レオとカサブランカ
レオ逮捕。
この情報が王国中に駆け巡ったのは、ルイが見つからないレオの捜索を開始して2週間のことであった。レオはウォーデン家によって逮捕され、身柄は既に王都にあるという。そして、カサブランカとマリーも王都に向かっているそうだ。
ルイは激怒した。
毎日毎日レオの領地を荒らしまわりながらレオを捜索していたからだ。
「くそっ。この俺がレオを見つけて王としての地位を盤石にするつもりだったのに。ウォーデン家といえばレオやカサブランカの陣営ではないか。レオを最後に破ったのはこの俺なんだぞ!それなのにそれなのに!!手柄がするりとこの手からこぼれ落ちてしまった。」
「まあ、良いではありませんか。何はともあれレオは捕まったのです。これでルイ様が名実ともに正当な王として返り咲くことができます。ささ、解放された王都へ戻りましょう。」
プンプンしているルイを周囲の貴族たちはなだめる。意外にも取り巻きの貴族たちは怒っていなかった。それだけではなく、どちらかといえばホッとしていた。
見つけたのがカサブランカ陣営の男爵家でよかった。全員そう思っているのだ。
もし取り巻きの中の貴族がレオを発見していたのなら、、、その貴族の一人勝ちだ。その手柄で他の貴族から出世競争で一歩リードすることになる。
だが、レオを発見したのはカサブランカ陣営の男爵家だ。せいぜい爵位が一つ上がるか、褒美としていくらかの金銭を与えられるだけであろう。
レオの手柄に関してはルイ陣営の全員が負ける。これほど平和的な帰結はなかった。
他の貴族たちに手柄を取られるのではないかとびくびくしていた貴族たちはこれでようやく一息つくことができたのである。
一方、レオから解放された王都にはカサブランカがカサブランカ・セブンを率いて帰ってきた。近いうちにルイやマリーも戻ってくるだろう。
「戻ってきましたねカサブランカ様。」
第6隊士サーニャが嬉しそうに言う。
「ええ。ミカンダ地方もなかなかのどかで良いところだったけど。」
そう言いながらカサブランカは王宮に入った。
扉を開けてため息をつく。暴徒化した民衆か、飢えをしのぐ民衆か、王宮は徹底的に略奪されていた。絨毯、扉の装飾、壁紙に至るまで徹底的に奪われており荒らされていた。
「数か月いなかっただけで随分荒れたわね。」
「警備も警察機能もほとんど壊滅しているのです。むしろこの程度で済んだのかと喜ぶべきです。まあ、王都とは言え人口も激減しているから荒れようにも荒れないのでしょうか。」
茫然としているカサブランカたちの中でフランだけが冷静だった。
そこへアークがやって来る。
アークは先に王宮に入り、不法占拠している民衆を追い出したり、カサブランカらを迎える準備をしていた。
「カサブランカ様。お待ちしておりました。」
「アーク。お手柄ね。まさかレオを捕らえることができるなんて。」
カサブランカはアークを讃えつつ、同時に少し不満気に言った。
「でも、一言私に言ってくれてもいいんじゃない?ある日、目が覚めたらテュールたちミカンダ地方の兵士たちが一人もいないんですもの。私を置いて逃げたのではないかと思ったわ。」
「レオの逮捕計画自体私と兄を始め数人しか知らない極秘計画だったのです。申し訳ありません。」
作戦は極秘に行われたものであったため、いくらカサブランカであろうと漏らすわけにはいかなかった。作戦が漏れてレオの耳に入ったら、アークとユリアは間違いなく死んでいただろう。
もちろんカサブランカとレオのつながりを疑っていたわけではない。だが、自分を信じてもらえないとカサブランカに思われたことも事実である。
「まあ、終わったことだしいいわ。それで、、レオはどこ?」
カサブランカは意外にもすんなりと話題を変え、少し言いづらそうにレオの場所を聞いた。
レオは一応王族だ。そのため一般の犯罪者が閉じ込められる地下牢ではなくて王宮の執務室に居る。手錠などもなく、部屋の外に警備兵が立っていることを除けば自由である。
アークはカサブランカをレオがいる一室にまで案内すると、彼女は心配する親衛隊をも下がらせて、自分一人で中に入っていった。
彼女が中に入ると薄暗い中から、ぬっと不気味な顔が覗く。
「、、カサブランカか。久しぶりだな。半年ぶりくらいか?することがなくて退屈だったんだ。ちょうどいいところに来たな。」
