私はミシガン子爵家、君はウォーデン男爵家の家紋を背負って鎮圧にあたるわけだ。今までの貴族たちのように鎮圧できずに家紋に傷をつけるのだけは避けようではないか。」
「おっしゃる通りです。自分も全力で鎮圧にあたりたいと思います。」
「まあ、あらかじめ言っていたとは思うが、君には私を含めた他の貴族たちに物資や食糧を供給する任務を任せる。特に食糧は兵士たちの生命線だ。くれぐれも頼んだよ。」
「お任せください。」
テュールは頭を下げて司令部を後にした。
ルノーは子爵家の人間だが、特に男爵家相手だからといって尊大な態度に出ないところにまずホッとする。貴族同士の面倒くさい関係を忘れることができる環境ならば、テュール自身、戦いに集中することができる。
問題は反乱軍だ。
テュールはやはり農民が相手だからと楽観的に考えていた。”戦場の稲妻”というのもあくまでうわさ程度にしか聞いたことがない。今まで失敗してきた他の貴族の連中は自分と違って戦の素人だと見下していたことも大きい。
しかし、今回の戦いはウォーデン男爵家の家紋を背負って戦うのだ。油断して農民相手に負けるなんてあってはならないことである。
テュールは油断する自分に活を入れ、気を引き締めて冒険者たちの待つ場所へ戻って行った。




