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第78話 新メンバー?


 「連れてくって、何でまた……?」

 「この子はまだ十分な経験を積んでいませんし、あなた方と一緒なら私も安心ですから」

 「それはそうかもしれませんが……」


 確かに、人間のことを勉強するという意味ではユウト達と一緒でも問題ないし、単に放り出すよりは安心だというのも理解出来る。だが、人間に竜を預けるというのも、ユウト達が竜を連れているというのも、色々と問題がある気がする。

 ユウト達が返事に困っていると、ウェンディが茶々を入れる。


 「全く。母様はこの子に甘すぎるっすよ」

 「そんなことはありませんよ。まだ幼いのですから、相応に気をつけているだけです」

 「そんなことあるっすよ。ウチにはこんなに厳しいのに、差別っす!」

 「貴方も昔は可愛かったのですよ? 昔は」

 「昔、昔言わないで欲しいっすよ。ウチは今でもプリチーっすよ」


 あざとく可愛さアピールをするが、それに対する返事は可哀相なものを見る目と溜め息だった。しかも――。


 「ちょっ!? 兄様、姉様達まで!? ずっと黙ってたくせに、こんな時だけ揃って溜め息を漏らすとかどういうことっすか!?」


 ずっと厳かな雰囲気を出しながら黙っていた他の古代竜までもが、ウェルと同時に同じ行動を取っていた。


 「愛されてるな。ウェンディは」


 あまり見習いたくない愛され方だが。

 そんな意味を含んだギルツの言葉に、ユウト達も揃って頷いた。


 「どこがっすか!? もうこんな家族嫌っす。家出してやるっす!」


 涙を拭う素振りをしてから竜化し、飛び立つ。そして、去り際に。


 「いい年して若作りしてる母様なんて嫌いっすー」


 そう言った。

 その声が届くと、ウェルがすっと目を細めた。


 「っ!?」


 飲み込まれそうなほどの膨大な魔力に息を飲んだ。

 ウェルが魔力を纏うと、直後にほんの一瞬だけその魔力の圧力が数倍に増す。そして、纏っていた魔力を暴風に変えると超圧縮し、超極細のレーザーのようにして打ち出した。

 数瞬の後、遠くの空に見えていた大きな影が墜落を始め、僅かに遅れて断末魔の叫びが聞こえて来た。


 「今の……」


 ウェンディの声だったような――。

 ギルツがそう言おうとした瞬間、魅力的だが有無を言わさぬ迫力を持った笑顔をウェルが浮かべた。


 「何か聞こえましたか?」

 「気のせいでしたっ!」


 敬礼までしそうな勢いで背筋を伸ばしたギルツが瞬時に答える。エリスとソフィアもその惨事に怯えている中、唯一ユウトだけは別のことに気を取られていた。

 ――何だ今の。魔力が変化した……? どうやって?

 ウェルが魔力を纏った後、一瞬その圧力が増した。魔力の量が増えたわけでは無かったので、魔力自体に何か変化が起こったはずだ。そこまでは何となく分かるのだが、その先が分からない。

 そんなことを考えていると、ウェルが何も無かったかのように話を続ける。


 「とはいえ、それだけではあなた方に負担を強いるだけになりますから、私からは加護を与えましょう」


 変じた魔力の正体を考えるのに気を取られて頭が切り替わっていなかった、というのは言い訳だろうか。だが、ユウトだけでなく、他の三人もウェルを止められなかったのだから、責める資格はない筈だ。

 自然な動きでユウトに寄り添ったウェルがその頬に唇を触れさせた。その事実に気付いたユウトがまず考えたのはそんなことだった。そして、動きを止めている三人を順に見る。エリスとソフィアはまさかと言わんばかりの表情で固まっており、ギルツはこの後の一騒動を予見して呆れた顔をしていた。

 数秒後、ウェルがそっと離れると――。


 「あぁぁぁぁっ!?」


 遅れてあがったエリスとソフィアの悲鳴に、ユウトがびくりと肩を跳ねさせた。そして、ユウトに勢い良く詰め寄った二人は、怒っているような泣いているような、その両方が混じった形相だった。、 


