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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第3章 領地改革
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第2都市(2)

その日の視察は無事に終わった。

昼食の後から少し挙動不審になったグセルブを安心させるため、アークは視察に集中した。その一方で、途中から理由を付けてユナを送り出し、隠し田畑の捜索にあたらせていた。



夕方になって屋敷に戻り、夕食を食べながらユナの帰りを待つ。


タドント夫妻は早めに休ませ、ユリアは別室で剣を磨いている。広間にはイアンナとアークだけだ。二人ともユナの帰りを待ちながら、少し重たい空気になっている。ユナには調査をしてもらっているが、タドントの計算によると隠し田畑があることはまず間違いない。これは、不正が本当か、それとも間違いかというような「疑わしさ」ではない。領民になる人々から隠し事をされているということを目の当たりにするまでのカウントダウンに過ぎない。



夜も更けた。気を使って一緒に起きているユリアも寝かせた。

イアンナもアークも一言も発しないので外にいる虫の鳴き声がよく聞こえる。

しかし、虫の鳴き声は聞こえてもユナの足音は全く聞こえなかった。突如聞こえた咳払いにぎょっとして二人が目をやると、ユナが直立不動でドアの前に立っていた。


「おかえりなさい。」


イアンナがユナのローブを脱がせて汗を拭いてやる。アークはユリアが作り置きしていた夜食と水を調理場から運んできた。

ユナが水を飲んで一息ついたのを確認してアークが尋ねる。


「どうだった?」


ユナは一つ頷いた。


「、、、山の裏側にあった。」


アークの血の気が引く。さらにユナはそんなアークに追い打ちをかける。


「、、、大量の畑が。」

「大量?」

「、、、昼視察に行ったところの2倍は広い。」

「へそくり程度だと思っていたけれど。もはやそっちがメインになっているのね。」


イアンナが頭を抱える。

つまりこの町の人々は、治めた税の2倍ほど脱税をしているようだ。


「ご苦労だったユナ。ゆっくり休んでくれ。」


ユナを下がらせたあと、アークは椅子に崩れ落ちるように座った。


やはり隠し田畑は持っていたか。


その可能性は高いと分かっていたが、いざその事実を突き付けられるとアークはショックを受ける。そんなに領主を信頼していなかったのか。


領主とこの町の住民の間には巨大な溝ができていた。その原因は7割という法外な税金と自分のことしか考えていなかった前領主、長官にあるだろう。アークは住民の領主に対する信頼を回復させ、ウォーデン領の一員として誇りを持ってほしかった。そのためには馬鹿げた統治を行った前任者の尻ぬぐいをしなければならない。


「姉さんはどう思う?」


一日の疲れがどっと押し寄せて頭が働かなくなったアークはイアンナに助言を求めた。


「気づかないふりをするしかないんじゃない?もし強引に税を徴収しようとして反乱でも起こされたら、大変なことになる。今のウォーデン家には兵士がほとんどいないのよ。」


イアンナはどうにもしようがないようにお手上げのポーズを取って半ば諦めたように言った。

確かにイアンナの意見は正しい。隠し田畑の存在を暴き、グセルブを問い詰めようものなら町と領主の関係は取り返しがつかないことになるだろう。無理やり税を取ろうとして武力衝突になったら、兵力もないウォーデン家の「負け」である。


しかし、ここで諦めたら町と領主の関係性はこのままである。ウォーデン領の地盤を固めるため、アークは何としてでも住民の信頼を得る必要があった。


「確かに。そもそも、まだウォーデン家はここの住人に信用されていない。前の領主のせいで嫌な思いもたくさんしているみたいだしね。」


アークは拳をぎゅっと握って続けた。


「でもだから、だからこそ。ウォーデン家は違う。今までの領主とは違う。そう示す必要があると思うんだ。」


翌日、朝食を取っていたアークたちの元にグセルブが訪ねてくる。アークは長話をする気がなかったので家には上げず玄関で応対をした。


「領主様。おはようございます。」

「おお、グセルブ。早起きだな。」

「本日、次の街のご出発です、、よね、、?」

「ああ。その予定だ。」


視察は今日までの予定だがそのことをわざわざ確認してくるあたり、早く帰って欲しいような印象を持ってしまう。昨日、ユナから隠し田畑の存在の報告を受けたからなおさらだ。


