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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
序章 主人公は私じゃない
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3

 イナの私物紛失事件と銘打って、と言うほど大袈裟ではないのかもしれないけど、結局掃除しても出て来ず、完結しなかった。そりゃそうだ、誰もいつ無くなったか分からなかったんだもの。そもそも私以外現物も見てないしね。だから、どうすることも出来ないからと、取り敢えず通常業務へと戻った。

 ティナが変だったのは、その事を教えてもらったのが元育ての父親から聞いたからだと教えてくれた。何でも、今日指定で呼び出されていたんだそうだ。アークには関係ない事だから、貴女にしか言わないけどね、ってこっそりと。


「でさぁ、ここで俺は思うわけよ。流石出来る男は違うなぁって」

「そうかぁ、やるなぁ!」


 現在、朝のゴタゴタが忘れ去られそうな夜だ。と言っても、まだ然程遅い時間じゃない。一階の飲食が出来るスペースには、数名の宿泊者が飲み食いしている。因みに、この宿屋の部屋はほぼ満室。二人部屋が二つ空いてるだけで、あとは人が泊まっている。女性客は居ない。そう考えると、やっぱりお嬢様のティナが安全に働くのは中々難しいと思うんだ、環境的にも。何でこの職業をチョイスした、ティナよ。お菓子屋さんとかパン屋さんとかじゃダメだったのかな、宿屋よりは男性率やらやる事やらが色々マシな気がするんだが。勿論別の仕事を軽んじてるつもりは無いけどさ。…またいつか理由を聞いてみよう。


「…ねぇ、ティナ」


 今回は別件で話し掛けた。もっと近い部分で聞かなきゃならない事があるんだよ。


「ん?」

「ああ、手を止めないで。世間話程度で話してくれたら嬉しい」


 客の料理を作っているティナが、私との会話体制に入る前に止めた。何処で誰が見ているか分からないから、そのままがベストなのだ。


「分かったわ」

「ありがと…それで、此処は無人になる事はあるの?」

「ん?それは客も含めてって事?それなら無いわ」

「私が来てからも?」

「勿論、何で?」

「うん、そうするとさ、自然とこの中に居ることになると思うんだよ、私のを盗った人」

「それは…そうね。宿泊を辞めた人も居ないし、誰かが持っているか渡したかしてる可能性が高いわね」


 そう、私が聞きたいのはこの事だ。解決してないなら犯人を探したいじゃないか。そして返してもらいたいよ、出来れば。使わない物ではあるけど、処分するなら自分でする。


「そもそもあの部屋に入るには鍵を二つ解除しなきゃならないんだよ?そんな事って普通出来るもの?」


 三階に上がる階段の前に一つ、上がって部屋に入る前に一つ、其々違う鍵が付いている。南京錠みたいなものだけど。


「ピッキングは冒険者には必須よ。普通の人は、まぁ、無理だけど」

「そうだよね、という事は宿泊客の殆どが普通じゃない人に当たるよね?」

「闇雲に犯人探しをするよりマシだけど、厄介ね」


 そう、中々厄介だ。いかんせん貴方が犯人ですか、なんて安易に聞くわけにいかない。それに、宿屋側が宿泊者を疑うなんて、余程のことがない限りマナー違反だ。プライバシーに関わることからね。絶妙な距離を保つのが大事なのだ、そう、教わった。


「出で行った時しか掃除にも入らないし」

「…そうね、あと、取り敢えずコレをあのテーブルにお願い出来る?」

「あ、了解」


 出来上がった料理を持って、何かと盛り上がっているちょっとゴツい男達の元へ行く。五人ほどで誰かの男気について熱く語っているようだ。


「お待たせしましたー」

「ああ?遅いぜ」

「すいません、盛り上がっているようだったのでなかなかタイミングが掴めなかったんです。代わりに温いものを用意していますので」

「お、おう?」


 ふふふ、戸惑い給えよ。温かいものを出すのは普通だけどね、それが特別なように思わせてみる。相手は酔っ払いだ、シラフに敵うまい?


「まぁ良い、取り敢えず此処に座ってお酌してくれ」

「私がですか?」

「他に誰が居る。此処に女はアンタとオーナーだけだ。オーナーは料理を作るんだから、アンタが客の相手をするしかないだろう?」

「良いんですか?」

「あ?」

「私が相手で良いんですか?綺麗どころじゃないですよ、と思いまして」

「は……?」


 何でそこでポカンとするだお兄さん方。そこは飲み屋のおっさん宜しく、豪快に笑っておくか、そんな事ないと私を褒め称えるところであろう!一番ダメな返しだよ、それ。面白くないやつだよ。


「………ブッ、クク…」


 ん?このお兄さん方じゃない方面から笑い声が聞こえてきた。私の居酒屋テクニックが違うところで受けた?そう思ってそっちを見ると、アークと、その隣で肩を震わせた金髪のお兄さんが居た。吹き出したのか、ティナがタオルを準備しているのが目の端に映る。


「アーク、サラ…」

「ソイツは無理だぜ」

「無理って…」

「ソイツもティナと同じだ。男に何の感情も持ってない、変わった類だ。からかっただけ損するぜ」

「成る程、そりゃ無理だな」

「道理で返し方が変わってるわけだ」

「アンタ、中々面白いな」


 場の雰囲気が変わった?てか、アークの口調が違うんだけど。そして隣の金髪はサラと言うのか。まだ笑ってるけど、大丈夫?


「今まであんまり話さなかったからなぁ、ちょっと試してみたかったんだ。悪かった」

「名前なんて言うんだ?」

「確か記憶が無いって聞いたけど、歳とかは分かるのか?」

「え?えー、えーと、何から言えばいい?」

「ブフッ!」


 いやいやいや、サラとやら、笑い過ぎだからね?


「彼女の名前はイナよ。今後彼女に変な事言ったら、宿泊代倍にするからそのつもりでね。それからサラ、アンタは今日から宿泊代倍確定ね」

「えぇ!?俺笑っただけじゃん!」

「それが頗る気に食わないからよ。何、オーナーに楯突く気?」

「待って、だったらアークと同じく働くよ!」

「結構よ、イナも居るし人手は要らないもの。他に文句は?」

「…何でそんなに俺に冷たいの」

「嫌いだからよ」


 ……うーわー…シーンとしたよ、やだなぁこの空気。この短い間にどれだけ空気が変わるのさ。て言うか、ティナはサラとやらが嫌いなの?だとしても言っちゃダメだろ、オーナーなら特にさ。


「ティナ、私は別に大丈夫だけど」

「何言ってるの、私は冗談でも女性軽視のくだらない考え方をする奴が大嫌いなの。だから今だって本当は貴方達なにも出ていって欲しいのよ?それを我慢してあげるんだから、サラの値上げくらい許して欲しいわ」


 要するにトバッチリじゃないかな?サラとやら。ドンマイ。と言うか今更だけど私、お客さんにすら名乗ってなかったんだ。そりゃ何だコイツ急に現れやがってってなるわな、失礼しました。

 因みに、お客さん達は一斉に私とティナに謝って来た。倍にされるのが嫌だったようだ、うん、お金は大事だね。というか、ティナ最強だね。女性って立場弱いんじゃなかった?って、彼女を見てると首を傾げたくなるけど、過去を知っている手前今ってとっても良い状況だと思える。うん、良いんだこれで。

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