 「何やってるのよ!?」

 「ちょっ、待って! 俺に責任は無い筈だっ!」

 「でも嬉しそうです! 頬が赤くなってますよ!?」

 「言いがかりです」


 動揺を隠そうとキリッと表情を固め、口調を正す。――が、逆効果だった。


 「敬語になってるわよっ」

 「私達の時より動揺してるじゃないですかっ」


 ユウトとの関係についてある程度整理をした二人も、これには我慢が出来なかった。目の前で浮気をされたようなものだ、と言ってしまうのはユウトに酷かもしれないが、二人にとってはそんな気分だった。とはいえ、ユウトにも言い分はある。そもそもユウトが望んだわけではないし、ウェルがこんなことをするとは誰も思わなかったはずだ。

 だが、そんな言葉で二人が止まる訳も無かった。




 なんとか落ち着かせようと言い訳を重ねるユウトと、それに納得できずに詰め寄るエリスとソフィア。その様子をウェルはくすくすと笑いながら微笑ましく、ギルツはそんなウェルを含めて呆れた目で見ていた。


 「仲が良くてなによりですね」

 「からかうにしてもやり方がな……」

 「いえ。今のは加護を与えるのに必要だったからですよ」

 「へぇ」


 ギルツが意外そうな顔をした。

 てっきりからかうためにやったのだと思ったのだが、ちゃんと意味があったらしい。


 「ですが、からかってみたかったのも事実です」


 そう言ったウェルの満足そうな表情はどこか子供っぽく、ウェンディに良く似ていた。

 ――やっぱり、親子だな……。変に好奇心が強そうなところが特に。

 被害を受けた相棒にエールを送りつつ、そんなことを思ったが、面倒なことになりそうだったので口には出さなかった。




 しばらくして、どうにか二人を落ち着かせたユウトは疲れた顔をしていた。


 「で、どうやって落ち着かせたんだ?」

 「後で二人に――。いや、何でもない」


 咄嗟に言いそうになって途中で止めたが、取引じみたことをしたのだろうと察するのは簡単だった。ギルツは後で二人からユウトに何をさせることにしたのかを聞き出そうと心に決め、今は話を戻すことにした。


 「それで、加護とか言っていたが、何なんだ?」

 「分かりやすく言えば、風を操る力です。ユウト。魔力を少し練りながら、手の平に風を集めるイメージを」

 「え? あ、はい」


 戸惑いながらも言われた通りに魔力を練って、イメージを固める。


 「出来たら、“風よ”と口にしてみて下さい」

 「“風よ”」


 そう口にすると、ユウトのイメージ通りに手の平に風が集まりだした。


 「これって……」

 「エルフが樹の魔術と呼ぶものと同種の力です」

 「でも俺は魔術が使えないのに」

 「加護と言ったでしょう。正しくは魔術ではありません」 

 「え? なら、私達の樹の魔術は……」

 「私がユウトに与えた加護と同じ、地の始祖竜がエルフの祖先に与えた加護です。だから、地の始祖竜が棲む大森林でしか使えないでしょう?」

 「それは……確かにそうだったけど」


 ソフィアが戸惑うのも無理は無い。ずっとエルフ特有の魔術だと思っていたものが、まさか始祖竜から与えられた加護だったのだから。だが、言われてみれば樹の魔術――正確には地の加護と呼ばれる物なのだが、通常の魔術と比べて異なる点が多かった。

 一つはウェルが言う通り、樹の魔術は大森林でしか使えないことだ。その事実に気付いたのは、以前にウェントーリ大山脈に向かう道中だった。樹の魔術を見てみたいと言ったユウト達の前で使おうとしたのだが、全く使えなかった。その時は大森林の木に秘密があるのかと判断したのだが、木では無く場所に理由があった。

 更に使用出来るのがエルフだけで、その威力や効果が術者の魔力の量と比例せず、発動に魔力をほとんど使わない。これだけ違いがあるのだ。確かに不思議ではあったのだが、そもそも魔術ではないと言われれば納得出来る部分も多い。

