第10話 お待たせ、フィーバータイム!炸裂のルピア砲!
俺の周囲に、煌めく七色のエフェクトが踊り出す。
何処からか明るいポップ調の音楽も鳴り始めた。
これは赤猫ルピアの代表曲『にゃにゃっと参上、ルピアタイム!』のイントロだ。
「これは何ですか、社長!?」
戸惑うエルミアへ俺は笑いかける。
「説明しよう! 配信で盛り上がるごとにFeverGageが溜まっていき、熱狂が臨界点に達したとき、俺の裏スキルである『フィーバータイム』が発動するのだ!」
俺の顔を覆っていたハーフマスクが発光し、パリンと砕け散った。
それと同時に俺は虹色エフェクトに全身を覆われる。
「その可能性は――無限大!」
エフェクトの中で俺の背は縮み、長い艶やかな赤髪と、大きな猫耳が出現した。
そして、赤と白のゴシックドレスを纏った、可憐な少女――赤猫ルピアへと変身する!
「ぴょこんと猫耳!
きらっと赤髪!
今日もあなたにルピア砲!
赤猫ルピア、配信開始にゃ!」
そう、これが女神のくれた『おまけ』のスキルだ。
配信の熱狂でFeverGageを貯めることができ、MAXに到達したとき「現実離れした現象を実現」させる。
俺はこのスキルで、最強の『赤猫ルピア』として、この世界に降り立ったのだ!
【コメント】
「おおおおお」
「誰?可愛い?え、社長??」
「ルピアちゃんかわいー!」
「何、変身した?」
「よくわかんないけど、なんか楽しい!」
盛り上がるコメント欄をよそに、炎竜将ゼラが激昂する。
「ふざけるな! 変身したところで、何も変わらぬ――!」
ゼラは拳を振るい、強烈な黒炎を俺たちに向けて放ってきた。
慌てて逃げようとするエルミアを、俺は制する。
「負けないにゃあ!」
ぶんっ!
ルピアが炎に向かって細い腕を振り抜くと、疾風が巻き起こり瞬く間に炎を消した。
「す、凄い、社長……いえ、ルピア、さん?」
「ふふ。やっとこの姿で会えたにゃ、エルミア!」
「……! はいっ!!」
頷くエルミアへにっこりと笑みを見せると、俺は配信画面に向き直った。
「みんなー、今日は配信に来てくれてありがとう。赤猫ルピアにゃ。ルピたんって呼んでね!」
【コメント】
「つっよお!!ゼラ倒せちゃう?」
「ルピたん!ルピたん!ルピたん!」
「可愛いっ」
「なにこれ、滅茶苦茶可愛いんだけど。好き!」
「ルピたん大好き!」
「ルピア、頑張ってゼラをやっつけちゃうから応援してね! 皆の応援が、力になるにゃ!」
にゃん、と猫の手ポーズを決めれば、更にコメント数は倍増する。
「ちっ……、調子に乗るな!!」
今まで一歩も動かなかったゼラが、猛烈な勢いで突進してきた。
同時に鋭く灼熱の炎の槍を何本も撃ち出してくる。
「調子に乗るにゃ! Vtuberは調子に乗ってなんぼにゃ!!」
ひょひょいと華麗に跳び上がってその攻撃を躱して、俺は不敵に笑う。
仲間への被弾を心配したが、まだ動けるエルミアとリュシエルが壁際に皆を避難させてくれていた。
――これで、思い切り暴れられる!
「いっくにゃー!」
追撃で殴りかかってきたゼラの拳を、真正面から掌で受け止める。
風圧が周囲の空気を揺らし、キーンと高い音が響き渡った。
「くそっ、なんだ、何なんだ、お前のこの力は!?」
「熱狂の、配信の力にゃ!」
「嘘を吐け! 何かカラクリがあるはずだ。こんな、ふざけたこと!」
「ルピアは真剣にゃ!」
俺は身体を回転させて、強烈な回し蹴りをゼラへ放つ。
ゼラの身体が揺らぎ、その表情が苦悶に歪んだ。
「真面目に鍛錬をしてきたゼラも偉いにゃ。でも、ルピアだって頑張ってきたにゃ」
「一緒にするな!!」
「みゃあ!?」
地面から巨大な黒い炎柱が何本も噴き出してきた。
避けきれずに、その火が俺の身体を焦がす――かと思いきや、俺は逆にその炎を全身に纏った。
「何!?」
「お返しだにゃ! ラブラブアターック!!」
俺は手でハートを作り、そこから大量のハートマークの炎を撃ち出す。
ゼラは怒りの表情で振り払おうとするが、ファンシーな虹色エフェクトが彼の身体に絡みついて邪魔をする。
「ふ、ふざけるな……ぐわあっ!?」
炎の直撃を受けて、ゼラが呻きながら膝をついた。
【コメント】
「ルピたん可愛いい!!」
「がんばれー!がんばれー!」
「攻撃が可愛すぎて笑った。俺にも撃ってー!」
「死ぬぞ!?」
「ルピたん、このままやっちゃえー!」
「かくなる上は!!」
眼光をひときわ鋭くさせたゼラは、自身を巨大な黒い炎の竜の姿に変化させた。
ダンジョンにいたドラゴンの更に数倍はある大きさだ。
禍々しい魔力を纏い、近くにいるだけでも通常の人間なら気絶してしまうだろう。
「ふっふっふ、盛り上がってきたにゃー!」
しかし、俺はひるむことはない。
敵が強大である程に、バズが狙えるというものだ!