アークはグセルブの方を見ながらなにげなく、あくまでさりげなく尋ねた。


「もう見て回るところはないか?」

「一通りご紹介いたしました。この町は特に何もございませんので一日でご視察できてしまいます。」

「田畑は昨日視察した分ですべてだな?」


念押しに聞いたアークにグセルブは固まる。二人の間に少し沈黙の間ができた。


このようにしつこく聞いてくるということはこの領主は隠し田畑の存在に気付いているのか、と勘繰っているようだ。だが領主が知らないのに自白してしまったら、墓穴を掘ってしまうことになる。諦めて正直に話すか、気づいていないことを祈りながら嘘をつくか、非常に迷っているようだ。


しばらくして、グセルブはさっきとは明らかに違い、苦しそうな顔をしながら絞り出すように答えた。


「、、はい。、、、すべてでございます。」

「、、、、、、分かった。」


最終的にグセルブは領主に嘘をつく方を選んだ。


「町の住民を広場に集めてくれ。新しい領主として挨拶をしたい。」

「かしこまりました。」



正午の鐘が鳴る頃、約3000人いる住民たち全員は町の中心にある広場に集められた。


「新しい領主が挨拶に来るから集まれってさ。町長が言ってた。」

「新しい領主って昨日の若い男か?」


当日になって急に集められた人々が戸惑っている中、グセルブも現れる。


「あっグセルブ様、おはようございます。」

「おはよう。住民はみんな集まったか?」

「はい!全員集めました、、はずですが。あれ?5人足りない。」


3000人しかいない住民は互いに顔見知りが多い。居るはずの5人がいないことを不審に思い、家族や近所の人が行方を尋ねている。

すると、向こうから大きな丸太を担いで広場に向かってくる5人の姿が見えた。


「「えっほえっほえっほ」」


5人は集まった人々に道を開けてもらい、広場の中心まで来ると息を合わせて丸太をドンと直立させた。新領主が挨拶にやってくるというのに、なぜこのような行動をしたかわからないグセルブは慌てて男たちに尋ねる。


「おいお前たち!何を運び込んでいるんだ?」

「えっ、この丸太を運ぶように領主にお願いされて。」


その時、再び人々が道を開ける。

馬に乗ったアークが登場したのだ。すぐ後ろにはイアンナ、そしてユリアとタドント夫妻が続いている。隠密行動もすることがあるユナは人々の前には姿を現さない。広場が良く見える位置にある家の屋根に上ってこちらを見ているだろう。


「揃ったか。」

「あの領主様。これは何を?」


アークは目の前に立てられた丸太について疑問をぶつけてくるグセルブを手で制し、人々の前に立って挨拶を始めた。


「新しくミカンダ地方の領主となったアーク=ウォーデンだ。今回、これからはこの町を統治することになるから視察にやって来た。これからもよろしく頼む。」


そしてアークが合図をすると、小さな箱を手に持ったユリアがアークの隣に立ち、人々に向かって声を張り上げて説明し始めた。


「つきましては、今回の視察の余興を行います。先ほど5人の男に運んできてもらったここの木を、一人で町の反対側まで運んだ者には金貨10枚を贈呈する。是非、この町の力自慢に挑んでもらいたい。」


余興?木を運ぶ?金貨10枚?、、、金貨10枚??


