マリーと祭り(2)
「あら、マリーお姉ちゃん。」
そう言うとマリーは恥ずかしそうに俯いた。
「もう。孤児院のことは水に流してくださったはずなのに。」
「いや、妹が大変怒っていたものですから。」
アークはそう話しながらふと考える。
なぜマリーがここにいるのか。
ここにいるということはやはり貴族の娘か?
いや、日常的に孤児院に世話をしに行っていると言っていた。いつも地方にいる貴族の娘はあり得ない。
他にこの場にいるのは、、、皇族。
ん?そういえば国王の次女の名前もマリー。
いや、まさか。
しかし、言われてみれば気品に溢れ、美しいドレスを着こなしている。
マリー姫は先ほど国王の後ろにいたけれどよく見ていなかった。確かにありふれた名前かもしれないが、今目の前にいるマリーはマリー姫の可能性が高い。
目の前のマリーを国王の次女マリーと考えれば考えるほど様々な状況の説明がついてしまうことに、だんだんとアークは青ざめてくる。
これはまずい。ミネルヴァは皇族に喧嘩を売っていたのか。
アークは内心冷や汗をかきながらも、表面上は冷静に確認をした。
「そういえばご婚約おめでとうございます。マリー姫。」
突然姫と呼ばれてマリーは少し驚いた。しかし、すぐにドレスを掴んで感謝のお辞儀をする。
「あら、私の正体はご存知でしたの?」
「もちろんでございます。」
アークはさも当然というような口ぶりで答える。
「昨日、あなたとあなたの妹に私の考えを批判されましたけれど。」
マリーはからかうようにクスクス笑いながら言った。
まずいまずいまずい
アークはにこにこと笑いながらも汗が流れる。
皇族と口喧嘩をするって反逆罪か?最悪処罰を受けるのではないか。しかし、実際にマリーに口答えをしたのはミネルヴァなのだから、妹だけを差し出せばいいか。いや、さすがに妹の責任は兄の責任でもあるだろう。
しかし、様々な考えを思いめぐらせて葛藤しているアークとは裏腹に、マリーは特に気にしていないように話し始めた。
「でも私は嬉しかったのですよ。」
「嬉しかった?」
「ええ。対等に見られる経験があまりありませんでしたから。」
それはその時は皇族とは知らなかったからなのであるが、せっかく都合よく解釈してもらっているのでそのままにしておく。
気づけばマリーの顔は少し曇っていた。
「みんな私のことをお人形だと思っているのだわ。かわいいかわいいと褒めて自分の思い通りに動いてくれることを勝手に期待する。」
「マリー姫は王宮が嫌いなのですか?」
「ふふっ」
アークの単純な疑問にマリーは少し笑った。その質問を待ち望んでいたかのような、そんな笑顔だった。
「次女のマリーはいい娘」
これは会ったことがなかったアークでも知っている貴族界の常識である。しかし、やはり「いい娘」であり続けるには気苦労も多いのだろう。
無責任に期待してくる周囲に対して愚痴を言っている姿は、彼女の姉のカサブランカと少し似ているような気がした。
「あの子たちには悪いことをしました。私が孤児院に行くのは彼らを救うためではなくて私が救われるためだったのですから。あの子たちを騙してしまった。」
マリーは自虐的に笑う。
「それでも、彼らは救われていたと思いますよ。」
子供を助ける目的ではなく、自分が王宮から離れたいという目的のために慈善事業を行っていたことにとても罪悪感を感じているようである。しかし目的は何であれ、実際にやっていることは素晴らしいことなのであるから、別に責められるようなことはないとアークは言った。
それでもマリーの顔は晴れない。
どうやら、この王宮という場所に住みにくさを感じているようでもあった。まるで自分は王宮から一生出ることができない悲劇の主人公であると思っているようでもあった。
「マリー姫、今は城下町で大きな祭りをやっています。貴族の晩餐会よりも何十倍も楽しいですよ。」
アークは気分転換のために提案をする。
「一緒に抜け出しませんか?」




