討伐軍:ロンドン男爵家(1)
ウォーデン家に対して出兵命令が出されて、テュールが冒険者たちを臨時の兵士として集めている時、既に反乱軍と鎮圧軍の戦いは本格的に始まっていた。
反乱軍が占領している城。
反乱軍のリーダーであるランドルは綺麗な金色の髪をなびかせてドカッと椅子に座っていた。
そこへ、偵察に出ていた部下が慌てた様子で部屋に入ってくる。
「ランドル!新しい貴族がやって来た。」
「敵の規模は?」
ランドルは特に驚いた様子もなく、目線をあげないまま慣れたように聞いた。
「目で見たところでは約6千だ。」
「じゃあ4千で足りるな。ライカ!」
ランドルが大声で名前を呼ぶと隣の部屋から少女が入ってきた。ランドルと同じ光に美しく反射する黄金の髪をしている。
「呼んだかい兄ちゃん」
「6千の新しいお客さんだ。動ける奴らを4千人連れてお迎えしてやれ。」
「あいよ~」
少女はのんびりとした口調で返事をした後、鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。
*****
一方の鎮圧軍。
その一部隊にはロンドン男爵家からイノーア=ロンドンが派遣されていた。しかし、イノーアは他所の反乱の始末のために自分が派遣されることが心底不快なようで、それが伝染しているのか鎮圧軍の士気もあまり高くはなかった。
「まったく、、なんで俺たちが他所の領地の農民反乱を鎮圧しないといけないんだよ。」
「イノーア様!他の貴族たちが鎮圧に失敗しているからロンドン男爵家にもお鉢が回ってきたのですぞ。あまり油断してはいけません。」
イノーアを補佐するために同行しているベテラン軍人のアーレイがイノーアを注意する。相手が農民だろうが今までの鎮圧軍が鎮圧に失敗してきている以上、こちらも油断なく任務にあたらなければならない。
しかし、イノーアはアーレイの注意があった後も、馬の上でぐちぐちと文句を言いながらダラダラと行軍をする。
「叔父上もきっぱりと断ればいいのに。どうして他の貴族の尻拭いをさせられなければいけないんだ。百歩譲って軍隊を派遣するにしても、どうして俺が司令官なんだよ。」
「やはり領主の親戚である方が鎮圧軍に参加してくれた方が、王国へのアピールになりますからね。」
「ああ、、面倒くさいな。アーレイ。俺は名前だけ貸してやるから、全部お前に任せる。」
「かしこまりました。」
ついには指揮権をアーレイに丸投げする始末である。そんな指揮官を見て兵士たちもやる気になるはずがなく、ダラダラと歩いていた。
そうこうしているうちに、ロンドン男爵家から派遣された鎮圧軍一行は村に入る。正確には「村だった」ところと言うべきだろうか。完全に荒廃しきっており、動いているものは死体をあさる動物だけ。既に骨が見えている死体を野鳥が食べている
反乱がおこってから1か月ほど経過しており、反乱軍と鎮圧軍の戦いでこの地域はボロボロだった。秩序がなくなったこの地域では、住民は逃げ出すか、殺されるか、反乱軍に加入するかしかない。逃げ出したところで飢えて死ぬしかないので、実質は反乱軍に加入しなければ死ぬしかないのであった。
兵隊たちは死体を見ないように目をそらしながら移動する。早くこんな村を抜けたいと自然と小走りになっていた。
そんな中、ボロボロの廃屋からフードを被った子供が一人飛び出してくる。そしてよたよたと軍隊に近づいてきた。
「兵隊さん、食料を分けて下さい。」
「驚いた。まだ生きている住民がいたとは。」
まさかこんなに荒廃している村に生き残りがいるとは思わなかった兵士たちは、その子を亡霊を見るような眼で気味悪そうに見た。
「食料をください。」
「農民にやる食料なんてない。」
か弱い声で媚びるように食料をねだってくる子供をイノーアは冷たく突き放す。
「お願いします、、お願いします、、」
「おい。さっさと追い返せ」
土下座をしながら必死に食いついてくる子供に苛立ったイノーアは先頭にいる兵士に向かって怒鳴った。イノーアの命令を受けて、兵士が仕方がなく追い立てるために棒を持って近づく。
次の瞬間、その兵士は崩れ落ちた。
いつの間に斬られたのか、首がなくなっているその兵士の隣に綺麗な残身で剣を抜いているその子供の姿があった。
「なっ」
子供はあまり剣の早さに事情が呑み込めていない鎮圧軍の兵士たちに、そのまま斬り込んでくる。数人をあっという間に斬った後、ぴょんと飛んで馬に乗っている部隊長を一瞬で切り倒した。近くにいるというだけで指揮官クラスの部隊長があっという間に斬られたことに兵士たちは衝撃を受ける。
「しまった!そいつは反乱軍だ!早く取り押さえろ!!」
アーレイの大声で我に返った兵士たちが一斉に襲い掛かる。しかし一人、また一人と返り討ちにあった。体が小さくて身軽な子供相手になかなか思うような攻撃ができない。子供を相手にして無意識に全力を出せないのも良くなかった。
激しい戦闘を繰り広げていた子供の頭からかぶっていたフードが脱げる。黄金に美しく輝く金髪が露わになった。
「あ、、あいつは、、”戦場の稲妻”か!?」
その髪を見たアーレイはすぐに相手をしているのがとんでもない化け物だということに気が付く。
今まで鎮圧軍の指揮官が反乱軍のたった一人によって何人もやられている。その者の目撃情報は子供であること、少女であること、そして美しい金髪を持つことであった。
金髪をなびかせて戦場を駆け抜け、通った後には血の雨が降る。
”戦場の稲妻”と呼ばれているその悪魔にこんなにも早く出会ってしまうとは、、
アーレイは迷ってしまっていた。
撤退するか。彼女に出会ってしまったのだから一旦逃げるのも可能性としてはある。しかし、いくら最強の少女だとしても敵は一人だ。こちらの大人数で対抗すれば多大な犠牲を出しながらも勝てるだろう。それに逃げるのは指揮官であるイノーアの名前に泥を塗ってしまうことにもなる。
しかし、戦場で迷ってしまったことが命取りになってしまう。
「よし!全員突撃!!!!」
「うぉおおおおおおおお」
少女の掛け声に呼応するかのように、村中の家屋から武器を持った農民たちが飛び出してきた。
「まずいぞ」
イノーアに油断するなと言っておきながら、無意識にアーレイ自身も農民を見下していた。伏兵を警戒して、もっと慎重に村に入るべきであった。
しかし、後悔しても時すでに遅し。全軍が村の中に入っていた鎮圧軍は完全に農民たちに包囲されてしまっていた。




