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「え、じゃあ何で此処に居るの?」
「だから延長だよ、本当に俺だって解放されたいってば」
あのままの流れで、結局ホールの仕事をしつつ、やったこと無いけど、ホステスさんのように席についてお酌をする事になった。お酌って言っても、氷足したりビールみたいな瓶のお酒を注いだりしてるだけだけどね。でも、さっきより人が増えている。人数的にはほぼ全員になるんじゃないかな。だからティナも面倒だってなって、お酒も然り、ほぼ買ってきたものを各々持ち寄った状態だ。それだって全部ティナが「自分が食べたいもの飲みたいものは、自分で用意しなさい」って言ったもんだから、凄いよね。少なくとも此処だけは男尊女卑、何それだわ、本当に。
そしてさっきの会話に戻るのだけど。議題はサラ事サイラスさんが此処に居る理由について。
「はっ、辞めればいいじゃない。そして大好きな団長様の居る王宮に戻ればいいんだわ」
我等がティナ様、吐き捨てました。そう、彼が居る理由はティナのせいである。と言うか、またもトバッチリと言うべきか。元々ティナは王家に嫁ぐ候補だった。王妃として、そして子を生む存在として。しかし本人の拒否と出生とその他諸々の事情でそれが無くなって今に至る。つまり、王族になる準備はマナーからその他細部に至るまで完璧だったのだ。そんな女性が急にダメになってしまった為に、王族側から何で?っていう調査が入った。そりゃそうだ。だって完璧だった筈なのだ、身辺調査ですら。にも関わらず、となれば、王族だって黙っていたら威信に関わる。と、言うわけで派遣されたのがサイラスという騎士だったわけだ。お忍びで調査せよ、と。一人で。
「団長は関係ないけど!」
「あーら、あんなに団長団長言ってくっ付いてたくせに」
「誤解されるような言い回しはやめて貰えるかな!?俺は女が好きなの!」
「知らないわよ、そんなの興味ないわ」
ティナは彼を嫌っていると言うか、威嚇して牽制している感じだ。人として嫌いはないのだろうが、王族の関係者として近くに寄りたくない、関わりたくないという思いが強いんだと思う。あまり人がどうだから、というので態度を変えるタイプではないと思うんだよね、彼女は。そうじゃなかったらこの職業に向いてないし、王家の完璧な嫁になる筈だった元令嬢として、現在も監視なんかされてないと思うんだ。まあ、監視されてる理由は他にも色々あるんだろうけれども。
さて、話を変えるのだが、私イナはこの事情を知ってから、実はこのサイラスという男を疑っている。理由は単純、ティナを見ている人だから。私が降って湧いた事に、一番違和感を感じる距離に居るのは彼なのだ。ティナの報告ついでに王家に進言する事も、元ティナ家に話をつける事も出来る絶好の人だと思わない?証拠だって手に入る位置にいて、鍵開けだって騎士なら出来そうじゃない?と、思って。
「まあまあお嬢、そんなにサラをイジメてやるなよ」
「本気を茶化されたら誤魔化すしかないだろう?」
「ちょっと!?」
「寂しかったら相手してやるからな?」
「要らない!俺は女の人しか相手にしないの!」
「団長愛の騎士様は、女性より男性からの方が愛されるんじゃない?」
「だーかーらー!」
完全に遊ばれてらっしゃるね。私はおつまみとして用意されている枝豆みたいな豆を食べながら、途中から話の聞き役に徹している。美味い。この世界って男同士イチャイチャするのも珍しくないんだよね。女は穢らわしいって言って、専ら男しか無理!って人も多いのだと聞く。はじめ見た時はちょっとビックリしたけど、人の好き嫌いはどうしようもないし私は気にしないので、どうぞお好きにって感じだ。
「…イナ」
「…ん?」
「お前食い過ぎ」
「ん、豆?食べる?」
「そうじゃなくて。腹下すぞ」
「大丈夫、最近出が悪いから」
出てくれたら万々歳だ…て、何の話だ。アークがいつの間にか私の隣に座っていたらしい、気になったのか思わず心配をされてしまった。
「どうかしたの?」
「いや?何となく俺の出番は無い気がして、早々に避難して来た」
「ティナのトバッチリを受けたくなくて?」
「その通り。けど…」
そう言って大きく頷いた彼の視線が私に向けられる。何だ、私が喋らないのが憐れに思えたか?残念だったな、私は豆で幸せだったんだぞ。
「…お前、気配消すの上手いな」
「そう?元々存在感が無いからじゃない?初めて言われたけど…何か怪しかった?」
「え?あ、いや、そうじゃなくて…」
「じゃあ…隠密的なヤツに向いてそう、とか?ならティナの役に立つ何か別のモノがあるかもしれないね」
多分、アークは私を憐れんだんだと思う。言い難そうにしているのが良い証拠だ。私の生い立ちを知っている人からすれば、そうなってもおかしくないと思うのは、珍しくないと思う。元々目を惹く様な外見をしているわけではないし、年齢だって若々しく無い。グラビアアイドルやモデルの様に人様に誇れる体型でもないし、そうなる努力をした事もない。口だって頭だって人を付いて来させる説得力を生み出す事も、考え出す事も出来ない。そんな自分がどうやって存在感を出せる?存在感が無いことが存在感なんだよ、うん。だから、本人も言われなきゃ気付かなかったんだから、他人がこれから先も気にしなくていいんだ。
「お前の職業はもう決まってるだろ」
「うん、だから副業とかさ。まぁそれは冗談として、ティナって凄いね、改めて感じたよ。お嬢様だったから出来たのか、それとも元々の土台があってお嬢様をやれたのか…どちらにしても尊敬する」
「アイツは物心ついた時から全部自分でやりたいと、家事から勉強から身の回りから片っ端からやりまくったんだ」
「え、メイドさん達は?」
「ただの補助に成り下がったな。他にも野菜を育てるからって一年間農家に泊まり込んだり、物流の流れを学ぶとか言って商家に一年間泊まったり。挙げ句の果てには他国にそれぞれ一年間お忍びで留学もしてた」
「何というアクティブ令嬢だよ!完全にチートじゃないか」
「お前女だよなって何回も思ったよ…」
そりゃ何でもこなせるようになるね、完敗です、流石ですティナ様。…ん?でも待って。アークは何でそれを見てきたように話すの?
「…アークってさ、もしかして子供の頃からティナと付き合いがあるの?」
「あー…うん。実を言うとティナと異母兄弟なんだよね、俺」
「はぁ!?」
「アイツの遊び相手兼世話係だったから、大概を付き合ってたし、見てきたんだよ」
「え、じゃあ何で今はこんな…」
「アイツに付き合って色々見ていく内に現状が嫌になって、退職届を出して辞めたの。そしてその半年後に、ティナも王家の嫁候補を降りて現状になったわけ」
思いがけずカミングアウトされたよ。そうかそうか、ティナの異母兄弟でしたか…似てないね。