 そこであることに気がついた。


 「ん? ちょっと待って下さい。それじゃあ、この力もここから離れたら――」

 「風はどこの物というわけでもありませんから、全く使えないということはありません。ですが、かなり弱くなるでしょうね」


 それでは意味が無いとまでは言わないが、あまり戦力としては期待できないだろう。そう思ったのが伝わったのか、ウェルが苦笑する。


 「心配いりませんよ。そのための、この子です」


 そう言って騎竜を手招きして自らの近くに引き寄せ、その頭に手を載せた。すると、騎竜の姿が変わる。ウェンディや他の古代竜と同じ、どこか蜥蜴を連想させる体躯を群青色の鱗で包み、背には二対の翼を生やした風竜としての姿に。

 もっとも――。


 「キュイッ」

 「小さい……」


 手乗り竜とでも呼ぶべきか。どうだとばかりに翼を大きく広げて胸を張っているが、精々四、五十センチの超小型サイズで迫力よりも愛らしさが先に立っている。最早ぬいぐるみか何かにしか見えないサイズの風竜が翼を羽ばたかせてふよふよと飛んでいる姿は心が和む。そうして少しの間愛らしいサイズの風竜に見蕩れていたが、はっと我に返ると、大きく首を振った。


 「――じゃなくて。えぇと……?」

 「この子は私の娘。一緒に居れば、ここと同じように加護の力を使えるはずです。もっとも、竜としての力はほとんど封じてありますので、この子自身に大した力はありませんが」


 先程、それだけでは負担を強いるだけになると言ったのは、このことなのだろう。このミニ風竜自身に力は無いので面倒を見るという意味で負担しか無い。しかし、風の加護が与えられたことで、ユウトにも一緒にいる意味と利が生まれた。

 ――なんか、抱き合わせ販売みたいだな……。

 などと、失礼なことを考えもしたが、ユウト達にとっては悪い話ではない。風の加護の効果がどれほどのものかはまだ分からないが、地の加護が大森林でのエルフの強さに繋がっているのだから、同じ始祖竜の加護が期待外れということは無いだろう。


 「お前は、それでも良いのか?」


 ふよふよと宙に浮いているミニ風竜に声をかける。

 いくら母親の決定だとは言っても、本人が望んでいないのなら受けるつもりは無かった。


 「キュゥ!」


 しかし、ミニ風竜は勢い良く首を上下に振ると、ユウトの肩に乗り、首筋に長い尻尾を緩く巻きつける。絶対について行くと言わんばかりだった。


 「ふふっ。その子は貴方のことを気に入っていますから、聞くまでもありませんよ」

 「それは結構だが、竜の気配だったか? それがあると冒険者としては少々困ることになりそうなんだが……」


 ギルツがそう言ったのは、ここに来るまでの道中を思い出したからだ。

 竜の気配は周囲の魔物を怯えさせ、近寄ることを許さない。今回のように移動が目的の際には便利だが、これが討伐依頼などを受けている時であれば全くの逆効果になる。倒そうにも魔物が逃げてしまうのではどうしようもない。


 「その心配はありませんよ。竜としての力を封じたと言ったでしょう? 今回は完全に竜の気配を断ちました。今のこの子に竜の気配はありません」


 その答えにギルツは納得したように頷いた。

 竜の気配は体質ではなく、竜としての能力のようなものだ。そのため、ウェンディのように一人前になれば自分の意思でオンオフを切り替えられる。ミニ風竜はまだ幼いため自分の意思では出来ないが、ウェルの手でそれを行なうことは出来る。

 山を下りている間魔物に襲われる危険を減らすため、今までウェルはある程度その気配が残るようにしていたが、これから先ユウト達と一緒にいるのなら、その必要は無い。そう判断したためだった。


 「それと、その子にも名前がありませんから、付けてあげて下さい」

 「俺が……ですか?」

 「はい。折角なので」


 母親であるウェルが名付けるべきではと思いもしたが、機嫌の良さそうな様子を見る限り、言ってもおそらく最終的には押し切られることになるだろう。

 ――さて、どうしたものか。

 諦めて名前を考えるが、全く自信が無い。自慢じゃないが、そういうセンスが自分にあるとは思っていない。そもそも和名の国で過ごしていたユウトに洋風の名前を考えろ、というのも無茶な話ではないだろうか。となると、完全なオリジナルよりはどこからか引っ張ってきた方が現実的だ。

 ――風竜。風……。シルフ、とか?