突然の説明に理解できなかった人々が、時間がたち状況を飲み込んでいくにつれて驚愕する。あっという間に、3000人の住民たちに動揺が広がっていった。


「金貨10枚だと!?」

「あり得ない!」


しばらく時間がたったが、誰も前に出てくる人はいなかった。

この領主は一体何を考えているのか。金貨10枚なんて数年間は遊んで暮らすことができる。どうしてこの丸太を運ぶだけで、そんな大金を無条件で譲ってくれるのか全く理解ができない。


「どうした?この町には力自慢が誰もいないのか?」


アークが少し挑発するように言う。アークとユリアは3000人の住民を相手に涼しい顔をして動揺する人々を長時間見守っていた。その様子を見て、ますます人々は混乱する。


「金貨なんて本当にもらえるわけないだろう。それも10枚なんて。」

「出しゃばって目を付けられたら殺されるかもしれん。」


「俺が行く。」


突如発せられた声に、全員がそちらを振り向く。


恰幅のいい青年が覚悟を決めたように立っていた。そして、立てられている丸太の方に近づいていく。


「やめとけ!」

「なに本気になっているんだって笑われるだけだぞ!」


人々は口々に言った。

みんな金貨10枚という大金を前にして混乱していたが、丸太を担ごうとしている青年を見て我に返った。

そもそも領主が約束を守るはずがない。もう何年も領主によって厳しい統治を受けてきたのだ。今度の領主もどうせ同じであろう。どうせ金貨10枚を真に受けて、必死に丸太を運んでいる青年を笑って終わるだろう。


「んおおおお」

「おお持ち上げたぞ。」


青年は大の大人が5人がかりで運んできたを何とか持ち上げると住民は歓声を上げた。青年はしばらく踏ん張ってバランスを取っていたが、その後よたよたと動き始める。何度か丸太を地面につけてしまうことはあったが、それでも持ち上げ直して歩みを進めていった。


人々は青年の周りに群がって声援を送りはじめた。広場から町の反対側まで歩いても10分程度で着く距離だ。丸太を抱えた青年はその距離に20分くらいの時間をかけて、何とか運び込むことができた。


人々は祭りのように大騒ぎしながら広場に戻ってくる。アークはその中から丸太を運んだ青年を指さし、壇上へと上らせた。大騒ぎしていた人々が再び静まり返る。この青年は果たしてどうなってしまうのか。


「そこの若者。こちらへ」


アークはユリアから箱を受け取り、中身を見せて若者へと手渡した。箱の中には金貨が10枚きっかりと入っていた。


「では約束通りこの若者に金貨10枚を与える。」


しばらくの沈黙が広場を支配した。あらかじめ約束していた通り領主が褒美を与えた。それだけのことであるが、人々は虚をつかれたようにポカンとしている。


「ほ、本当にもらえるのか?」


約束は守られるためにある。

住民たちはそんな当たり前のことに、初めて気づいたかのような顔をしていた。今まで領主に約束を守ってもらったという経験がなかった住民たちにとってまさにパラダイムシフトのようなものであった。


領主が約束を守る、という人々の理解が追いついたことを確認すると、アークは演説を始めた。


「みんな良く聞いてほしい。君たちが前の領主に何をされたのか私は知らない。だけど、みんなの私に対する不信感を見ているとどんな厳しい統治をされてきたのかは想像に難くない。そんなみんなに分かって欲しいことがある。そもそも支配者とは住民たちを愛し、そして彼らから尊敬と敬愛を集めるべき者であるはずだ。」


