出兵
1週間後、テュールたちが予想していたようにやはり動員命令がきた。ウォーデン家はミカンダ地方の開発に忙しいことも考慮してもらえた結果、討伐軍の後方支援を担当することになった。
討伐軍のために食料を運んだり、武器を修理したりするのは冒険者でもすることができる。そのため、テュールは冒険者たちによってウォーデン軍を構成することにした。
第4都市の冒険者たちは開発に忙しく、農業が主流の第2都市は冒険者がほとんどいない。そこでイアンナに連絡をして、第3都市の冒険者を集めてもらうことになった。
イアンナに連絡をして1週間後、第1都市の役所の扉が勢いよく開く。
「第3都市冒険者代表の3級冒険者ミーアであります!志願してきた冒険者100名を連れて参上いたしました。」
予想よりも早く来た。
冒険者を率いるミーアという女冒険者は、相当な実力者だとイアンナの折り紙付きだ。ミーアはこの若さで3級の位を持っていて、とにかくすごいらしい。テュールは冒険者のランクについてよくわかっていない。しかし、アークを追いかけて旧ウォーデン領からやって来て、第4都市の町長になったリシューがあの若さで2級を持っていることが異次元だと言われていることに比べても立派なものだ。
テュールは冒険者たちに早速あいさつをする。
「軍務官のテュールだ。第2都市は収穫期、第4都市は都市開発で忙しく、第3都市の冒険者である君たちを召集することにした。現在、王国のとある場所で農民反乱がおこっており、ウォーデン家もそれの鎮圧のために協力することになった。我々の任務は鎮圧軍に対しての物資の供給だ。戦いに参加するわけではないから冒険者諸君も安心してほしい。」
冒険者たちから一歩進み出て、ミーアが大げさに敬礼をしながら答える。
「かしこまりました!!冒険者と言っても我々の多くはミカンダ地方から出たことがありません。今から向かう場所ではどんな景色が見られるのか、どんな人々に会えるのか、そしてどんな出来事が待ち構えているのか、全く予想すらできないのであります。しかし、だからこそ楽しみ、だからこそ待ち焦がれるのであります。このミカンダの境界にある大きな山脈を越える。それだけでわたくし、卒倒しそうなくらいに感動しております。テュール様!われわれ冒険者には不慣れな任務であるがゆえにご迷惑をお掛けすることもあるかもしれませんが、どうか戦いというものを一から教えていただければと思うのであります。」
「おお、、よ、よろしくな。ミーア」
テュールはミーアがあまりにも長々と話し始めるものだから、その話の長さに圧倒されてしまった。ミーアの後ろでは、冒険者たちが「また始まったよ」とばかりに苦笑している。どうやらミーアはこの話の長さがいつものことらしい。イアンナもミーアを送ってくるのならあらかじめ言ってくれればいいのに。
テュールは気を取り直して冒険者たちを大広間に案内した。
「じゃあ、まずはこれを見てくれ。」
テュールが示す壁に目をやった冒険者たちが感嘆の声をあげる。
壁には非常に詳しく書かれているミカンダの地図が貼ってあった。巨大な山脈はもちろん、小さな丘や森まで詳細に描かれている。
「これは、、!山脈と海に囲まれているからミカンダの地図でしょうか??しかし、なんと精巧な地図でしょう。冒険者は簡単な地図と己の経験だけで移動をしますが、これほどしっかりと作られた地図は初めて見ました。」
「うちには優秀な人材がいるんだよ。」
この地図はもちろんタドント夫妻の地図だ。夫妻はミカンダにやって来てからは少数の護衛を連れて地方を巡りながら、詳細な地図を描いていた。この地図は最近になってようやく完成したものであるが、早速使う機会が訪れたというわけだ。
テュールは長い棒を掴んで学校の教授のようにパンと第1都市をさし示した。
「いま、我々はこの第1都市にいる。そして山脈の中で峠になっており、一番越えやすいここを通過して地方から外に出ることにする。」
「承知いたしました。して、農民の反乱はどこで起こっているのでしょうか?やはり、ミカンダにまで援軍の要請が来るということは、それなりにミカンダに近いところで反乱がおこっていると思われるのですが。」
「うん。次はこの地図を見てくれ。少し雑な地図で申し訳ないが。」
ミーアの疑問ももっともである。
テュールは王国の全土が分かる地図を取り出した。
全国を回る商人が使っている地図で、確かにタドント夫妻が作る正確さには遠く及ばないが、大雑把な位置は把握することができる。
「反乱は王国西部、ミカンダ地方から見ると南西部で起こっているらしい。まあ、貴族たちの集合場所になっている都市に行けば正確な場所は分かるのだが。まだ詳しい場所は聞いていない。言われたとしても俺は場所の名前とか詳しくないから分からん。」
テュールは正確な場所を示すことができないため、ぐるぐると丸を書いてさし示した。
「いってからのお楽しみということですね!大いに結構です。われわれ冒険者は毎日毎日決まったことを決まったようにやっているものですから、このような行き当たりばったりの仕事に非常にロマンを感じます!」
「よろしいよろしい。みんな頼んだぞ。」
ミーアは長々と言っていたが、要するにやってくれるらしい。後ろの冒険者たちも延々と話し続けるミーアに苦笑しながらも、彼女に対して絶大な信頼を置いているのが見てとれた。まあ、冒険者たちをまとめるのは彼女に任せてよいだろう。
少し個性的ではあるものの、実力的にはおそらく申し分ないメンバーを揃えて、テュールは早速出発した。




