第4話 設立!異世界初のVtuber事務所『バズリア』
「お疲れ!」
「お疲れ様ですっ!」
俺とエルミアは初の配信を大成功で終えて、町の宿屋の一室で祝杯をあげていた。
「同接数が1000を越えると、配信の報酬もたくさんもらえるんですね」
エルミアがにこにこと報酬金の入った革袋を眺める。
この世界の冒険者は、同接数に応じて報酬が貰えるらしい。
「国から即日支給されるなんて、良い待遇だな」
「それだけ、国は冒険者を求めているのだと思います。昨日までの私のような――殆ど視聴者のいない配信者でも、冒険者登録してダンジョンに潜るだけで多少のお金が頂けていましたから」
「ほう、冒険者が不足しているのか」
「そうですね、なにせ危険を伴う仕事です。志しても、すぐに引退する方も多いようです」
少しだけ沈黙を挟んで、それでもエルミアは力強く続けた。
「だけど、必要な仕事でもあります。放置されたダンジョンからは魔物が溢れて近隣の村を襲うこともありますし……。勇敢に戦う冒険者さんの配信は、視聴者の希望にもなっているんです!」
「なるほどな。ありがとう、勉強になった」
しみじみと頷く俺を、エルミアが不思議そうに見つめる。
「……社長さんって、不思議な人ですね。配信に詳しいのかと思えば、冒険者のシステムをご存じなかったり」
俺は少し考えた後、自分のことを正直に話すことにした。
「ああ。俺はこの世界にやってきたばかりの転生者って奴だからな」
「テンセイシャ?」
「そうだ。信じられないかもしれないが、元は別の世界で生きていたんだ。それが……まあ、ちょっとした事故で、今いる世界にやってきたって訳さ」
流石に、女神によるスパチャ事故で死亡したことは伏せておいた。
それにしたって荒唐無稽に感じられる話だっただろうが、エルミアは真面目な顔で聞いてくれている。
「俺には元々、夢があった。配信で沢山の笑顔を作りだすことだ。そしてその輝かせる原石を探す俺の目の前に、エルミア、君が現れたんだ。――なんて話、信じるか?」
少しだけ冗談めかして、俺は仮面越しにエルミアを見つめる。
エルミアは少しだけ緊張した面持ちで自分の手を握り締めてから、それでもはっきりと答えた。
「しっ、信じます!!」
「ははは、簡単に信じてくれるんだな。少し心配になる」
「誰でも信じる訳じゃないです。でも、社長さんだから!」
慌てたように、エルミアは身を乗り出す。
「私の想いを、頑張りを、見抜いてくれた社長さんだから――信じます!」
それは、はっきりとした意思を持った声だった。
彼女の芯の強さが感じられた。
「……そうか。ありがとう」
俺は静かに微笑む。
異世界にやってきて、期待と共に張りつめていた気持ちが少しだけ緩んだ気がした。
俺はエルミアに向かって、握手を求めるように手を差し出した。
「改めて、俺は皆月聖夜。まあ、簡単に社長と呼んでくれ!」
「わわわっ! 私はエルミア……エルミア・ムーンライトです」
エルミアは狼狽えながらも、しっかりと両手で手を握り返してくれた。
その姿を確認しながら、俺は彼女へ問いかける。
「それで、エルミアはこれからどうするんだ?」
「へっ?」
「今日の同接は1000を超えた。君は胸を張って、仲間たちの元へ戻れるだろう」
「はい。それは……そう、なのですが……」
今は俺のスキル『理想投影』は解除している。
魔女服姿のエルミアは少しだけ沈黙を挟んでから、とんがり帽子を脱いで深々と頭を下げた。
「私、まだまだ、社長さんの元で配信を続けたいです。初めてこんなに楽しくて、明るい気持ちになれたんです。自分の本当の夢に、一歩近付けた気がしたんです」
顔をあげたエルミアの目は、きらきらと輝きに満ちていた。
「お願いします、私を弟子にしてください!」
「よく言った!」
俺は満足げに頷くと、ニヤリと笑う。
「だが、俺は師匠ではない。社長であり、プロデューサーさ!」
「プロデュ? な、なんですか?」
「演者を育てる仕事だよ。丁度いい! よし、エルミア、配信を開始するぞ!」
「ええっ、今からですか!? 夜ですよ!」
「だから良いんだ。昼の配信が話題になったからな。今なら日中仕事しているリスナーも取り込める!」
俺はエルミアに『理想投影』をかけると、浮遊魔導カメラの撮影ボタンを押した。
<<<緊急配信枠!物理エルフと社長からの重大発表!>>>
「物理エルフって私ですか!?」
「そうさ。キャッチ―で分かりやすいだろう?」
「な、なんだか恥ずかしいですね」
「恥ずかしがってる暇はないぜ。もう配信はスタートしている!」
「ええっ、あ、み、皆さん、こんばんは!」
【コメント】
「こんばんはー」
「あれ?ダンジョンじゃない?」
「緊急って何だ?」
「わー、本物のエルミアちゃんだー!」
「社長はいつ見ても不審者で笑う」
「集まってくれてありがとう。今日は、皆に緊急のお知らせがあって撮影しているぜ」
流石に昼の配信効果で、続々と人が集まってくる。
少し緊張した面持ちのエルミアを微笑ましく思いながら、俺は画面に向き直った。
「エルミアが、正式に俺の元で配信活動をしてくれることになった!」
「へえっ!?」
素っ頓狂な声をあげたエルミアへ、俺は促す。
「さあ、エルミア、挨拶を!」
「あ、あわわ、私、エルミア・ムーンライトですっ。まだまだ未熟者ですが、鍛錬を重ねて立派な冒険者になるのが夢です。宜しくお願い致します!」
【コメント】
「ぱちぱちぱちぱち」
「ぱちぱちぱち」
「おめでとー」
「まだ強くなる気なの!?」
「良い子だなぁ」
「ありがとう、エルミア。そして俺は同時に、Vtuber事務所の設立を宣言する!」
高らかに言い放つ俺に、エルミアが不思議そうに首を傾げた。
「ぶ、ブイチューバー、ですか?」
「そう。Vtuber、それはなりたい姿で皆に夢を与える、最強の仕事さ!」
「……!!」
俺の言葉を聞いたエルミアが、目を輝かせる。
「社長である俺のスキル『理想投影』で姿を変え、配信を通して活躍するんだ」
「や、やります! やらせてください!!」
同意したエルミアに頷き、俺は画面へ腕を突き上げる。
「事務所名は『バズリア』だ! みんな、覚えてくれよな!」
【コメント】
「盛り上がってきました!」
「なんか面白そう」
「支援」
「頑張れー!」
「チャンネル登録しました!」
「そんなわけで――」
俺はぐいっとエルミアの肩を抱き寄せて、不敵に笑った。
「エルミアの元仲間たちよ。この娘は俺が頂いた! 後悔しても、もう遅いぜ!!」
「しゃ、社長っ……!」
俺のパフォーマンスに、エルミアもぽっと頬を赤らめた。
――なかなか良いリアクションじゃないか、やるな!
【コメント】
「誘拐犯の言いぐさで草」
「社長、そこ場所変われ」
「エルミアたん逃げて―」
「逃げなくても、物理で殴れば解決では??」
「仲間たち悔しがってそう!」
「そんなわけで、バズリアのエルミアと社長を宜しくな!!」
大盛り上がりのままに、緊急配信は終了する。
こうして、俺はVtuber事務所『バズリア』を異世界で設立させたのだった。
Fever Gage ★★★★☆☆☆☆☆☆