住民たちは驚いた。感極まったのかアークが涙を流していたからだ。若き領主が住民のためを思って涙を流しながら、必死に思いを伝えている。その姿は住民たちの胸を打った。


「私は嘘をつかない。私が金貨10枚渡すと言ったら渡す。私は領主として君たちを愛するし大切にしていく。だから、だからみんなも私に心を開いてほしい!」


アークは泣きながらここまで言い切ると、町長のグセルブを壇上に呼んだ。


「グセルブ」


突然指名されたグセルブはびっくりして恐る恐る壇上に上がる。


「前の領主の税は何割だったっけ?」

「7割です。」

「2割に下げる。」


アークは即答した。


「!!」

「私はここの住人に嘘はつかない。2割といったら2割だ。」

「他に私に言っていないことはないか?」


グセルブはしばらく沈黙した。住民たちもグセルブも頭にあるのは領主に隠している隠し田畑の存在だ。


この領主は信じていいのではないか。住民たちからそんな雰囲気が出ている。しかしグセルブは以前、隠し田畑の存在を否定してしまっていた。ここで隠し田畑の存在を認めるということは、アークに嘘をついていたことになる。処分されるのは間違いないのではないか。


グセルブはやがて覚悟を決めたように息を一つつくと言った。


「山の裏側に田畑があります。」

「よろしい。ではそこの田畑も税を2割とする。」

「えっ」


即答したアークにグセルブは思わず聞き返した。嘘をついていたことには全く触れず、あくまで事務的な話に終始している。これは隠し田畑の存在を許してくれたということだろうか。グセルブが嘘をついたということにお咎めなしということだろうか。


「ん?他に何かあるか?」

「いえ。ありがとうございます。ありがとうございます。」


恐縮して平伏するグセルブをユリアが起こした。



アークは壇上から降りようとする。新任の挨拶はこれで終わったのだ。アークは馬にまたがりながら、ついでのように付け加えた。


「ああ。最後になるが、私がミカンダ地方に赴任した記念だ。今年の税は免除する。」

人々は耳を疑った。税が免除?それって税を払わなくていいということ?

「ほ、本当に?」

「私は嘘をつかないといったろう?」


わああああああああ


アークが答えると住民たちは熱狂した。それまでのアークへの感謝の気持ちも積もり積もっており、それが爆発した結果でもある。


「領主様バンザイ!領主様バンザイ!」

「このお方はアーク様と言うんだぞ!」


お祭り騒ぎになっている人々の中に紛れ込んでいたタドントが調子よく叫ぶ。タドントは地図を作らせる時以外はただの陽気なおじさんだった。


「アーク様バンザイ!アーク様バンザイ!」

「グセルブ、最初に聞くことを忘れていた。ここの町は何という名前だ?」

「オオレンです。」


住民たちの歓声に手で答えながら、アークはグセルブに町の名前を聞くと、グセルブは涙を拭きながら答えた。


アークはこれから計画的に領地を運営していくつもりだった。まずは名前から揃えることにしよう。初めの町を第1都市として、、、


「今日からここをミカンダ第2都市と名前を変える。新しい都市として生まれ変わったつもりで頑張ってくれ。」


アークのセリフに住民は再び熱狂した。町の名前が変わっただけでそんなに喜ばなくてもいいだろうが、今はどんなことがあっても熱狂してしまうほどに興奮しているらしい。

アークは予想外の反響に苦笑いをしながら手を挙げた。




「アーク様!是非第2都市にいらしてください。」

「収穫祭の時にはご招待します。この町自慢のお祭りです!」


住民たちは争うようにアークとの握手を求め、町のはずれまで見送りにやって来た。アークがやって来た時に持っていた不信感は微塵も無くなり、尊敬と敬愛と興奮で爆発しそうな熱気であった。


「ああ。ありがとう。もう見送りはこの辺で結構だ。」

「アーク様バンザイ!アーク様バンザイ!」


アークの言葉で住民たちは足を止めて、代わりに大歓声で一行を見送った。


タドント夫妻は大歓声に顔をほころばせ、ユリアは誇らしげに手を振っている。ユナはアーク一行が町を出る少し前に既に次の町へと出発していた。

馬を寄せてきたイアンナがアーク以外の誰にも聞かれないような小声で囁く。


「泣き真似がうまくなったわね。アーク」

「ふん。なんのことやら」


アークはそう言ってニヤリと笑った。

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[一言] 値千金ですかー
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