第21話 歌ライブで戦闘だ!エルミアとカリーナvs四天王ルーベウス!
神秘的な雰囲気の水晶の洞窟内に、浮遊スピーカーからの音楽が響き渡る。
爽やかなアップテンポのイントロに続いて、エルミアの真っ直ぐな歌声が響く。
「澄んだ青い空気 胸に吸い込んで 一歩ずつでも進みたいの
震える手でも離さない この想い 守りたいから――♪」
エルミアからの視線を受けて、カリーナが頷く。
彼女は高らかに伸びやかに、歌を紡ぎ始める。
「これまでの迷いは 切り捨てて 新しい世界に飛び込んでいく
広がる白い衝動 抑えない この想い 伝えたいから――♪」
【コメント】
「ぱちぱちぱち」
「やっぱり良い曲!!」
「エルミアちゃんもカリーナちゃんも最高!」
「二人の声が好き」
「前よりもっと上手くなってる気がする!」
「いけー!」
「よし!!」
ルーベウス登場で萎縮していたコメントの勢いが復活し、急速に賑わい始める。
それと同時に、同接数が跳ね上がり始めた。
「ふん。歌か。それが何だと言うんだ。――行け!!」
ルーベウスは冷ややかな眼差しで配信画面を一瞥すると、壁際に控えていた魔物たちへ指示を出した。
クリスタルスライムやジェムバット、クォーツゴブリンが群れをなして二人へ襲い掛かる。
エルミアとカリーナは、それでも歌うことを止めない。
「こわくてもいい 逃げたくない♪」
「強くなりたい? ならついて来い♪」
「「ぶつかるほど 輝くんだ 正反対で ちょうどいい――♪」」
エルミアが杖でジェムバットを叩き落とし、カリーナは炎魔法でクリスタルスライムとクォーツゴブリンを焼き払った。
二人は顔を見合わせて笑顔で頷き合うと、共にルーベウスの方へと駆けだしていく。
【コメント】
「強い!!」
「よし、いけー!」
「二人ならやれるぞー」
「やっぱりエルミアとカリーナが一番!!」
「頑張れ、負けるなー」
「足場崩れてる、気を付けて!」
「狼来るぞ!!」
「「静かな願いと 動き出す鼓動 交わる瞬間 世界が変わる
譲れない想い 重ねたなら 最強の光になる――♪」」
二人の行く手を阻むように、身体が結晶でできた狼――シャードウルフが突撃してくる。
「詠鎖!」
「――はぁ!!」
カリーナの詠唱により狼たちが拘束され、その瞬間にエルミアの杖が狼たちを弾き飛ばす。
二人は勢いを止めないまま、ルーベウスへと迫る。
【コメント】
「神連携!」
「おおおお、一撃!」
「息ぴったしじゃん!」
「いけーっ」
「おおおおおおおっ」
「ルーベウス、いけるぞ!!!!」
エルミアとカリーナは同時に地を蹴って、ルーベウスへと全力で攻撃を放つ。
「炎詠・降句!!」
「ご覚悟!!」
ルーベウスは避ける素振りすら見せず、僅かに腕を持ちあげた。
「話にならない。魔力奔流」
それは唯の強烈な魔力の波動。
だが、ルーベウスが放てば、それだけで即死級の凶悪な技と化す。
「きゃああああっ!?」
「ぐっ、ああっ!!」
カリーナが反射的に防御壁を張ろうとしたが間に合わなかった。
二人は弾き飛ばされて、激しく水晶の地面へ叩きつけられる。
「エルミア! カリーナ!」
俺は思わず叫んだが、二人の目はまだ諦めていなかった。
「エルミア!」「エルミア!」
「カリーナ!」「カリーナ!」
「空と雲の下で突き進め――♪」
二人は歌いながら自分たちを鼓舞し合い、よろめきながらも立ちあがる。
「物理!」「物理!」
「魔法!」「魔法!」
「二人で、限界なんて壊して――♪」
もう一度、エルミアとカリーナは同時に駆けだした。
今度はカリーナが何枚も防御壁を展開し、その内側からエルミアが殴りつける作戦らしい。
しかしルーベウスは迫りくる二人の攻撃にも、冷然としたままだった。
「何度やっても同じことだ。魔力奔流!」
先程より、更に強烈な魔力の波動が多段階でエルミアとカリーナを襲う。
防御壁は呆気なく砕け散り、今度は二人は水晶の洞窟の壁に叩きつけられた。
【コメント】
「わああああああああ」
「実力が違い過ぎる…」
「やばい、ふたり生きてる?」
「まずいまずいまずい」
「エルミアちゃん!カリーナちゃん!」
「どうしたら良いの。頑張って欲しいけど、死んでほしくないよ」
「コメント欄、弱気になるな!!」
絶望的な状況だが、俺は敢えて不敵に笑いながら声をあげる。
「俺たちには”とっておき”があるだろう? だったら、出来ることは何だ?」
俺の言葉で、一部の視聴者は”あること”に気づき始めたようだ。
そんなやりとりを嘲るように、ルーベウスが叫ぶ。
「分からないのか? 夢を見るのは止めろ。貴様たちに出来ることは、もうない」
ルーベウスは俺を鋭く睨みつけた。
「貴様たちは知らないのだ、理想に殺されたあの時代を!」
「……!」
「魔王さまが、どんな仕打ちを受けたのか!!」
冷淡に見えるルーベウスの表情に、隠し切れない憤りが滲んでいた。
俺はその眼差しを真っ直ぐ受け止めて――笑った。
「ああ。知らないね。だが、――今の理想と熱狂の力なら知っている!!」
俺は大きく声を響かせた。