レオの執務室は脱走防止のために窓が塞がれている。そのため昼間のはずなのに部屋全体が薄暗い。また自殺防止なのか、部屋には椅子が一つあるだけでその他には何もない。部屋の中央にポツンとある椅子にレオが腰かけていた。
「こんなつまらない部屋初めてきたわ。何もないじゃない。」
「ああ、お前の座る椅子もな。」
二人の会話はいつも通りであった。
「ちょっと衛兵ーー!」
自分の分の椅子がないことに気づいたカサブランカは大声で部屋の外にいる衛兵を呼び、椅子を持ってこさせた。
「それで。何の用だ?」
「あんたがどんな顔をしているか見てみたくてね。」
「ひゃひゃひゃ。で、顔を見た結果どうだった?」
「全く変わらないわ。あんた。最初から王になんてなるつもりなかったでしょう。」
カサブランカは助走なしで核心を尋ねた。
彼女は王への野望がある。そのため、ライバルになるであろう兄弟たちの権力欲を長年調査していた。だからこそ疑問だったのだ。ルイやカサブランカと違って、権力欲などなさそうに思えたレオが
どうして反乱を起こしたのか。
「そんなことはないぞ。俺が王にならなかったら貴族や弟と戦うことができなかったし、王都を燃やすこともできなかった。」
「はあー。普通ね、戦争っていうのは何らかの目的を達成するための手段として使うの。ここの領土が欲しいとか、この権力が欲しいとか。単に暴れる手段としてだけで戦争をしないでちょうだい。あんたのせいで王国はめちゃくちゃよ。」
レオの返答を聞いてカサブランカは呆れかえった。まるで子供だ。「王様になったら豪華な食事ができるのだから王様になりたい!」と言う子供ではないか。いや、戦争がしたいから王様になりたいなんて狂気を持っている子供なんていないか。子供よりよっぽどたちが悪い。
「まあ、それはお前とアークで何とかするだろう。俺の尻拭いよろしくな。次期女王陛下。」
「まったく、、、あら。アークの名前覚えたのね。人の名前なんか興味ないあんたが珍しい。」
「ああ、アークは面白いやつだった。自分の武力を信じて疑わない俺からすると、敵同士を殺し合わせる戦術なんて目から鱗だった。」
レオは心から楽しそうにアークとの思い出を振り返った。
聞いてみるとアークもなかなかえげつないことを考えている。まあ、レオの誇張やウソも多分に入っているだろうが。意外とレオとアークは相性が良かったのかもしれない。
話していたレオがカサブランカに近寄って来る。
一瞬身構えたカサブランカだが、レオは余計な抵抗などをしないような人間だったことを思い出した。レオはカサブランカに囁いた。
「もうお前とも何回会えるか分からんからな、遺言だと思って聞いてくれ。兄からの最初で最後の忠告だ。」
そして声を潜めて言った。
「アークには気を付けろよ。あいつはお前より俺に似ている。」
「そもそも私はあんたに似てないんだけど。」
予定外のところに反論が来たことがおかしかったのか、レオはギロリと睨んでくるカサブランカに対して満足そうに笑った。
「ひゃひゃひゃ。自分中心なところ、自分以外の権力者が許せないところ、この世界は自分のために回っていると信じて疑わないところ、貴族が嫌いなところ。そっくりじゃねえか。」
「そんなにひどくないわ。」
レオはカサブランカの抗議を無視して続ける。
「アークはお前とは違って性格的な話じゃねえんだ。なんかその、、」
レオは自分の言語化にもどかしそうにしながら伝える。
「俺は戦いたいからという理由で王国を戦火で燃やした。お前がさっき言ったように手段と目的が入れ替わっているんだ。アークもそうだ。あいつは商人だ。金というのは手段だろ?うまい飯を食う、いい女を抱く、豪華な賞品を買う。そのために金が要る、そのはずだ。」
少し息を整える。
「だが、商人というのは金もうけのために金を稼ぐ。金は俺にとっては何かをする手段なのに、あいつにとっては目的なんだよ。だから、、、常人とは価値基準が違う。金のためなら手段を選ばないような人間だ。お前のような王族に寄生虫のように吸い付いてミイラにされちまうぞ。」
「はいはい、ご忠告受け付けたわ。」
カサブランカは適当に頷いて席を立った。あまり真剣な話をしてこない人間が真面目に語ってくるものだから、少し気まずいような気分だった。
「そろそろ出るわね。部屋の外でフランが心配しているだろうから。」
「おう、もう二度と来んなよ。」
「心配しなくても二度とこないわ。」
そしてカサブランカは扉の前まで行き、10年ぶりくらいに兄に笑顔を見せた。
「それじゃあ、さよなら。レオ兄さん。」




