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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第3章 領地改革
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第3都市(3)

今まで当たり前のように生活をしていたこの町にとって、絶望的に耕作に向いていない土地であったという事実はにわかには受け入れられるようなものではなかった。


タドント夫人とイアンナが話しているのを聞きながらラゴンヌは青い顔をしている。


「ラゴンヌ聞いていた?今すぐここの土地を離れることを勧めるわ。」

「き、急に言われましても何が何だか理解が追いつかなくて。とりあえず地区ごとの代表者を集めて会議を行いますっ」


さすがに自分一人でそんな大事なことを決めることはできない。ラゴンヌは町の有力者たちを集めて対応を決めることにした。



その日の夜、ちょうど会議が開かれた。


もともとは新領主となったアークの挨拶のために会議であるはずだったが、昼間に新しく発生した土についての問題も議題にすることになる。

役場の一室にはラゴンヌの他、町側の代表者が集まっていた。対してこちらはアークとイアンナだ。


「新しくミカンダ地方の領主になったアークだ。これからよろしく頼む。」

「はい、改めまして町長のラゴンヌです。こちらから東地区、西地区、南地区、北地区、中央地区の代表者になっています。」

「姉さん。皆さんに説明をしてくれ。」


挨拶を済ませるとアークは早速本題に入り、タドント夫人が作成してくれた資料をもとにイアンナに説明をさせる。

ここの土地の土には鉄や銅といった多量の鉱物が含まれていること。それにより作物の量や質が落ちてしまい、長年その作物を食べていたこの町の人々に健康被害が出てしまっていること。

よって、ここの土地を捨てて別の土地へと移り住むことを勧めるということ。


町の代表者は皆ポカンとしていた。賛成か反対かの前に状況をよく理解できていない。

それもそうだ。新領主が視察にやってくるということで挨拶のために訪れたところ、突然この町の土は耕作に向いていないから移り住めと言われているのだ。


代表者たちはイアンナが何を言っているかを理解しようと試み、イアンナも同じ説明をゆっくりと繰り返すことによって、丁寧に対応をした。


そうしていたところ扉が開き、エプロンを付けたユリアがひょこっと顔をのぞかせる。


「アーク様。準備ができました。」

「よし。早速持ってきてくれ。」


アークは扉の所へ行き、ユリアのために扉を支えながら代表者たちに言った。


「説明だけ聞くと分かりにくいと思うので、実際に料理で味わってもらおう。」


ユリアが役場の役人たちの助けを借りながら料理をもって入室する。それぞれ右手に黒い皿、左手に白い皿を持っていた。


「黒い皿の料理は別の町で収穫された作物を使用している。そして白い皿の料理がこの町の作物だ。実際に食べ比べをしてほしい。」


代表者たちは白い皿に乗っている料理を食べ始めた時には特に反応を見せなかったが、黒い皿の料理に手を付けた途端目を見開いた。


「お、おいしい!」

「なんだこれは。」

「同じ料理なのに全然味が違う。」


黒い皿の料理に使われているのは、もちろん第2都市で収穫された良質な作物である。

耳で説明されるよりもこうやって実際に食べ比べをしてもらった方が比較することがたやすいであろう。イアンナの説明だけだと不安に感じていたアークがユリアに料理してもらっていたのだ。


「今皆さんの舌で感じていただいたように、この町の土は絶望的に作物を育てるのに向いていないのです。それどころか健康被害の可能性もあります。」

「皆の体には作物を通じて毒が蓄積されている。町全体を引っ越しさせることも必要ではないかと考えている。」


自分たちの町の作物が低品質であることを思い知っている今がチャンスとばかりにイアンナとアークが畳みかける。


代表者たちは考え込む。

このいきなりやって来た領主たちが言っていることは頭では理解し納得することができた。しかし、納得することと実際に実行することの間には実現可能性という大きな溝がある。


「町を移すと言っても。口でいうのは簡単だけど、、長年住んでいる人々を移すのはかなり難しいように思います。」


代表者の一人が口火を切る。


「要するにここで作物を育てなければいいということですよね。ということは別に全員がこの町を出て行くということではないですよね?」

「しかし、住民全員を養っていくには穀物を作るしかないだろう。動物を狩るにしても狩りつくしてしまうぞ。」


ラゴンヌが何とか両者を繋げようとして折衷案を出すが、あっさりと否定されてしまう。

確かに土地が悪く、穀物を作らなければいいだけであるので、狩りといった代わりの方法があれば町を変える必要はない。しかし、4000人全員が農作業以外の仕事を見つけるというのはなかなか難しいような気がした。


「鉄とか銅が埋まっているのならばそれを使えばいいじゃない。この町を工業都市にするのよ。」


全員が声の主の方を見る。

イアンナがいつのまにやら酒をたしなみながら背もたれに体を預けて座っていた。


「そうしたら住民たちは引き続きこの町に住むことができるわ。」

「し、しかしそれで住民全員が暮らしていけるのでしょうか。」

「鉄器や銅器は王国中で需要がある。特に鉄器で武器を作れば生産が間に合わないくらいに注文が来るはずよ。」


ラゴンヌの疑問にもあっさりと答える。鉄の需要は王国中で非常に高いことは商人であれば常識である。武器はもちろん農具や工具、家具に至るまであらゆるところで必要にされているからだ。外国からの輸入が中心だった鉄をこの地方で生産することができるようになるのは大きなアドバンテージである。


「我々住民は素人です。いきなり鉄器を作れと言われましても、、」

「そこは領主の仕事よ。このアークが職人たちを連れてくるわ。もちろん製品の輸送、販売も商人たちにやらせるから大丈夫よ。」

「我々は製品を作るだけでいいんですね。」

「そうね。食料も第2都市から調達してくるし、製品の制作に集中してもらって構わないわ。やりやすい環境を作るのは私たち領主の仕事だもの。」


ラゴンヌをはじめとした代表者たちの懸念を一つ一つ丁寧に潰していく。堂々としたイアンナの立ち振る舞いに、町側の態度も徐々に傾いていった。


アークたちはその後、役場の外で待機をお願いされた。中ではラゴンヌと代表者たち町側の人間だけで話し合いが続いている。決して町側にとっても悪い話ではないはずだ。アークはめったに吸わない煙草に火を付けながら少し緊張して待っていた。


しばらくしてラゴンヌを先頭に町側の人間が出てきた。ラゴンヌはアークに向かって足を進めるとそのまま笑顔で手を差し出した。


「この土地で農作物を作ることができないことは理解しました。私たちにできることは工業であるとおっしゃられるなら、とにかくやってみましょう。これからもよろしくお願いします。」


隣にいるイアンナがほっと息を吐いたのを感じた。

アークも笑顔でラゴンヌの手を握った。


確かに鉱物を多く含むという土地の性質はこれまで農作物中心の町の短所だったかもしれない。しかし、これからは町の最大の長所になってくれるはずだ。いや、必ず町の強みにしてみせる。


「よし!では改めて、この町をミカンダ第3都市と命名する。王国一、いや大陸一の工業都市にしてみせよう。」


アークは他の町の代表者たちとも熱い握手を交わしながら宣言した。

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