「エルミア、カリーナ! 画面を見ろ!!」
「「!!」」
【コメント】
「頑張れ、頑張れ、最後まで応援する!」
「いけーエルミアちゃん!」
「立ちあがって!」
「カリーナアンチだったけど、応援する。頑張れ」
「支援」
「カリーナちゃん、ついていきます!」
「みんな一緒だ、やろう!!」
二人は画面いっぱいに高速で流れていく応援コメントを見て、立ちあがった。
息も絶え絶えで傷だらけだが、それでも瞳に再び闘志が宿る。
「優しさだけじゃ届かないなら 強さをこの手に宿すよ
ご覚悟、いいですか? 迷いごと 打ち砕く――♪」
「好きを全部 包み込んで 本音を隠さず 突き進む
狭い世界じゃ終わらない これが私の最強魔法――♪」
「そう、何があったのかは知らない」
「でも…」
「「皆が応援してくれる限り、私たちは諦めない!!」」
限界までバフ魔法を重ねたエルミアとカリーナが、捨て身のラッシュ攻撃を始めた。
エルミアの拳が、目にもとまらぬ速さで打ち出される。
一撃、二撃、三撃――砕けた水晶を踏み砕きながら、前へ、前へと押し込んでいく。
カリーナの魔法が、その隙間を縫うように叩き込まれる。
炎が裂け、爆ぜ、ルーベウスの視界を奪う。
全てを薙ぎ払うような魔力奔流がルーベウスからも連続で放たれる。
それでも二人は止まらない。
カリーナの魔力障壁を盾に、叩いて、叩いて、叩き続ける。
「くっ……もうとっくに限界のはずだろう!」
ルーベウスの表情が初めて歪み、ラッシュの勢いに押されて一歩後ずさる。
【コメント】
「うわあああああ、いける!?いける??」
「ルーベウス焦ってるぞ!」
「障壁遅れてきた、気を付けて」
「エルミアちゃんナイス拳!」
「いけいけいけいけいけいけ!」
「やれるぞー!諦めるなー!!」
爆発するコメントの盛り上がりに後押しされるように、エルミアとカリーナの火力は上がっていく。
「その一歩が 未来になる♪」
「その覚悟 嫌いじゃない♪」
「「違うからこそ 意味がある 混ざり合って 無敵になる――♪」」
そして、ついに二人で放った一撃がルーベウスに当たりそうになった――その瞬間、
「くだらん!! 黒詠・断罪の雷」
ルーベウスの怒鳴り声が響くのと同時に、強烈な黒い電撃が洞窟内を駆け巡った。
エルミアとカリーナが大ダメージを負うのは勿論、浮遊スピーカーも全て破壊されて落下する。
今まで音楽に溢れていた洞窟内が、静まり返った。
余りの展開に、コメント欄も完全に停止してしまっている。
「今のでよくわかった。やはり、配信など取るに足らない遊びだ」
静寂の中で、ルーベウスの声だけが良く響いた。
彼は一歩、また一歩と、エルミアとカリーナへと近づいていく。
エルミアは見せつけられた力の差に愕然としながらも、ボロボロの身体で無理やり起き上がろうとした。
「くっ。それでも、一人じゃないから。私は、諦めな――」
「もういいわ、エルミア」
そんな彼女を制止したのは、傍で倒れていたカリーナだった。
カリーナの表情には、悲痛な決意が宿っていた。
「か、カリーナさん?」
「もういいの。今まで……ありがとう。あんたと社長を最後の力で転移させるわ。どうか、逃げて」
「そんな!!」
素早く転移魔法をかけようとするカリーナだが、ルーベウスの追撃で弾き飛ばされて阻止される。
「きゃあっ!?」
「カリーナさん!!」
ぐったりと横たわるカリーナへ声をあげた後、エルミアはルーベウスを睨みつける。
ルーベウスはそんな二人の様子を全く意に介さないように、涼やかに告げた。
「素晴らしい仲間愛だな。ならばここで全員、潔く散れ」
「くっ……!」
「貴様たちの行動、全てが無駄だったのだ」
「無断なんかじゃ!」
「ならば、何をなした? 私に一撃を与えることすらできず、惨めに敗北しただけではないか」
エルミアは言葉を返すことが出来ず、苦し気に眉を寄せて俯いた。
それでも、カリーナを放っておくことは出来なかったのだろう。
身体を引きずりながらカリーナへ近づき、彼女を庇うように覆いかぶさる。
ルーベウスはその行動を無表情で見つめた後、二人の方へと手を翳した。
「――死ね。終焉術式」
濃縮された魔力の塊が、黒い波動を放つエネルギー弾となってエルミアとカリーナへ飛んでいく。
あわや、二人がその衝撃に飲み込まれそうになった、その時だった。
「まったー!!」
水晶の洞窟内全体が、ぱっと暗闇に包まれる。
それはまるで――舞台の始まりの合図のように。
「まだまだ、エンディングには早いでしょ?」
次の瞬間、辺りは色とりどりの煌びやかなライトで照らされた。
中央上空には、満タンになった巨大なフィーバーゲージが輝いている。
Fever Gage ★★★★★★★★★★
続いてスポットライトが中心に当たる。
そこにはカリーナとエルミアを引き連れ立つ俺――赤猫ルピアの姿があった。
「さあ、特別ライブのはじまりにゃあ!」
音楽が途切れたはずの水晶の洞窟内には、爆音でポップミュージックが流れ出す。
曲は勿論――にゃにゃっと参上、ルピアタイム!




