第16話 視聴者へのサプライズ企画だ!歌を作るぞ!
カリーナの加入したバズリアは絶好調で、俺たちはその後も配信を積み重ねていった。
<<【バズリア】エルミア&カリーナ、息ぴったりの連携攻略!【砂漠ダンジョン】>>
――同接16万。
<<【バズリア】エルミア、カリーナの最上級魔法に大興奮!【樹海ダンジョン】>>
――同接22万。
<<【灼熱ダンジョン】カリーナ、火属性なのに熱がる。エルミア困惑【バズリア】>>
――同接25万。
最初こそ否定的なコメントも散見されたが、その数は次第に減っていった。
勿論、受け入れられない人が視聴を止めたというのもあるだろう。
けれど、確実に平均同接数は増加傾向にあった。
きっとカリーナが真剣に配信をしていることが、皆に伝わっていったのだと思う。
動画履歴を眺めてにまにまする俺の正面で、エルミアとカリーナが会話している。
「今更なんですが、カリーナさんは人間が憎いとか、そういうお気持ちはないんですか?」
「何よ。本当に今更ね」
「いえ、全く疑っている訳ではないのですが……。逆に今のカリーナさんを見ていると、魔王軍幹部だったのが信じられなくて」
カリーナは珍しく、少しだけ困ったような表情を浮かべてから溜息を吐いた。
「別に私が人間を憎んだことなんてないわよ。ただ、役割として魔王軍幹部をしていただけ」
「役割、ですか?」
「私たち魔族は、魔王様の眠る魔宝樹から生まれてくるの。生まれた時から、魔王様に忠誠を誓い、魔王様のために生きることが決められているのよ」
「そうだったんですか……は、初めて知りました」
「まあ、一般にはあまり出回っていない情報なんじゃないかしら?」
「勉強になります!」
「魔王様の信念は、力によってもたらされる秩序こそ正義――私たちは、それを忠実に守って戦っているのよ」
「力による秩序、ですか。炎竜将のゼラさんもそんなことを言っていましたね」
「そう。そして娯楽は不要なもの、堕落の元だと嫌悪されていたわ」
「なるほど……でも、何だかそれも悲しい世界のように感じます」
「仕方がないわよ。それが魔王様のお考えだもの。だから、好きだと思うものがあっても、見ない振りをして過ごして来たわ」
「むう」
カリーナのことを想ってか、エルミアの表情がしょんぼりとする。
そんなエルミアへ苦笑しつつ、カリーナは彼女の頭を撫でた。
「なんであんたが落ち込むのよ。それに、別にだからといって、無理やり従っていた訳でもないわ。私、魔王軍幹部であることには、誇りを持っていたもの」
「分かります。そうでなくては、あんなに魔法を習熟できませんよね」
にっこりと純真に微笑むエルミアに、カリーナが照れて頬を赤らめる。
「……っ! そ、そうね?」
「今は魔王軍の方たちとは連絡を取っていないんですか?」
「あんたね。出来る訳ないでしょ。向こうも探してこないし、こっちからも連絡してないわよ」
カリーナは少しだけ遠い目をして、頭を抱えた。
「あ、あの、元気出してください、ね」
「これもどれも、全部、不審者のせいよ! ちょっと、聞いてるの?」
「ははは、任せろ。俺は立派なVtuberに二人を育てて見せるぜ」
俺は切り抜きの編集と投下作業を終えると、にっと笑いかけた。
「そう言う意味じゃないっ!」
「ふふふっ」
カリーナの突っ込みの声と、エルミアの笑い声が室内に響いた。
◇ ◇ ◇
ある日、俺はエルミアとカリーナを草原フィールドへ呼び出した。
「二人とも、集まってくれてありがとう」
「今日は配信を繋いでいないんですね、社長」
「ダンジョンには行かないのか?」
「ああ。視聴者へのサプライズを仕込もうと思ってな」
俺はニヤリと笑うと、早速本題に移る。
「実は二人の――デビュー曲を本格的に作り始めようと思う!」
「歌! そういえば、以前にお話していましたね」
「……!!」
エルミアは目を輝かせ、カリーナも期待に満ちた様子で息をのむ。
「まずはそれぞれの歌声を聞かせて欲しい。ここは広いから、思い切り歌えるぜ」
「はいっ。では、私から」
エルミアが一歩前に出て、大きく息を吸い込む。
「眠れ 森の子よ 風が名を呼ぶ前に
淡き月のゆりかごで まどろみを抱いて――♪」
それは優しく繊細な、けれど素朴な温かみのある歌声だった。
まるでエルミアの人柄を表しているかのように、透明感と柔らかさがある。
彼女がエルフの子守唄を歌い終わると、俺とカリーナは盛大に拍手した。
「流石だ、エルミア」
「やるじゃない。歌の才能もあるのね、貴女」
「あ、ありがとうございます。少し照れますね、えへへ」
「それじゃあ次は、カリーナ。頼むよ」
「……分かったわ」
エルミアと入れ替わるようにして、カリーナが一歩前へと出る。
歌い始めたのは、以前に聞いたのと同じ曲だった。
「灯せ 灯せ 小さな火 風に消えぬように
手と手を寄せて 囲むなら 夜も怖くはない――♪」
カリーナの歌声は相変わらず力強く、聞いた者を虜にする引力がある。
よく通る声は美しく響き渡り、神々しくすらあった。
歌が終われば、エルミアが興奮した様子で声をあげる。
「それ、灯り巡りの唄ですね?」
「有名な曲なのか?」
「はい。お祭りの時に歌われる定番の曲です。カリーナさんが知っているのは意外でした」
エルミアの言葉に、カリーナは少しだけ気まずそうに視線をそらす。
それから、ぼそぼそと返事をした。
「へ、変で似合わないのは、分かっているわよ。でも、昔、人里の傍を通った時にこの歌を聞いたの。それが妙に頭に残って……とても、綺麗に思えて、それで……」
「とんでもない!!」
「わっ!?」
「似合わないなんて、そんなことないです。歌、素晴らしかったです。今まで聞いた中で、一番、心に残りました!」
純粋な憧れの眼差しを向けて詰め寄ってくるエルミアに、カリーナは少し気圧されつつも、照れたように顔を赤くした。
「そ、そうかしら?」
「そうですよ。これは絶対、皆さんにも披露すべきです!」
「本当? 本当に、そう思う?」
「勿論です! そうですよね、社長!」
こちらへ視線を向けたエルミアに、俺はニイッと笑みを浮かべた。
「ああ! 二人の歌声を聞いて、インスピレーション全開だぜ。すぐに最高の曲を書くから、待っててくれ」
「えっ、社長が曲を作るんですか!?」
「そうとも。何を隠そう――赤猫ルピアの『にゃにゃっと参上、ルピアタイム!』だって俺が自分で作詞作曲したんだぜ。Vtuberはマルチタスクなんだ」
「凄いですっ!」
「ま、まあ、あの曲も悪くなかったわ。……私たちの歌、楽しみにしていてあげる」
「おう、任せておけ!!」
Fever Gage ★★★★★★☆☆☆☆




