第12話 突然大ピンチ!?配信中に、魔王幹部、『戦慄の詠唱姫』強襲!
100万バズ配信から数日後、エルフパーティたちは一度帰郷するということで、俺とエルミアは見送りに来ていた。
「皆さん、お元気で!」
エルミアとリーダーであるリュシエルが固い握手を交わす。
「ああ。エルミアも配信、頑張ってくれ」
「応援しているぜ」
「エルフの里の皆にも報告しないとね」
「俺たちも冒険者を続ける予定だ。また、何処かで会おう」
「勿論だ。いつでもコラボ配信、待ってるぜ」
満面の笑みで俺は名刺を彼らに渡し、手を振るのだった。
◇ ◇ ◇
<<【ダンジョン企画】魔物100匹倒すまで帰れません!【エルミア&社長】>>
「あなたの悩みを杖でぽかん! ご覚悟! 物理エルフ、バズリア所属のエルミアです!」
「社長だ! 今日も世界をバズらせるぜ!」
【コメント】
「待ってました」
「エルミアちゃーん!」
「杖? あっ、杖が復活してる!!」
「素手エルフでは…!?」
「配信期待」
「この杖はセレスティナさんがプレゼントしてくれたんです! 素敵でしょう!」
ふふん、と得意げにエルミアは杖を掲げて見せる。
【コメント】
「ドヤ顔エルミアちゃん、可愛い」
「でもその杖、物理で使われるんだろ?」
「いや、素手だろ??」
「杖ちゃん逃げて―」
「大丈夫、いざとなったら拳がある!!」
「もう、皆さんっ。今度は杖を折らないように気を付けるんですから!」
「皆、安心してくれ。杖のストックはちゃんと用意している!」
俺がアイテムボックスから多種多様な杖を取り出すと、コメント欄は笑いに包まれる。
「社長まで……! でも、今日の企画はそれほど厳しいものと言うことですね!」
「そうとも。今回の企画はずばり『魔物100匹倒すまで帰れません』だ!」
「100匹とは、凄い数ですね」
「しかも挑戦するのはAランクダンジョン。これは熱い展開が期待できるぜ!」
【コメント】
「面白い企画!」
「ダンジョン攻略とかじゃないんだ」
「100匹だと、かなり運に難易度左右されそう」
「エルミアちゃん大丈夫?」
「いざとなったら社長を盾にしよう」
こうして俺たちは、Aランクの森林ダンジョンへと足を踏み入れた。
ここは動物系モンスターが大量に出現することで有名だ。
それをエルミアが一人でいかに捌くかが、見どころになる――はずだったのだが。
「はあっ!!」
――ドカドカドカッ! フォレストウルフの群れを、的確に叩き伏せる。
「そこですっ!」
――ゴスッ! マッドモンキーの投石を躱し、腹部に杖で強烈な一撃。
「ご覚悟!!」
――ズトオオオオオンッ! 自分の倍ほどの大きさのスパイクタイガーを吹っ飛ばした。
【コメント】
「草」
「ご覚悟!」
「もうこの配信事故では?」
「流れ作業で草」
「エルミアたんは強くなり過ぎたのだ…」
「まだ拳を封印しているのに!」
「いやぁ、これは俺の想定ミスだ。配信はファンタジーだな!」
配信画面の中心には、モンスター無双を終えて勇ましく立つエルミアの姿があった。
そう、彼女はあまりに強すぎた。
エルミアは敵を倒し終えてハッと我に返ると、おろおろし始める。
「わ、わわっ、すみません、あっと言う間に倒しちゃいました。これでは企画がぁ!」
【コメント】
「もう強者の悩みなんよそれは」
「可愛いけど、戦闘力は可愛くない!」
「いいよー!」
「ギャップたまらん」
「もう100いってる?どのみちすぐ行きそう」
「構わないさ、エルミア。むしろ最高の戦闘シーンだったぜ」
「社長!」
「それじゃ、このままダンジョン攻略しながら雑談配信に切り替えるか」
「え、良いのですか?」
「勿論。配信には臨機応変も大切だからな」
「勉強になりますっ!」
【コメント】
「雑談配信助かる」
「あ、エルミアたん、敵だよ!」
「コメントが指示する前に倒していて草」
「安定感があり過ぎる」
「杖ぽかん!杖ぽかん!」
「そうそう、エルミア用に歌を作りたいんだよな」
「え、私の歌ですか!?」
「ああ。Vtuberにとって歌は武器だからな。エルミアは歌は好きか?」
「はいっ。エルフは歌を愛する種族ですから」
「最高だな! 少し歌ってみてくれないか」
