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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第3章 領地改革
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第3都市(5)

「アーク様は2つの都市を既に寄ってこられたのですよね?では東へ参りましょう。心配ご無用です!3日もあれば境の山脈にぶつかります。」

「とりあえず地理に明るいミーアに付いて行くよ。」


そんな会話をして出発した。そしてそのまま丸2日走る。その間同じ景色がずっと続きかなり退屈な時間が過ぎる。

幸いミーアは話が好きらしくひたすら話しかけてくるので、退屈もだいぶん軽減されてきているが、それでも同じ景色ばかりで苦痛でもある。


「人気が全くなくなったけど、盗賊とか山賊は出ないのか?」

「はっはっはっ」


今ここにはアークとミーアしかいない。ミーアは冒険者とはいえユリアほどの武闘派でもないだろうからもし賊に襲われたらひとたまりもないが、ミーアは全く気にしないというように笑い飛ばす。


「アーク様は獣がいないのに肉食獣だけがいるとお思いか!金持ちや商人どころか一般人すらいないにもかかわらず賊がいるわけがないでしょう!」

「それもそうだな。前の領地はどこもかしこも金持ちだらけで、人が少ないところには賊が潜んでいたからな。ついついその癖が抜けていなかった。」

「むむむ、、、突然の都会アピールでありますか。わたくし、この世界を冒険しつくすことを人生の生きがいとしておりますゆえ、金や権力には全く興味がありませぬ。ありませぬぞ!」


なにげなく言ったアークのセリフに気になる部分があったようだ。その反応を見るにどうやら少し田舎のコンプレックスを持っているように見受けられる。しかしミーアは全く気にしないと頭をブンブン振って答えた。



それからさらに半日ほど馬を走らせているとようやくはるか向こうに巨大な山脈がぼんやりと見えてきた。ミカンダ地方の東の境界にそびえたつ天然の領境だ。


「おおアーク様、はるか彼方にうっすらと山脈が見えてまいりました。ミカンダ地方を外から守ってくれる天然の壁、頂上は夏になっても雪が融けることは決してありませぬ。しかし、そのことがかえって地方のみんなが外に出ることを阻害しており、この地方で生まれ、この地方で死ぬ人々ばかり!なんとまあ嘆かわしいことなのでしょう。わたくし、冒険者となった時心に誓ったのであります。いつかこの山脈を越えて外に飛び出してやると。」


第3都市から出発して3日近く経とうとしていた。アークは景色の変わらないことも苦痛であるが、だんだんとミーアの長話も苦痛に感じはじめていた。ミーアは疲れたアークが話に反応しなくなると、延々と自分の話を聞かせてくる。別に自慢でもなく、ひたすら他人の日記を読み聞かせされるようなものだった。


そうこうしているうちに、ぼんやりと見えていた山脈はくっきりとし始め、数時間後には山脈の麓までたどり着いた。


「アーク様、山脈に行き当たりました。ここから左に行けば海に行きつき、右に行けば山脈に沿ってぐるっと回る形になり第1都市に行き当たります。」


今はミカンダ地方の東端にいるというわけか。


「じゃあ左に行こう。」


北回りか南回りか選択を迫られたが、北回りに決めた。理由はただ海を見て見たかったからだ。

アークは生まれてから海というものを見たことがなかった。ラプラス王国は西大陸の西端に位置していることもあり、比較的海とかかわりが深い王国ではある。しかし、旧ウォーデン領は内陸に位置していたため、アークが海と関わるような機会は一度もなかったのである。


「素晴らしいご決断です。やはりあの巨大な海を一度見るのと見ないのとでは、ミカンダの領主として大きく変わってくることと思われます。わたくし、あの巨大な海を見たのは今から3年前の20歳の頃でありました。ただひたすらに馬を走らせて、この地方を回りまわっていた時、ふと北へ行ってみたくなったのであります。今思えばあれは母なる海がわたくしを呼んだに違いありません!こうしてわたくし、、、、、」


相変わらずミーアはこの調子でずーーーっと話す。


この人23歳か。まるで今までの人生を振り返ることでしか快感を得られなくなった老人みたいではないか。確かに長話のおかげで退屈していないということはあるが、それにしてもあまりにも話ばかりして頭が痛くなりそうだ。


「ミーアはそんなにいっぱい話して喉を傷めないのかい?」


アークは遠まわしに苦情を入れた。しかしミーアはアークの言葉の真意をわからず、笑いながら答える。


「はっはっはっ領主様、心配ご無用です。わたくし、言葉を話すことができるようになった時には既に一日一万語を話しておりました。喉の強さは一級冒険者もかなわないでしょう!あれはわたくしが4歳であった時の話、畑仕事をする母に背負われておりましたところ、その母に向かってひたすら話しかけておりました。すると30分ほど経った頃でしょうか、おもむろに母が鍬を片付けて家に帰り、ただ一言『背中からひたすら話しかけられて気が狂いそう』とおっしゃられて寝込んでしまわれました。」

「ふっ」


皮肉が通じないアークはうんざりしていたが、意外にもちょっと面白かったため、思わず笑ってしまう。

しかし、寝込んでしまったというミーアの母の気持ちもよく分かった。出発してから何日も経っていないはずなのに、一日中ひたすらに話しかけられるのは、商人でコミュニケーションを取ることが多いアークでも気が狂いそうだった。



そうして数時間経過し、ひたすらしゃべり続けるミーアにいい加減我慢の限界が近づいてきたところ、ふいにミーアが静かになった。そしてさっきまでのお茶目な様子とは別人のような優しく大人びた顔でアークに言った。


「アーク様、あの丘を越えたらようやく海にたどり着きます。初めてあの丘から海を見下ろした時の気持ちはわたくし一生忘れません。あの感動と興奮は今でも容易に思い出すことができます。」


そして向こうに見える小高い丘を指さす。


「わたくし、もう何も申しません。どうかご自身の目であの丘から見える景色を堪能してくださいまし!」


アークは丘の頂上に立って息を呑んだ。


そこには「永遠」があった。果てしなく広がるエメラルドブルーの海。水平線すら空と溶け合って見えず、遥か彼方まで綺麗な青色だった。雄大な平原すらも圧倒する広大な海原はアークになぜか懐かしい気持ちを呼び起こさせた。この世界のすべては海から生まれてきた、そんな錯覚さえさせるような包容力があった。


「美しい、、、なんて美しいんだ。」


今までの疲れもすべて忘れて感嘆しているアークに、おしゃべりなミーアは何も言わなかった。

ただ優しく微笑みながら少し涙を流してアークと同じ永遠の彼方を見ていた。


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