第19話 カリーナを取り戻せ!コメントも盛り上がっていくぜ!
カリーナとエルミアの戦闘は壮絶を極めていたが、やはりカリーナが優勢だ。
魔術を駆使するカリーナに対し、エルミアは物理しか攻撃手段がない。
初戦のように一方的な展開ではないものの、エルミアはじわじわと追い詰められていた。
「あんたに私は倒せないわ。詠刃展開」
容赦のないカリーナの連続詠唱により次々に鋭い剣が錬成され、エルミアへ一直線に飛んでいく。
「倒すんじゃない……連れ戻すんです。はあっ!!」
その連撃を転がり避けつつ、杖で打ち返してエルミアが応戦する。
数発被弾してよろめきながらも、エルミアは声を張り上げ、呼びかけ続けた。
「カリーナさん、お願い。楽しかった配信を思い出して!」
「あんなもの過去の過ちよ。気が動転して、おかしくなっていただけ」
「そんなことない。カリーナさん、笑っていたもの。歌だって、みんなに聞いて欲しいって!」
エルミアの言葉にはっきりと顔をしかめたカリーナが、手を振りかざす。
「――うるさいッ!! 天火降臨!」
「きゃあ!?」
再び大技が放たれた。
周囲一帯に炎の嵐が降り注ぎ、洞窟の足場が大きく崩れる。
エルミアは火に焼かれつつも、何とか距離をとるように飛び退く。
そんな中、轟く地響きの音に負けない大きさで、スピーカーから音が発せられた。
『カリーナちゃん、帰ってきて!!』
「!?」
ぎょっとしたカリーナが振り返った。
その先にいたのは――マイクを握った俺だ!
『カリーナの歌、聞きたい!!』
「ちょっと、こら、不審者。何をしている!?」
叫ぶカリーナに、俺はニイッと口元に笑みを浮かべた。
「何ってコメント読みだよ。配信の基本だぜ!」
俺は配信画面を指さした。
カリーナは困惑の表情で、その指先を視線で追う。
【コメント】
「カリーナちゃん大好き!!」
「早く歌を聞かせて」
「フリフリ衣装、正直言って萌えです!」
「カリーナちゃん、見てるー?」
「ライブ楽しみにしてたんだよ!」
「あの涙、嘘だったのか?」
「戻っておいで」
「魔族でも、カリーナちゃんならOK!」
「……っ」
カリーナは愕然とした後、顔を歪めた。
「ふざけないで! こ、こんなもので、私が――!!」
「そうかい? なら、”もう一撃”必要のようだな」
「なにっ」
ハッと我に返ったカリーナの視線の先には、猛烈な勢いで駆けてくるエルミアの姿があった。
彼女がコメントに気をとられている隙に、距離をつめていたのだ。
「はああああああああああっ!!」
「くっ、小賢しい! 炎弾丸!」
エルミアへ強烈な火の玉が飛んでいくが、彼女の駆ける脚は止まらない。
一発目、走りながら屈んで躱す。
二発目、杖で弾き飛ばす。
三発目、折れかけた杖を投げつけて吹き飛ばす。
四発目、砕けた水晶の破片を盾にしていなす。
五発目、左腕で己を庇いながら、被弾覚悟で一気に踏み込む!
炎の熱で肌を焦がし、呼吸を絶え絶えにさせながらも、カリーナにエルミアの拳が迫る。
「なんなのよ! 詠結界」
回避不能と判断したカリーナが、防御のバリアを張る。
彼女の周囲に透明な魔力の障壁が展開されるが、エルミアは構わずそのまま突っ込んだ。
「カリーナさん、ご覚悟!!」
「くうっ……」
――バチバチイッ!!
バリアとエルミアの拳が、激しい音を立ててぶつかり合う。
両者、苦悶の表情で必死にせめぎ合っている。
【コメント】
「いっけー!!」
「がんばれ、エルミアちゃん!」
「強い、いけるいける!」
「ご覚悟!」
「うおおおおおお」
「ご覚悟!!」
「カリーナちゃん戻ってきてー」
「いけっ!」
俺は力強く叫んだ。
「皆応援してるぜ。いくんだ、エルミア――!!」
「はい! 私は、負けない!!」
――――パァン!!
カリーナの防御癖が砕け散った。エルミアの拳が競り勝ったのだ。
「そんな!?」
カリーナは驚愕の表情で硬直した後、反射的に身を庇うように腕をあげた。
強烈な拳の一撃が来ると思ったのだろう。
「うわあああああああああ!!」
エルミアが叫んで、カリーナへ勢いよく飛び込む。
そして――
「……!?」
彼女をぎゅっと抱きしめたまま、そのまま地面へと倒れ込んだ。
【コメント】
「やった!?」
「おおおおおおお」
「エルミアちゃん勝った!!」
「殴らないのか。エルミアちゃん本当に良い子」
「カリーナ大丈夫か?」
「エルミアー!」
「どうなるんだ…戻って欲しいけど…」
「なっ、なんで……。なんで、攻撃しないのよ!」
エルミアに抱きしめられて拘束されたままのカリーナが、苦し気にこぼす。
「私はあんたを殺そうとしてたのよ。甘すぎるわ!」
「いえ、これで良いんです。私の目的は最初からひとつだけ――カリーナさんを連れ戻すことです!」
「どうして、そこまでして、私を」
「だってカリーナさんは、仲間じゃないですか!」
「……!!」
「そうだぜ、カリーナ」
二人の傍まで駆け付けた俺も、カリーナへ笑みを向ける。
「それに君は、決してカメラもスピーカーも攻撃しようとしなかったな」
「そ、それは」
「俺たちへの攻撃だって、もっと手段を選ばない方法も取れたはずだ。でも、それをしなかった」
「そんなの、あんたの思い込みよ!」
声を震わせるカリーナへ、俺は続けた。
「――迷いがあるんじゃないのか?」
その言葉に、カリーナの瞳が揺らぐ。
「四天王の存在っていうのは、確かに大きいと思う。だが、配信の、熱狂の力だって最強なんだぜ!」
「そうですよ、カリーナさん!」
俺とエルミアは顔を見合わせた後、二人でカリーナへ語りかけた。
「一緒にやろうぜ、バズリア!」
「一緒に歌いましょう、カリーナさん!」
カリーナは俺たちのことを暫く見つめた後、悲しげな顔で目を伏せた。
「……ありがとう」
「カリーナさん?」
カリーナの雰囲気が変わったことに困惑し、エルミアが抱きしめていた腕を離す。
拘束を解かれても、カリーナはもはや攻撃態勢はとってこなかった。
ただ、静かに俯いていた。
「私ね、あんた達と配信できて楽しかったわ。確かにね」
「そ、それなら!」
「でも、もうだめ。終わりなの」
「どういう意味だ?」
「これが魔王軍に戻るための最後のチャンスだった。もし、失敗すれば、私は――」
「処刑あるのみだ」
低く厳かな声が轟いた。
「!!」
【コメント】
「誰?」
「なんか声だけでぞくっとした」
「処刑って」
「やばいのきた?」
「逃げた方が良いんじゃ」
「大丈夫?」
一瞬で空間に裂け目が生まれ、煌びやかな法衣を纏った魔族の美しい男が出現する。
派手さのない登場だが、その瞬間に洞窟内の空気が凍るような感覚があった。
カリーナが地面に手を付きながら、ガタガタと震えだす。
「ルーベウス様!」
四天王ルーベウスの静かな登場だった。
Fever Gage ★★★★★★★★☆☆




