前夜祭(2)
「捕まえました。覚悟なさい。私たちだけの時間を奪った罪は重いですよ。」
聞いたことのないようなミネルヴァの冷たい声にヒヤッとする。
ミネルヴァは少年の首根っこを捕まえていた。
「さあ、あなたが手に持っているものを出しなさい。」
少年に問い詰めるが、少年は拳をぎょっと握って拒否する。
「い、嫌だね。もうこれはおいらのだい!」
「もう一度言います。これは忠告です。今すぐ盗んだものを出しなさい。」
「あ、あんたたちは貴族かなんかだろ!ちょっとくらい盗まれただけで大騒ぎするなよ。おいらたち貧乏人に慈悲の心を見せたらどうだい?」
祭りということで大勢の人がいたので騒ぎになってしまう。たちまち大勢のやじ馬に囲まれた。
まずいな。
アークはヒヤヒヤした。完全にミネルヴァは激怒している。盗まれたこともそうだし、被害者がアークだったこともそうだし、何より盗みをして開き直っている姿勢に対してだ。
「私はとてもイライラしているんです。盗まれたことにではありません。せっかくのお兄様とのお出かけでプレゼントを買ってもらい、幸せをかみしめていたところを文字通りあなたがぶち壊したのです。」
そう言いながらミネルヴァは胸元から短刀を取り出した。周囲のやじ馬たちがぎょっとする。
「勘違いしないように言っておきます。盗んだものを返すのはもちろんですが、いまさら返したところで私の怒りは収まらない。本来ならば貴族への無礼ということで死んで償ってもらうつもりですが、まだ子供ということで大目に見てあげましょう。」
観衆たちはほっとした。
貴族の物を盗むなんてその場で切り殺されても文句は言えないが、どうやら優しい貴族だったみたいで良かった。さっさと盗んだものを返せばめでたく騒動は終了だ。
しかし、そんな楽観的なことを思っていた人々は驚愕した。ミネルヴァが短刀を少年の目の前の地面に突き刺したのだ。
「もう二度と盗みができないように小指を切り落としなさい。」
平民が貴族の物を盗んだら貴族の裁量に任せられているが、通常はその場で処刑か、盗んだ方の腕を切り落とすことになっている。小指を要求するのは罰としてかなり軽い方だったが、相手はまだ子供だ。
しかし、ミネルヴァの目は本気だった。
それまで悪態をついて開き直っていた少年はついに泣き出してしまう。
「おいらが悪かった。これも全部返すよ。だから許してください。」
そう言って財布の一つをアークに投げた。スリや強盗対策にいくつかの袋に分けて金銭を管理していたのだが、そのうちの一つを盗まれたらしい。
「まだ子供じゃないか。許してやれよ。」
泣きわめく子供に苛立ちを覚えながら、ナイフを持つことを促し続けるミネルヴァ。大騒ぎの野次馬たちの中にはミネルヴァを非難する者も出始めた。
アークは何とかミネルヴァを引かせようとしたが、ここにきてはミネルヴァの気持ちだけではなく貴族の面子も関わってくる。民衆に非難されて処罰を辞めたとなったら大変なので退くに引けないのだ。また、ミネルヴァの怒りがまだ収まっていないというのもある。
そんな中、野次馬たちを押しのけて一人の女性が割って入ってきた。
「テル坊!どうしたの!?」
「マリーお姉ちゃん、、うわ~~ん。」
テル坊と呼ばれた盗人の少年は女性の顔を見ると、味方が来たことへの安心からかさらに火が付いたように泣き出した。