 思いついたのは、風の精霊としてゲームなどに良く出てくる名前だ。ありきたりだが、ハズレでは無いだろう。もっとも、そのままというのも芸が無いというか、期待して目を輝かせている肩のミニ風竜に申し訳ない気がする。そうして頭を悩ませた結果――。


 「シル?」

 「はい。どうでしょうか?」


 母親がウェルなので、語感を合わせてみた。一文字削っただけなのは芸があるのかという疑問は脇に置いておく。これが精一杯だ。

 ウェルは少し考えてから、「どう?」とシル(仮)に聞くと、「キュウっ」と元気良く鳴いた。


 「そう、気に入ったのね。私も良い名前だと思います」

 「なら?」

 「ええ。これからこの子のことはシルと」

 「はい。――よろしくな。シル」


 そう言って肩のシルに手を伸ばすと、握手をするように器用に両の翼でユウトの指を包んだ。その可愛さに頬を緩めていると、エリスとソフィアが近寄ってきて、同じようにシルに言葉をかける。


 「よろしくね。シル」

 「シルさん。よろしくお願いします」


 二人ともそう言って微笑んでいたが、どこかその笑顔に威圧感があり、シルとの間で火花が散っていたように見えた。きっと疲れているからに違いない。

 そうしてシルを仲間に加えることが決まったところで、ウェルがユウト達に尋ねる。


 「これから、どうするのですか?」

 「折角ヒントを貰えたし、しばらく鍛錬を行なおうと思ってます。……今のままじゃ、ヴァルドを倒せるか分かりませんから」


 ギルツ達と顔を見合わせた後、ユウトが答えた。

 ウェルからヒントは貰うことは出来たが、それだけだ。そのヒントを元にどれだけ力を伸ばせるかは、これから次第になる。

 少しでも早くスバルを解放したいという気持ちは勿論あるが、失敗すれば元も子もない。今は確実に力を付けるのが最優先だった。


 「そうですか……。それなら、うってつけの場所があります」

 「うってつけの場所?」

 「ええ。今のあなた方には良い鍛錬になるでしょうし、そこで手に入れた物は自由にしてくれて構いません。元より私がどうこう言えるものではありませんし。ただ、そこのことは誰にも話さないで下さい。良いですか?」

 「それは勿論構いませんけど……。一体どこに?」


 そう聞くと、ウェルは人差し指だけ伸ばして、真下に向けた。


 「この下です」




 地面を指差したウェルに怪訝そうな顔をしたユウト達だったが、ここの地下に存在しているモノのことを告げると、納得した様子で地下に続く道に向かっていった。

 その姿が見えなくなった頃。


 「良かったっすか?」


 ウェルの頭上から声が降った。どこかへ飛び去ったはずのウェンディが戻ってきたのだ。ウェンディが地面に降りて人化するのを待って、ウェルが叱るような声を出した。


 「家出したのでは無かったのですか?」

 「そんなこと言ったっすか?」


 ウェルが惚けた顔をするウェンディを見やる。それにしても、この飄々とした性格は誰に似たのか。と、ウェルは深い溜め息を吐いた。

 最初から本気で家出をするつもりが無いのは明白だった。そもそも家出など無意味なのだ。風の始祖竜であるウェルの知覚は、風の存在する場所であれば基本的にどこであっても及ぶ。要するに、ウェンディがどこに居ようと分かるし、声を届けることも出来るのだ。そんな状態でここを離れたとしても、それを家出とは呼べないだろう。それを理解しながら家出と口にした辺り、ふざけていたのが良く分かる。


 「それで……。良かったとは、何がですか?」

 「あのことを言わなくて、っすよ。伝えておいた方が良い気がするんすけど?」

 「言わずに済むのならばその方が良いのですよ。下手に刺激する必要もありません。それに、今のユウトは不安定です。スバルのことで怒りや焦りがあるのでしょうが、今伝えれば逆効果にしかならないでしょう」

