第5話 ダンジョン配信で、人気を駆けのぼれ!
Vtuber事務所バズリアとしての戦略を考えるため、俺は魔導板を取り出す。
これは転生したとき、女神から貰ったものだ。
「この世界では、大体みんな魔導板を持っているのかい?」
「はい。成人すると、政府から支給されますので。国営公報や危機管理情報も魔導板で共有されますし、この世界にはなくてはならない存在です!」
魔導板は、元の世界の簡易タブレットのような機能を持っているらしい。
配信と動画の視聴、また配信と連携した魔導掲示板の閲覧と書き込みが可能だ。
「個別にメッセージを送ったりは出来ないんだな」
「そういう機能は聞いたことがないですね。あ、でも、お互いに登録しておけば通信で会話は可能です!」
「なるほど。メール機能はないが、限定的に電話機能はあるということか」
「……?」
「はは、こっちの話さ。さて、動画の確認方法は……」
配信は自動で動画として保存され、いつでも閲覧できる仕組みのようだ。
また、名場面をピックアップしたいわゆる「切り抜き動画」も有志によって量産されていた。
前回のダンジョンでエルミアがゴーレムを倒す場面もばっちり切り抜かれており、反応は上々だ。
「本当に配信環境が充実しているんだな」
「そうですね。元々は国家専属の冒険者が、広報やダンジョンの情報共有のために配信を始めたのがきっかけのようです。それが次第に、一般の冒険者へも広まった形ですね」
「ふむ……しかし、ダンジョン配信と国営広報以外の動画はないんだな」
「へっ? あ、はい、ええと、他に動画ってあるんですか?」
エルミアがきょとんとした顔で答える。
「ははは、勿論さ。配信も動画も、無限の可能性がある! 歌にエンタメ、何でもできるさ」
「配信で歌ですか!?」
「そうとも。俺のいた世界の配信は、そういう楽しいもので溢れていた」
目を細めて懐かしむ俺に、エルミアが静かに訊ねる。
「……社長は、元の世界でVtuberだったんですか?」
「さあて、どうかな」
俺は敢えて答えず、ニヤリと笑った。
「いつか、また真実を伝えるべき時が来るかもしれないな!」
「え、なんですかそれ、気になりますよぉ!」
「秘密があった方が楽しいだろ?」
「むむむぅ」
難しい顔をするエルミアの頭を、俺はそっと撫でる。
「もし、エルミアが最高にバズったら――そのときは、俺の正体が分かるかもしれないぜ?」
「それなら、私、頑張りますから」
エルミアは気を取り直したのか、俺を見つめて胸を張って笑った。
「覚悟していてくださいね、社長さん!」
◇ ◇ ◇
エルミアから得た情報も考慮して、俺はまずダンジョン配信を繰り返すことにした。
この世界ならば、エンタメ配信は強力な一撃となるだろう。
それを十分に受け入れられるための下地を、まずはガッチリ作り上げることにしたのだ。
<<【バズリア】地底湖ダンジョンを攻略していくぞ!【杖ぽかん】>>
「あなたの悩みを杖でぽかん! ご覚悟! 物理エルフ、バズリア所属のエルミアです!」
エルミアの口上も、なかなか様になってきた。
可愛らしい性格と豪快な戦い方のギャップで、彼女の人気も急上昇中だ。
「今日は地底湖ダンジョンにやってきました」
「ここの最深部には、ドラゴンがいるという噂もあるな」
「ドラゴンですか!? さ、流石に怖いですね」
「はは、またまた。エルミアなら、杖でぽかんだろう!」
「社長ってば……!」
【コメント】
「杖ぽかんで行けそう」
「でも、ここのドラゴンって滅茶苦茶レベル高いんでしょ?」
「エルミアちゃんならやれるー」
「社長を盾にしよう」
「社長の仮面を武器にしようぜ!」
今日も元気にモンスターを倒しながらダンジョンを進んでいたが、エルミアがコメントを眺めつつ呟いた。
「そういえば、社長は仮面は外さないんですね」
「ああ。俺は顔出しNGなのさ」
「え、そう言われると、気になりますよ!」
「ふっふっふ。この仮面、外してみる勇気はあるかい?」
俺が意味深な笑みを浮かべると、エルミアは少し狼狽えた。
「ううっ、そ、そう言われると!」
【コメント】
「いけー!」
「やったれ、やったれ!」
「ぽかんだ」
「ご覚悟!」
「ご覚悟!」
コメント欄を見たエルミアは、力強く頷き俺へ向き直る。
「社長……ご覚悟!!」
そして彼女が俺の目元のハーフマスクを外した、次の瞬間――!
~提供~
この世界は、女神さまの力でお送りしています。
皆さん、感謝してください。
配信画面が煌びやかに輝き、女神の広告文が浮かび上がってきた。
「ええっ!」
困惑したエルミアが仮面を俺の顔に戻すと、画面は何事もなかったかのように正常に戻る。
「い、今のは何ですか!?」
「実はこの仮面には呪いがかけられているらしくてな。外して配信画面に移ろうとすると……女神のCMが流れる仕様になっているんだ!」
「どういうことですか!」
「ちなみにスキル『理想投影』も、そもそも自分には使用できない。つまり、俺はプロデューサーに徹するべき存在、すなわち社長と言う訳だ!」
【コメント】
「草」
「女神CMって何!?」
「いや、むしろありがたいのでは?」
「社長呪われてるの草」
「杖ぽかんで呪い解けない?」
「ははは。みんなに、俺のイケメン顔を披露できないのが残念だぜ。なあ、エルミア?」
ちらりとエルミアを見やりながら目を細めると、彼女は慌てたように顔を伏せた。
「は、はいっ。社長の素顔は、私だけの秘密です!」
◇ ◇ ◇
そんな俺たちの配信を、悔し気に眺めているエルフパーティがいた。
「くそっ、エルミア……! あの出来損ないが、どうしてっ!!」
彼らの魔導板には、楽しそうにダンジョン配信するエルミアと、それを盛り上げる多数のコメントが映し出されていた。同接数も2000を越え、すっかり人気冒険者となっている。
「ねえ、このままじゃ私たち立場がないわよ」
「分かってる!!」
「ならば格の違いを見せつけてやろうぜ?」
「え?」
「地底湖ダンジョンのドラゴンを討伐するのさ! 俺たちならAランクダンジョンでも通用する……証明してやる!」
Fever Gage ★★★★★☆☆☆☆☆




