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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第3章 領地改革
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第2都市(1)

馬に乗って2日がたち、ようやくはるか向こうに建物が見えてきた。

以前の領地で馬を2日も走らせていたら他の貴族の領地に入ってしまうのに、やはりこの土地はあまりにも広すぎる。ずっと馬に乗っていたため尻が痛くなってきたが、はるか先に見える町に入るにはさらに数時間が必要だった。


そして出発してから3日目の日も落ちるころ、ようやく畑を抜けて防壁もない町に入っていった。


「到着したわ。ここが一番近い町よ。まあ、町というか村というか、、」

「うん。村だね。」


苦笑するイアンナにアークも答える。建物は立派にできているが、見るからに人が少ない。もう夜になるからとはいえ、道には人っ子一人歩いておらず、居酒屋があるような様子もない。


「、、、教団の集落より小さい。」

「ユナ、さすがにそれほどではないぞ。」


役場と名乗っている建物はがらんとしている。前の領主が離れて数か月になるが、以前イアンナとテュールが視察した際にある程度整理をしていてくれたようで、思ったより清潔だった。

その日のうちに訪問したかったのだが、夜になってしまったので体を休めることにする。


「とりあえず、今日はもう寝て、明日町長に挨拶に行こう」


移動中は短い仮眠しかとっておらず、ほとんど休むことができなかった。そのため、今にも寝てしまいそうだったアークは、最後の力を振り絞ってベッドまでたどり着き、埃も気にせずに横になる。その途端に猛烈な睡魔に襲われ、気絶するようにアークは熟睡した。



翌日、起きると隣に誰か寝ている。

顔を傾けるとイアンナがぐっすり寝ていた。子供の頃は姉と一緒に寝たこともあったが、さすがに今の二人には一人分のベッドは狭すぎる。アークはイアンナを起こさないように起き上がった。

広間に出ると床にタドント夫妻が寝ていた。一応、移動中に使っていた寝袋を敷いていたが、それでも床は堅いだろう。眠気に襲われていたとはいえ、自分だけベッドに寝て、夫妻を床に寝かせてしまったことを心の中で謝る。


調理室に向かうとそこではユリアとユナが料理を作っていた。めったに人に心を開かないユナであるが、ユリアとは波長があったらしい。確かに、ユリアも人見知りがあるので二人の相性は合いそうな気はしていた。


「おはよう二人とも。早いな」


アークの言葉に二人は振り返る。といっても、ユナはアークが調理室に入ってきた時に気配を察知しているようであったが。


「アーク様おはようございます。」

「、、、もう昼になる。」


ユリアの挨拶にユナが修正をかける。


「ん?もう昼か」


どうやらよほど疲れがたまっていたらしい。夜になってすぐに寝たので半日以上は寝ていたようだ。


「起こそうと思ったんですけど、皆さん疲れていたようだったのでそのままにしていました。」

「おかげでぐっすり寝られたよ」


朝食兼昼食をテーブルに並べていると、イアンナとタドント夫妻も起きてきた。起きたばかりで意識もはっきりしていないようであったが、スタミナをつけるために食事はきちんととってもらう。

ユリアとユナの作ってくれた食事はとても美味しかった。この二人は意外と料理が上手だったという新しい発見があった。しかし、皿の上に山のように積まれた肉は、とても起掛けの人が食べきれるような量ではない。剣闘士出身のユリアと情報収集のために一日中動き回るユナが二人で作ったため、無意識のうちに大量に作ってしまったのだろう。


しばらく時間がかかったものの何とか完食し、食後の酒を少し嗜みながら腹が収まるのを待つ。

外に出てみると、町の人々がこちらの様子をうかがっているのが分かった。どうやら、新しい領主が視察に来たということはすでに町中に広まっているらしい。

それでは、こちらも行動を起こすとしよう。


「姉さん。町長を呼んできてくれ。」

「わかった。ユリア、護衛として一緒に来て頂戴。」



しばらくして、イアンナとユリアが屋敷に戻ってきた。ユリアの後ろには杖をついた老人が控えている。

確かに町長といわれれば見えなくもないが、あまり覇気がないごく普通の老人だった。


「はじめてお目にかかります。町長のグセルブと申します。」


老人は意外にしっかりした足取りで近づき頭を下げる。アークも領主として堂々と答えた。


「新しくミカンダ地方の領主となったアークだ。これからよろしく頼む。」

「早速だがこの町を案内してくれ。」


この町の現状を把握することが視察の目的だ。

アーク一行はグセルブの案内のもと、町の視察を行う。


昼間なのに人はあまり多くなく、今から畑仕事に行こうとしている人々とたまにすれ違うくらいだ。

人々は町長であるグセルブを見ると帽子を取ってあいさつし、後ろにいるアークたちをチラチラと見る。

グセルブは挨拶してくる人々に手を振ってこたえた後、アークに向き直って解説を始める。


「この町は3000人ほどの人口がありまして、みんな農業に励んでおります。」

「3000人か。」


イアンナが小さくため息をついた。


この田舎に人口が集まらないことは予想していたものの予想以上に人が少ない。旧ウォーデン領では普通の街でも数千人は居住しており、領内全体では10万人ほど人口があった。