 「それは確かにそうかもしれないっす」


 先程ヴァルドに対して怒りを抑え切れなかったところを思えば、ウェルの言うことは正しい。スバルが戻れば精神状態も安定するだろうから、その時に伝えるかどうかは兎も角、少なくとも今は伝えない方が良いという判断にはウェンディも納得できた。


 「それにしても、加護を与えただけじゃなく、あの子――シルまで預けるなんて、随分ユウト君に肩入れしてるっすね」

 「そんなことはありませんよ。これはあくまで私に与えられた使命の一環に過ぎません」


 ウェルは澄ました顔で否定しているが、それは単なるポーズでしかない。

 そもそも、始祖竜の使命はこの地を護る(・・・・・・)ことにある。人間に力を与えるのは、そのために利用価値があるからに過ぎない。同じ使命を帯びている他の始祖竜も時折選んだ人間に助言をしているが、ウェルに比べればもっとドライというか、淡白だ。あくまで利用する相手と理解しているからだろうが、そういう意味ではウェルは人に近しくなり過ぎている。当然、それは始祖竜として良いことではない。

 だが、ウェルは自身のスタンスを変える気が無いため、そういうポーズだけでも取っているのだ。

 ――全く白々しい。……なんて、ウチが言えた事じゃないんすけどね。

 そう思うのは、ウェンディ自身がそんな母親と同じスタンスを取っているからだ。

 ほとんど山に篭りっぱなしの兄姉達と違って、ウェンディは用が無くても頻繁に人の中に紛れている。特に、麓の村にはほとんど日を置かずに通っているくらいだ。

 古代竜であるウェンディからすれば、人間は吹けば飛ぶような存在でしかない。だが、そんな人間達が喜び、怒り、哀しみ、楽しんで日々を懸命に生きている姿に、使命に縛られただけの竜には無い輝きを見たのだ。そして、いつからか好きになっていた。

 きっと、母もそうなのだ。だから勉強と称して、我が子を人の中に紛れ込ませるのだろう。より近くで知ることで、自分と同じように人間を好きになってくれるかもしれないと。

 そんな人間寄りの考えを持つウェルだが、今までに加護を与えた相手は一人も居なかった。加護を与えるというのはそれだけ特別なことなのだ。その時点でウェルがユウトを特別扱いしているのは明らかだが、理由を付けてウェンディを使わしたり、自分の末の娘を預けたりと、これだけしておいて何も無い筈が無い。

 ――まあ、その理由は分かってるっすけど……。

 態度にこそ出さなかったが、あの時(・・・)は珍しくウェルが気落ちしていた。当時はまだ末妹だったウェンディでも察することが出来たのだから、余程の事だ。ウェンディも当時は残念だとは思ったが、ウェルはそれだけではなく後悔もしているのだろう。ウェルが躊躇ったために、()を失う結果になったことを。

 だからユウトに(・・・・・・・)肩入れしているのだ(・・・・・・・・・)

 もっとも、それを言ったところでウェルが大っぴらに認めることは無いだろう。そういう母だ。


 「確かに一環と言えば一環っすね。――他の人に比べて過度な気がするっすけど」

 「そういう貴方こそ」


 分かった上でからかおうとするウェンディだが、ウェルはすかさず言葉を返す。


 「わざわざ私を怒らせるようなことを言って、ユウトに直に魔術を見せようとしたりして」


 やっぱり気付かれていたか、とウェンディが密かに笑う。だが、確かにそういう意図はあったものの、あれはウェンディ一人の意思では成立しない。


 「それは誤解っすよ。別にお仕置きするなら魔術である必要はないじゃないっすか。あそこで敢えて魔術を使ったのは、母様の判断っすよ?」


 今度はウェルが口の端を僅かに吊り上げた。そして、両者の間に沈黙が落ちる。


 「……うふふふっ」

 「……あはははっ」


 一拍置いて、顔を見合わせた両者が不気味な笑い声を漏らす。

 周囲の古代竜達がそんな母と妹の空々しいやり取りを、「似た者親子……」と呆れた目で見ていたのは言うまでも無い。


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