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戻ってくるや否やティナは、私とアークの首根っこを捕まえて、ティナと私が生活する場所に引っ張り込んだ。
この宿屋は一階が飲食の出来る場所と、受付をしたりするカウンター、奥に調理場と洗濯場がある。二階が宿泊部屋になっていて、全部で12部屋、内其々半数で一人部屋と二人部屋が存在する。そして三階に私とティナが暮らす生活スペースが在る、三階構造だ。宿屋としては然程大きくない、一般的なサイズなんだそう。けれどそれをよく女手一つでやっていこうと思ったな、元貴族のご令嬢が。ご令嬢だよ?メイドや執事が身の回りの世話をしてくれる筈のご令嬢がだよ、手が荒れるだろうハード仕事を、何度も言う、一人で、やろうと思ったな、と思って。
話を戻して、そのティナ様は大層ご立腹でお帰りになられました。ほら見ろ、嫌な予感的中だ。
「…さぁ、お二人さん、お話ししましょ?」
うわぁ、目が怒ってる。
「え、えっと…取り敢えず何を?」
「出て行く前迄は普通だっただろ、何だ急に」
一瞬私とアークの視線が合ったが、話を合わせるような事もないし、あまり意味のない行為だった、と思う。態度は対照的かもしれないけど。
「とある人から、イナ、貴女の事を聞かれたの。全てを語られた訳ではなかったけれど、あの口振りは全てを知っている様だったわ。私は当たり前だけどイナの経緯を話した事なんて一度も無い、と断言する。では、ここで問題です。私は何が聞きたいでしょうか?」
クイズの出し方を捻ってきた。お話し合いだったんじゃないのか。
「私は、奴隷じゃないし、記憶が無いと話した事はあるけど…」
「…事情を聞かれたらその程度話せば良いと思うわよ、でも今回は確実に貴女に神の使いの疑いが掛かってるの」
「うわ、止めてよ冗談じゃない。記憶無い設定話自体に無理があったって事?それとももっと他の要因?」
「記憶の無い女なんか珍しくも無いわ。途中で手足が生えたり勘違いはあるかもしれないけれど…この世界で女が神の使いと疑われることの方が、余程珍しくて有り得ない」
「成る程…」
ふーむ、ならどうしてだ。謎でしょうがない。脚色されたとしても、女だからと言う理由で美化はされ難いとなれば、意図的しかないじゃないか。誰が何の為に嘘を吐く必要がある?誰の得にもならない嘘だ。
「…なぁ、答え合せだけど」
今迄黙っていたアークが声を発した。
「どうぞ」
「イナもこう言ってるし、勿論俺も他言なんかしてない。だからお前が聞きたい答えは、心当たりがない、と答えるしかない」
「納得出来ない」
「そう言うと思った。だから一つの仮定として言わせて貰うけど、俺達の出会いや、会話を見た、若くは聞いていた第三者が居た。ソイツはイナが違う世界の奴だと証明する何かを持っている、だから有り得ない事がまかり通った」
黙っていたのは考えていたからだったか。…て、ちょっと待って、見ていたにしても聞いていたにしても、証明するものを持っているって…私の私物の可能性よな!?私は寝てる時にこの世界に来たから、持ち物なんて着てた服と…………あ。
「…ある」
「は?何がある?」
「あっちゃった!どうしよう、それかもしれない!」
目覚めた日、落ち着いた後にスマホがあるかどうか確認したんだよ!万が一電波があったらどうしようかと思って、確認したんだよ。スマホはハーフパンツのポケットに入っていた。入っていたんです!つまり、持ってきていたわけなんです!でも、電源そのものが点かなかった。だから、ベッド横のドレッサーの引き出し仕舞っておいた…どうしよう、それが無かったら。見るのが怖い。
「イナ?」
「うわぁ!怖い、見たくない!」
「ちょ、待て、取り敢えず落ち着け」
「だって見たくないんだもん」
「もん言うな、いい大人が」
「うわぁー!煩いー!」
「いや、お前が煩いっての」
煩い、大人だって駄々こねたいんだ!アークめ、呆れるんじゃない!こっちは死活問題なんだ!
「…イナ、取り敢えず何があるの?」
「………私の世界の物がある。その、中に…」
「ドレッサーね。ソレはどんな物?」
「四角い、手のひらサイズの機械…」
「そう…」
ティナが席を立って、ドレッサーの引き出しを開ける。中にはティナが揃えてくれた諸々が入っている筈だ。そしてその中に、異質なものがある筈。筈なんだ、あってくれ頼む!
「…んー、ソレって因みに誰でも見たら分かる?」
「多分…でも、この世界の物かどうかを判断するのは、微妙かもしれない」
「どう言う事?」
「私はこの世界の物じゃない事は、分かる。私の世界の物だから、断言出来る。でもこの世界の有無を判断する事は、出来ない」
「…成る程、この世界にその機械の様な見た目の何かがあれば、私達にはそれが異世界の物か否かが判断出来ないって事ね」
「うん、多分」
だから、其処にあって欲しいんだ。でも、そんな事を聞いてくると言う事は、恐らくきっと……。
「…無いんだ?」
「…ええ、手のひらサイズの四角い物がそもそも無いの。別の場所に仕舞ってないんでしょう?」
「そうだね、其処に入れたきり触ってないもん。あぁぁ誰か持ち出したって事?だよね?」
「そうね、私じゃないし、アークは?」
「人の、しかも宿屋主人の居住区に、勝手に入るなんて非常識な真似するか。そもそもそんな所にそんな物が入ってるなんて知らないし」
「そうよねぇ」
そうだ、もし入ったとして、其処に物があるとなぜ分かったのだろうか。アークはともかく、ティナだって知らなかったのに。私だって思い出さなかったら分からなかったのに。
「他に何か無くなってないわよね?」
「私が着てた服ぐらいだけど、それはあるよ、持ち物はその機械だけ。あとあるとすれば、私が倒れてたっていう森、かなぁ」
恐らく寝てたから何もないとは思うんだけどね。寧ろスマホがよくあったな、と。
「それなら無かった。次の日明るくなってから念の為見てきた」
「一人で?」
「勿論」
「そう、ありがとう」
知らない間にやってくれてたなんて、カッコイイじゃないかアークめ。イイ男アピールか?いや、イケメンだけどね?そう言う意味じゃなくてさ。
とにかく、私達は全員がうーん、と首を捻った。




