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「…何でこうなった」
あれから夜も更けて、殆どが出来上がった。強い人は簡単に片付けして自分の部屋に上がっていったし、知り合いを引き上げてくれたりもした。残ったのは潰れた数名と、我々くらいか。それまではいい。とある一人が私の腰に巻き付いているのだ。何でだ。そこそこゴツい腕が巻き付いているせいで、全く身動きが取れません。
「サラさーん、放してー」
そう、巻き付いているのはサイラスだ。途中から完全にフラフラになって、皆からもあんまり相手にされなくなって、ティナも放ってこの通りだ。止めて欲しい。最後まで面倒みなさいよ!
「やー」
「私もやー。お手洗いに行きたいんだよ」
「漏らせばいーよー」
「言ったな。なら思いっきり顔面に掛けてあげる。そしてティナに軽蔑されて宿泊費三倍にして貰えばいいよ」
「それは…やーだー」
グリグリと鳩尾の辺りに顔を押し付けられるが、生憎母性は湧かないからな。
「なら部屋に帰りましょう、肩貸しますから」
「うぅ、なら添い寝して?」
「残念ながらそんなサービスはウチには有りません。後1セクハラでティナを呼びます」
「ごめんなさい」
調子に乗っていたと自覚はあるのか、バッと顔を上げた。なら最初からティナを呼べば良かった。そのティナさんは今、他のお客さんをアークと共に部屋へ連れて行っている。
「酔い覚ましに散歩行きます?尿意解放したら付き合いますけど」
「あ、本当に行きたかったんだ…ゴメン。じゃあ、お願いします」
「了解」
放して欲しい口実か何かと思われていたか、心外だ。まあいいけど。取り敢えずお手洗いに行って、ティナかアークにちょっと散歩に行ってくる事を告げよう。…チャンスは生かさなければね。
〇
宿屋の裏をちょっと行けば森に入り、そこを道なりに進めば大きな湖が広がっている。街の人のいい散歩コースだ。流石にこの夜中には人は居ないけれど、日中ならお年寄りとかのんびり歩いているのを見かける事も少なくない。
「…うぁーっあー、飲んだねー」
「騎士なら飲み比べとかしないんですか?」
「基本的にはしないかなぁ。何かあったら即駆けつけなきゃ行けないからね、特に王宮騎士は。しかも最近はピリピリしてるし」
「へぇ、何でまた?ティナではないですよね?」
「勿論。その件はもう無かったことにされてるからね、今頃は違うご令嬢が選定されている筈だよ」
「そうですか…」
気の毒に、と出かかって止めた。私頑張った!そんな事言ったらティナにも新しい人にも失礼に当たる。危ない危ない。
「気の毒だと思ったよね、俺もそう思う」
「…何にも言ってませんが」
「そりゃ言ってたら王族に対する侮辱に当たるよ。俺は男で身分があるから誤魔化しは幾らでも出来るけど、君は違う。俺みたいな男に弱味を握られるような事は控えるべきだね」
「それは胡散臭いって事も含まれてますよね、それなら大いに賛成します」
悪いけど、私精神意外と図太いからな、甘く見ないで頂きたい。
「不敬罪に問われる事は何一つしていない、と声を大にして言いたいけど…それを証明できる唯一の人が貴方だし、この世の中で女が一人主張する事の難しさは身に染みてるからなぁ。でも私はありがたい事に一人じゃないみたいだし」
「ティアナ嬢とアークか、そうだね彼等は非常に強いバックアップをしてくれるだろう。此方からすればかなり厄介だ」
「私がただの女ならば、二人はそこまで助けはしない。貴方はそう思ってるでしょ?そうじゃなければ自分が騎士だと聞いた瞬間に、こんな太々しい態度は取らないと」
ただでさえ女性が弱い世界、ティナの様な女性が珍しいこの世の中で、私は誰が見てもおかしい存在だろう。騎士とは王族や貴族と同じく、それなりの身分がある。そんな存在に対して、強気に出られる人は、男でも、ましてや女ならほぼ居ない。そして先にも思った通り、彼は私を疑って然りの、最も近いポジションに居る。
「…アハハハハ!良いね、流石だよ。面白い。けど、残念ながら俺の好みじゃないんだなぁ!」
グイッと腕を掴まれて引っ張られた。近くでニヤつく顔が鬱陶しい。
「私も男性好きの相手はちょっと…」
「そういう所がティアナと同じで腹が立つ。女はね、従順な方が可愛くてモテるんだよ」
「別にそういう理由でモテたくないし、貴方に可愛いと思ってもらったところで何かメリットはありますか?」
「俺自身には無いね。でも君にはあると思う。例えば、何処から来た人なのかを隠したいから協力してくれ、とかさ?」
「ハイ。チェストー」
「あ?」
何だこの人、自分から言ったよ。確かに散々分かってますよアピールはしたよ?でもさ、言うかな普通。いや、言わないよね。だってどう考えたって言わない方が有利だもん。ずっとそれに触れなければ、疑惑は疑惑のままだったんだよ?どれだけ自意識過剰なんだろう、この人。私がただの女であると見下したが故の、最大の墓穴を掘ったな。ざまあみろ。
「私が何処から来たのかご存知ですか、凄いですね。誰も知らないのに。是非教えて貰えませんか?」
「何を…」
「私が何処から来たか隠したいなら、従順な方が良いと言ったのは貴方ですよ?それって私が何処から来たのか知っているってことですよね?私は記憶が無いんです、是非教えて頂けませんか?」
掴まれた腕の力が抜けた。ここぞとばかりに、私は逆に離れていく相手の胸倉を掴んでやった。逃すか、せっかくだからしっかり教えてもらおうじゃないか。
「私は自分が何処から来たのか、どんな人間なのかも分からないまま、ティナとアークに拾ってもらったんです。傷があったから恐らく襲われたのだろうって。そのせいで記憶が無いんだろうって。教えて下さい!私は何処から来たんですか!?」
「な!?異世界人がしらばっくれるな!お前が異世界から来た事はあの機械が証明している。それを自身が知らないわけがないだろ!」
「異世界?私は異世界から来たんですか!?」
「そうだろう!?アレはこの世界には無い物だからな!」
「それは何処にあったのですか!」
「未だ惚けるか!自分で引き出しに仕舞っていただろうが!」
はい、再びチェスト。この人単純すぎない?脳筋なのかな?それともお酒の影響で判断が鈍ってるのかな?どっちにしても、監視を任される騎士としては駄目だろ、こんなにあっさり言わされちゃったら。
「………ふーん、そっか。じゃあやっぱりアンタが犯人なわけだ」
「犯人?」
「他人の物を、他人の部屋に入って盗んだ犯人。あ、あと覗きか。変態の所業だね、やっぱり相手にしたくないわ」
そう嘲笑った私に、サイラスは顔を真っ赤にした。