「わかりました。では、エルフの里の子守唄を――」
「くだらないわ」
エルミアが歌おうとしたのとほぼ同時に、鋭い女の声が響いた。
「……っ! 社長、下がってください。この人、強い!!」
森林の影から姿を現したのは、長い黒髪と赤い瞳を持つ美しい魔族の女だった。
纏っている黒いシンプルなドレスが、彼女の底知れぬ雰囲気を強めている。
「ゼラが世話になったようね。だけど、私はそうはいかないわよ」
「何っ。ということは、君は炎竜将ゼラの関係者――」
「私たちは、四天王である『魔術王ルーベウス様』に仕える者」
「四天王の配下!?」
「魔王軍幹部、戦慄の詠唱姫カリーナ。お前たちの命をルーベウス様に捧げる!」
カリーナが宣言した瞬間、彼女の周囲に魔力が張り巡らされて空気が震える。
その威圧感だけで、俺は吹き飛ばされて岩肌にたたきつけられた。
「社長!」
「俺のことはいい。相手に集中しろ、エルミア!」
【コメント】
「やばいやばいやばい」
「なんで魔王軍幹部にばっかり遭遇するんだ」
「通報!早く通報しろ!」
「エルミアちゃん、社長、逃げて―」
「いや、エルミアたんの拳なら、いけるのでは!?」
「カリーナって残酷で有名な奴じゃん!やばいって」
カリーナが高速で詠唱をする。
無機質だが洗練されたその言葉に導かれて、空に巨大な渦が出現した。
「天火降臨!」
最後の一言を合図に、無数の火の玉がエルミアへ降り注ぐ。
「くうっ、速い――きゃああ!?」
何とか最初の数発を杖で弾くも、避けきれずに被弾してエルミアが悲鳴を上げる。
「エルミア!!」
「だ、大丈夫。まだやれます!」
火の玉の爆撃で周囲は砂煙による煙幕状態となった。
その中を真っ直ぐに駆け抜け、エルミアがカリーナへ杖を突きだす。
「はっ!!」
「詠結界」
――キィン!! 鋭い音をあげながら、あっさりと杖の一撃は弾かれる。
しかし、エルミアもそれは見越していたようだ。
その杖を足場にして高く跳び上がり、相手の背後から拳を叩き入れようとする。
「無駄よ。詠鎖・拘束節」
エルミアの拳はカリーナに届くことはなく、その前に出現した鎖に巻き付かれて拘束されてしまった。
「……っ!!」
エルミアの顔が苦悶に歪む。
そんな身動きの取れない彼女へ、カリーナは容赦なく追撃を叩きこむ。
「きゃああああっ!」
【コメント】
「ぜんぜん無理そう。どうしよう」
「ゼラ戦のフィーバータイムは?」
「いや、あれはバズらないと無理なんでしょ。間に合う?」
「誰か応援にいけないの」
「応援に行ってもどうにもならんだろ、これ」
「エルミアちゃん、がんばれー!!」
俺は自分の魔導板へ目をやる。
Fever Gage ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
コメント欄の言う通り、フィーバータイム発動にはまだまだ足りない。
同接数は増えつつあるが、カリーナの猛攻を考えればとても間に合わないだろう。
「くっ、どうすれば――」
目の前では、エルミアがなす術なくとどめを刺されそうになっている。
どれだけ考えても、解決策は思い浮かばない。
だが、このまま何もせずに眺めているなんてできなかった。
「うおおおおおおっ! 待て! 俺が、相手だあああっ!!」
俺は気づけば、カリーナへ向かって駆けだしていた。
「愚かね。あんたみたいな雑魚、相手にもならないわ」
カリーナが馬鹿にしたように俺を嘲笑う。
それでも、俺は止まらない。
「こうなりゃ自棄だ。くらえっ! スキル『理想投影』!!」
「ふん。なによ、その殺意の欠片もない攻撃は――」
――ぼふん。
俺のスキルは理想投影。
つまり、現状に満足している相手には何の効果もない。
だからこのスキル使用も時間稼ぎのはったりだったのだが――なんと、カリーナにスキルがかかってしまったようだ。
「あっ……」
スキル発動と共に出現したほわほわした白い靄が、ゆっくりと晴れていく。
そこには、ふりふりレースの白いミニワンピースドレスを纏ったカリーナの姿があった。
黒髪は可愛らしいツインテールでまとめ、白い大きなリボンを飾っている。
まさにアイドルです、といわんばかりのラブリーな格好の彼女が、そこにはいた。




