討伐軍:ロンドン男爵家(2)
「イノーア様!一旦退却して立て直しましょう。」
アーレイは包囲されて半分パニックになっている主人に向かって怒鳴った。農民たちの包囲網はどんどんと狭まっていき、兵士たちが次々と倒れていく。
「しかし、農民たちに包囲されている。どうやって脱出すればいいか、、」
「力技で突破するしかありません!さあ、剣を抜いて。突撃しますよ!」
アーレイは怯えているイノーアを励ましながら自身も剣を抜いて準備をした。今まで戦闘経験がなく、全くの素人である主人を連れて包囲網を突破する。かなりの足手まといになるだろうが、せめてイノーアだけでも無事に連れて帰らなければならないのだ。甥が農民との戦いで戦死してしまうなんて主君であるロンドン男爵に顔向けができない。
しかし乱戦になっている戦場において、イノーアが着ている貴族らしい煌びやかな服装はよく目立ってしまった。
派手な服を着ながら、見るからに戦に慣れておらずあたふたしている様子は紛れもなく貴族そのものであった。そんな醜態が包囲している鎮圧軍をじっくりと観察していた”戦場の稲妻”ことライカに見つかってしまう。
「ふうん。あの馬に乗っているのが指揮官か。」
ライカは目を細めて狙いを定めながら胸ポケットに入っている短剣を取り出した。
「行きますよイノーア様!、、、イノーア様?」
アーレイが突入する場所を見定め、覚悟を決めてイノーアの方を振り返る。しかし、主人はさっきまで居たところにいない。乗り手を失った馬だけがぽつんと立っていた。
下に目をやるとイノーアが倒れていた。
金色の鎧が血の赤に染められている。胸に剣が突き刺さっていた。格好だけで鎧としての仕事を果たしていないのか、深々と突き刺さっていた。
イノーアは即死であった。何が起こったかわからないような顔をして死んでいた。
アーレイは眩暈がした。主人を死なせてしまった。ロンドン男爵に何と弁明しようか。
しかし、いずれにしてもまずは自分が生き残らなければならない。信じられないが現実を受け入れるしかないのだ。
アーレイは急いで残った兵士をまとめる。兵士はすでに半分近くまで減っていた。
確かに農民たちに包囲されているが、実力は戦い慣れている鎮圧軍の兵士たちの方が上だ。士気を取り戻して一点集中すれば突破は容易だろう。
「全軍退却!退却だ!」
陣形を整えてアーレイは突破の用意をする。
その時。
「おーい!」
突然少女の声がした。
アーレイは自分に向けられた声に反射的に振り返ってしまう。
その声が“戦場の稲妻”の声だと理解したときには、胸に短剣が突き刺さっていた。堅い鎧を綺麗に貫き、みぞおちにすっと剣が入り込んでいた。
アーレイは声もなく倒れる。
「ライカが敵将を討ち取った!」
農民たちの歓声が村中をこだました。
これで大勢は決まった。
指揮官二人を失った鎮圧軍は途端に混乱する。バラバラに農民の包囲網に突っ込んでいっては次々と倒された。
実力は鎮圧軍の方が上のはずだが、勢いというのはこれほど重要なのだろうか。戦が素人の農民たちが、鎮圧軍を追いかける側になった。その中でもライカは剣を投げまくった。体中に巻き付いている帯から短剣を取り出しては兵士に投げ刺す。背中を見せて逃げる兵士なんか余裕で狙うことができた。
数時間後、反乱軍による「狩り」は終わった。結果は反乱軍の圧勝であった。鎮圧軍は運が良かった僅かな兵士が逃げ出すことに成功しただけであった。指揮官はすべて討ち取られ、鎮圧軍が持っていた武器や食料は根こそぎ奪い去られた。
反乱軍の城はまたもやライカが敵将を討ち取ったということで歓声が沸き上がっていた。さらに鎮圧軍から大量の武器や食料を鹵獲することができたため、反乱軍の兵士たちは口々にライカを讃えて大騒ぎであった。
「兄ちゃん帰ったよ。」
指令室に意気揚々と入っていくとランドルが妹を待っていた。
「おう。よく帰ってきた。」
ランドルは椅子から立ち上がり、妹の頭を撫でて、返り血に染まっている妹にふき取る布を渡した。
「一応、援軍を用意していたんだけどな。ライカに助けは必要なかったようだ。」
「まあね~このライカ様にかなう敵はいないってことよ。」
兄に褒められたライカは嬉しそうに鼻を膨らませる。にこやかに話す兄妹の部屋には鎮圧軍の司令官から奪い取った宝刀や旗が戦利品として飾られていた。