数少ない町でも3000人しかいないのならば、昔はできていた政策なども出来なくなってしまう。こんな過疎地域でもできることを探していかなければならない。


「なるほど。前の領主の時はどのように税を納めていたの?」

「収穫した米の半分が領主さま、半分が私たちのものでした。」

「半分!」


思わず声に出てしまう。

ここの人々は税金が5割も取られていたのか。

旧ウォーデン領は人々も多く、交易も盛んだったことから税金は1割しかとらずに十分であった。その結果、税が安いと聞きつけた近隣の商人たちもやってくることでかえって豊かになって言ったのだ。


他の領地から来た商人たちは他の貴族の税の高さを愚痴っていたが、それでも3割や4割程度だった。半分も取られるなんて聞いたことがない。


「それはなんとまあ、、」

「、、、アーク様。」


アークが同情をしていると、後ろに影のようにくっついていたユナが耳打ちしてくる。


「ん?どうしたユナ。」

「今、この人噓をついた。」

「嘘?」


ユナの言葉を声に出して復唱したアークの言葉にグセルブの顔色が変わる。


「、、、目の動きでわかる。」

「グセルブ。新しく領主となる私に嘘をつくのはあまり感心しないな。」

「う、嘘ではございません!5割が税金でございました。」


グセルブは見るからに狼狽している。これは本当にごまかしているとみて間違いないだろう。しかし、彼が嘘を言っていることの証拠がない。今までの税の資料はアークの前の領主が燃やして炭にしてしまっているからだ。


何とかしてグセルブの自白を取らなければならない。アークはユナに目配せをした。ユナなら教団での経験から何とかしてくれるに違いない。

ユナはアークの目に頷くとグセルブに踏み出してカマをかけ始めた。


「、、、税金は本当は3割?」

「えっ?」

「2割?、、、1割?、、」

「な、何を?」


ユナは適当に数字を言いながら、グセルブの視線や目の奥の微かな動揺を観察している。


「4割?、、、6割?、、、7割?、7割??」

「ユナ、どうだ?」

「、、、税金は7割みたい。」


ユナの報告を聞いてアークはグセルブに向き直った。


「こいつは隠密行動を得意としているシービ教団の出身だ。こいつに嘘は必ずバレるぞ。」


グセルブはもともと青白い顔をさらに青くして震えていたが、しばらくして観念したように頭を下げた。


「も、申し訳ありません。実際は7割でした。」

「どうして嘘なんかつくの?」


イアンナが尋ねる。


「7割と本当のことを言ってしまえば、領主さまも税を7割と決めてしまうと思ったからでございます。」


アークたちには微妙な空気が広がっていた。

5割でも多いと思っていたのに、まさか7割も税を取られていたとは。確かに税は領主が自由に徴収することができるが、それにしたって限度があるだろう。山と海に囲まれた田舎で周囲の目が届かないから好き放題に搾取された人々には同情する。


しかし、グセルブはアークに嘘をついた。正直に言ってくれたらこちらとしても素直に同情することもできた。減税だって支援だってやっていただろう。だが嘘をつかれたにもかかわらず、グセルブの嘆願をすべて受け入れるということはできない。支配をする側としての、領主としての威信にかかわるからだ。


アークが困っているのを察したのか、もしかしたらこの領主なら泣き落としができると思ったのか。グセルブは突然膝をついて土下座をし始めた。


「お願いいたします!我々民衆は食料の蓄えなども出来ずに苦しんでおります。この老いぼれをどう処分しても構いません!税に関してはどうか、どうか寛大なご判断をお願いいたします。」


町の真ん中で大声で嘆願を始める。


「なんだ?」

「グセルブ様が嘆願の土下座をしている。」


町長と新領主が何やらトラブルになっているらしいと人々が集まってきた。もちろん人々はグセルブが彼らのために土下座をしていると分かっている。これは慎重に対処しなければ大変なことになってしまう。


グセルブの土下座を見た人々がアークたちに向ける敵意を察知してユリアが剣に手をかけようとする。


「待て!ユリア」


アークはユリアを慌てて止めた。このタイミングで人々を刺激するような行動はまずい。もし暴徒になってしまったらこちらは圧倒的に無勢だ。


イアンナがグセルブに駆け寄って無理やり起き上がらせる。


「立ってくださいグセルブ。まずはこの町の農場を見せてもらおうかしら。税に関しては慎重に検討するわ。」


なだめながら何とか話題を変えて、土下座を続けようとするグセルブを半ば無理やり町の郊外に連れ出した。


「グセルブ。とりあえず今の村の現状を調査に来ただけだ。税金なんかを決めるのは今ではない。もちろんここの人々が重税に苦しんでいたことも考慮する。だから、とりあえず案内をしてくれ。」

「はい、、」


何とかなだめ続けるアークにグセルブは落ち着きを取り戻したようだった。そして、田畑が広がる郊外で改めて収穫量や前までの税金の話をする。


「この畑凄くいい土壌をしていますね。」


声がした方を振り向くと、タドント夫人が畑の土を手に取って揉み潰していた。確かに、真っ黒でふかふかのように見える土は素人のアークの目から見ても栄養がありそうな土であった。


