08 与えられた房
与えられた小房は簡素でありながら品が良い造りをしていた。壁や柱の塗装は剥がれておらず、机案や臥台が置かれており、贅沢にも硝子がはめ込まれた大窓が太陽の光を房内に招き入れている。細部に目を通しても蜘蛛の巣はおろか、黴すら生えていない。
しかも一人部屋。黴と埃だらけの襤褸い空間に大人数で生活していた綺宵は思わず両目を丸くさせて、背後を振り返った。
「あの、本当にここを私一人で使ってもいいのでしょうか?」
「もちろん」
案内役を務めてくれた凌峯は淡々とした口調で答えた。
「お前の役目は彩王さまのお側にいることだ。ここはあのお方の臥室から近い。呼ばれたら寸秒で迎え」
「承知いたしました。あの、それで私はなにをすればよいのでしょうか?」
ぴくり、と凌峯の片眉が跳ね上がる。
なにが琴線に触れたのか分からず、綺宵は生唾を飲み込む、言葉の先を待つ。
「お前は夜警のみ務めればいい」
おそらく言葉通り、綺宵の仕事は夜警のみであって、配膳や洗濯などといった雑務はしなくてもいい、日中は身体を休めろ、という意味だろう。
「時間になれば人を呼びにこさせる。それまではここで待機していろ」
と言い残して凌峯は退室する。
一人残された綺宵は、やっと監視の目が無くなったことで大きく息を吐くと臥台に腰掛けた。
(……凌峯も変わったな)
二十一年という時の流れは、綺宵の想像以上に重いものだった。
炎で崩れたはずの皇城が再建築されており、殿舎の配置も庭園の細部も全てがあの頃のままなので感覚が狂っていたようだ。
建造物と違い、人間の心とは変わりやすい。無邪気な子供が世界を知り、大人になったように。壮年の人間が、老人の域に達したように。凌峯の中で変化があってもおかしくはない。
(凌峯はきっと僕を恨んでいる)
凌峯が変わるきっかけを考えた時、一番に浮かぶのが皇城が反乱軍の手によって攻め落とされた夜だ。自身が火傷を負うのも厭わず、凌峯は炎に舐られた蒼詠を助けようとした。
それを蒼詠は冷たく突き放した。
ひどい言葉を投げかけて、その手を振り払った。
全ては凌峯に、——大切な者たちに生き延びて欲しい一心での行動だった。
(それだけのことを《《僕》》はした)
あれだけ忠誠を誓い、尽くした相手から拒絶されれば、ああなっても仕方ない。
(でも、龍賢についてくれたのなら安心だ)
龍賢はきっと臣下の期待に応えてくれるはずだ。自身の出自から異民族であっても平等に接し、誰の言葉でも耳を傾ける柔軟さを持ち、鍛えられた体躯は民や臣下を守ることができ、知識も砂が水を吸い込むようにすぐさま吸収していった。
(龍賢は王に向いている)
——身体が弱いだけのお飾りな皇太子・蒼詠よりも。
綺宵は褥に横たわり、腕で目元を覆う。涙はでないのに、悲しくて仕方がない。
だって、今の龍賢は、蒼詠が求めていた全てを持っていたから。




