テュール
ウォーデン家の長男テュールは軍人である。
商人なんかなりたくないとウォーデン家から早々に独り立ちした後、軍人学校から王国陸軍へと加入し、圧倒的な指揮能力と抜群の戦闘センスから若手のホープとして期待されていた。
しかし、自分よりも明らかに才能に劣っている者が、コネで出世していく現状に失望し、わずか24歳で退役。襲撃される直前の旧ウォーデン領に帰ってきたのである。
長女のイアンナは開拓官として第3都市の工業化に専念しており、次男のアークは領主、次女のミネルヴァはアークの補佐をしている中、テュールだけすることがなかった。
もちろん、本人としては軍務官として一刻も早く軍隊を整備し、訓練をしたいとは思っている。しかし、第3都市の工業化や第4都市の開発などで大量の金と人員を使ってるウォーデン家にとって、さすがに軍隊整備にまで回す金はなく、現在は延期状態になっているのである。
かと言って何もしないわけにはいかず、教団から派遣されたウルトとテュールを慕って軍隊から追いかけてきたハルを連れ回しながら、タドント夫妻が作成してくれたミカンダ地方の地図を使って防衛上の弱点を研究したり、都市を回って冒険者たちに戦い方の講座を開いたりしているところである。
弟のアークが地方を駆け回り、都にも出かけて縦横無尽に活動している間も、テュールは地道な活動に終始していた。
あまりにも田舎の領地を急に与えられて、一から開発を行わないといけないのは止むを得ないことではあるものの、テュールはこの地道な活動をしている現状に不満であった。
やはり軍人としては、軍隊を率いて戦場を駆け巡り、勝利に貢献することこそが生き甲斐であり、やりがいでもある。裏方のような仕事をしながらも、テュールの血は戦場を求めていた。
そんな中、ウルトを通じて教団から連絡が入る。それは、アークがハバロフ招集から帰ってきてしばらく経ってのことだった。
「おい、それはマジなのか?」
「はいテュールさん。マジっす。」
第1都市の役所ではテュールとウルトが教団からの新たな情報に顔を突き合わせて話し合っていた。
帰ってきたアークとミネルヴァはその足で第4都市の視察に向かい、イアンナは相変わらず第3都市にいる。
剣術の稽古が終わり、水浴びに行っていたハルがすっきりした表情で戻ってくる。片手には井戸でキンキンに冷やした水筒を持っているが、その水を飲む前にテュールたちの異変に気付いたらしい。そのままこっちへ向かってくる。
「二人ともどうかしたん?」
「ああ。ハルさんもちょうどよかった。実は王国西部で反乱がおこったんっすよ。教団から連絡が入りました。」
ウルトがさっきテュールにした説明をそのままハルにも伝える。
「反乱?」
「はい、農民反乱っす。」
ハバロフ招集で貴族が都に行ったところを狙って、農民たちが反乱を起こしたらしい。確かに貴族は留守にしていたものの、留守を任された部下たちがいつも以上に警戒しているため、普通はこんな農民の反乱なんてあっという間に鎮圧されている。
しかし、今回の農民反乱は今現在でも鎮圧することができていないらしかった。
「今現在近くの貴族たちが鎮圧に動いているんっすけど、なかなか鎮圧できなくて。」
「えっヤバイやん。」
農民に反乱を起こされた貴族は家名に傷が付くので、他の貴族たちにバレる前に自力で鎮圧するものである。しかし、今回は他の貴族たちが鎮圧に協力してもなお、収まらないというのはかなり大規模な反乱なのだろう。
こういった農民の反乱は、他の地方にもあっという間に燃え広がる。今まで我慢していた農民たちの気持ちという油に火が投げ込まれるようなものだからだ。今のままでは抑えることができないと上が判断した場合、さらに他の貴族たちに協力の要請が来ることは十分に考えられる。
「ミカンダもひょっとしたら軍の動員命令が来るかもしれない。」
うんうんと頷きながら聞いていたハルがピタリと停止する。この人は何を当たり前のように言っているんだとでも言うようにテュールを見た。
「軍、、、?そんなのないやん。ウチの領地には。」
「そういうことだ。」
「、、、、、いや、『そういうことだ』じゃないやろ」
あっけらかんと言ったテュールにハルは冷静にツッコミを入れた。