グセルブは向こうに見える山を指さしながら解説してくれる。


「ええ。雨季になりますと、あそこの山から栄養をたっぷりと含んだ土砂が毎年流れてくるのです。ですから、ほら。」

そう言いながら土に埋まった農作物を一つ掘り起こす。


「このように立派に育った農作物が出来上がるのです。」


グセルブが手に取ったジャガイモは、他の地方では見かけないほどに丸々と太っていた。


「こんなに立派な作物はなかなか見かけない。普通のサイズの2倍くらいあるんじゃないか?」

「この町はあの山を中心に回っているのね。」


アークとイアンナは両手で持たなければならないほど大きなじゃがいもを受け取り、少し興奮しながら言った。


こうして田畑の視察は順調に行われた。よほど土が良いのだろう、ここで収穫される作物はどれも大きく量も多い。もしここの開発を進めることができれば、食料の供給という領地運営の重要な問題は解決したとみていいだろう。

質も量も申し分のない農作物。これは輸出の手段にもなり、商売にも使えるし、軍事的にも非常に有用だ。


アークは早速頭の中で皮算用を始めていた。


問題が発生したのは、とある農家に立ち寄って休憩をしていた時だった。農家の娘が焼いてくれたホットケーキを食べながら上機嫌に談笑していたアークにタドントが耳打ちする。


「アーク様」

「どうした?何かあったか?」

「おかしいんです。」

「おかしい?」

「あの町長の説明か土壌かのどちらかが嘘をついていることになります。」


アークは水を飲んで口の中のものを飲み込むとタドントに向き直った。


「わかりやすく説明してくれ。」

「この畑の総面積を測ってみました。」


タドントは計量のプロだ。地方の面積や町の規模を計量してもらうために今回の視察に同行してもらった。どうやら計量して計算した結果、違和感を覚えたらしい。

頭を回転させて先ほどのセリフを完全に理解したアークは、タドントが言う前にその先を補足する。


「なるほど。7割が税金で取られることを考えると、この面積で町の人々を養っていくのは不可能ということか。」

「さすがアーク様。おっしゃる通りです。これでは3000人の人々にはとても足りません。」

「わかった。ありがとう」


あまりひそひそと話すとグセルブに感づかれてしまうため、アークはタドントに下がらせた。そして、入れ違いにイアンナを呼ぶ。


「イアンナ姉さん」

「ん?」


ユリアや農家の娘と談笑していたイアンナを呼び、タドントが違和感を感じたことを伝える。開拓官として旧ウォーデン領でも役人の仕事をしていたこともあるイアンナなら何か裏の事情とかも知っているかもしれないと期待した。


「こういうわけなんだけど」

「でもユナのうそ発見器にかけて7割の税というのは本当だったでしょう。」

「うん。」

「じゃあ隠し田畑ね。」

「隠し田畑?」

「こういった場合、この町から遠くないところに田畑をこっそり耕しているのよ。役所にバレていないから税金は0%になる。」

「なるほど。」


アークはため息をついた。この町の人々は領主に対して不正をしていたというわけだ。確かに重税をかけてきた領主にも問題があるだろうが、アークが新しい領主となったからには隠し田畑を見逃していくわけにはいかない。


アークは今度はユナを呼び、イアンナの隣に座らせる。


そしてチラリとグセルブの方を見た。

グセルブはやはりアークのひそひそ話が気になるようで、心配そうにこちらを見てくる。隠し田畑の存在に気づかれたことを心配しているのだろうか、傍から見るとかなり挙動不審だ。


ユナに隠し田畑の説明をする。隠密行動が得意なユナだったらきっと田畑を見つけてくることができるに違いない。きっとアークがこの町に滞在をしているときにも隙を見て町の人々は耕作しに行っていただろう。その人々の後からついていくと自ずから田畑の場所も分かるだろう。


「町の人々がこっそり出かけていたら後を付けさせよう。」


しかし、イアンナが待ったをかける。


「いいえ。私たちの滞在はせいぜい数日だけ。向こうも尻尾を出さないようにおとなしくしているに違いないわ。」


確かにアークがこの町に滞在するのはほんの数日。たったそれだけなら田畑を放っておいても問題は起こらないだろう。


「じゃあ自力で見つけるしかないか。」

「ええ。さっきの山の話覚えてる?」

「覚えてるよ。養分を含んだ土砂のおかげで、栄養のある土になっているんだろう。」


アークが答えるとイアンナはニヤリと笑った。


「それ、もう答えを言っているようなもんじゃない?」

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[気になる点] 計量は重さを量るときに使います。 計測か測量だと思います。 また、田畑については田は水田、畑は元は焼畑による農地を指します。 焼畑をしていない農地は畠の字を使いますが、今では畑と畠の…
[一言] 江戸時代だと三公七民でやって行けて四公六民で飢えだして五公五民は餓死者が出て一揆が発生するそうな 某北の将軍様は一時九公一民という税率を
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