背景に流れているBGMの音量を上げて、配信画面に呼びかける。
「みんな、いいかにゃ! サビでの応援は『ルーピルピルピ』にゃ。弾幕張るぞ!」
【コメント】
「いえーい。ゼラ、みってるー?」
「弾幕いくぞ」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「コメント打てばいいの?」
「るーぴるぴるぴ!」
俺は自分から炎の竜の方へと駆けだしていった。
「はああああっ!」
火炎ブレスを躱し、鋭い爪と牙の攻撃もかいくぐる。
「そこだにゃ!」
がら空きになった竜の腹に全力で拳を叩きこむ。
竜は呻くが、そのまま俺に巻き付いて締め上げてきた。
「にゃにゃん!?」
身動きが取れなくなり、きつい締め付けに声が洩れる。
俺は何とか片腕を脱出させると、渾身の力を込めて殴りつけた。
「効かん! これで終わりだ!!」
「うにゃ!?」
しかし、竜はびくともしない。
むしろ俺の背骨を折る勢いで、ギリギリと締め付ける力を増してくる。
「ぐぬぬっ……それなら、これでどうにゃ!」
俺は必死で手を高く掲げた。
「コメント爆弾!!」
『ルーピルピルピ☆』という文字がそのまま宙から降ってきて、竜に炸裂して大爆発した。
「ぐあああああっ!? そんな攻撃があるか!!」
たまらず飛び退いた竜が、ダメージを受けながら怒鳴る。
「あるにゃ! 何故なら、配信の可能性は無限大!」
【コメント】
「すげー、俺のコメントが攻撃に!」
「違うよ私のだって」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「もっと打とう!」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「もう我慢ならん! この地底湖ごと吹き飛ばしてくれる!!」
侮辱されたと受け取ったゼラは、竜の姿のまま巨大な炎を纏って燃え上がった。
その中で禍々しい魔力が渦巻いている。
これを一気に爆発させて、ダンジョンごと吹き飛ばす心算らしい。
「そんなことしたら、ここにいるモンスターもみんな死んでしまうにゃ!?」
「構うものか! 俺が勝てば、それが魔王軍の勝利だ!!」
「――る、ルピアさん!!」
不安げに叫んだのはエルミアだ。
そんな彼女を安心させるように、俺は決めポーズをとる。
「安心するにゃ。させないにゃあ。だから、エルミアも、皆も、ルピアを応援してにゃ」
「は、はいっ、応援します」
「俺もだ」
「私たちも、応援よ!」
俺は皆の様子を確認すると、ニイッと笑って高く跳び上がった。
【コメント】
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「ルピアたんがんばれー」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「るーぴるぴるぴ!」
「ルーピルピルピ☆ルーピルピルピ☆」
「るっ、……るーぴるぴるぴ!る、るぴるるるぴ!」
「ルーピルピルピ!ルーピルピルピ!」
「るーぴ……るぴるぴ」
皆の応援を受けて、俺の周囲のエフェクトは煌めきを増して輝きだす。
周囲が明るい光に包まれ――俺の手元に、巨大な大砲が出現した。
それを真っ直ぐ、竜へ向ける。
「ぴょこんと猫耳!」
大砲の中に、これまでのコメント弾幕が吸い込まれていく。
「きらっと赤髪!」
大砲に光の魔力が充填され、暗い地底湖を真昼のように明るく照らす。
「今日もあなたに『ルピア砲』!!!!」
宣言すると同時に、俺は光の玉を竜へと撃ち出した。
無数のコメント弾幕がらせん状に絡み合い、竜へと直撃し続ける。
――ドオオオオオオオンッ!!!!
その弾幕が止んだのは、数十秒も経過した後のことだった。
すっかり光と砂煙が晴れた後には、竜から魔族の姿に戻ったゼラが気絶していた。
Fever Gage ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




