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「私は異世界からやってきた。それを証明するのは私が持っていた、この世界には無い機械。そしてそれを手土産に、ティナのお父様に話をした。もしかしたら私が、今他国で話題の神の使いかもしれないと。男性としての矜恃の高い貴方の事だから、ティナみたいな男に媚びない人の様子を報告するなんて仕事から、早く解放されたかった。だから、私の事が良い交渉材料になると思った…でも現状維持」
「…煩い」
「それは何故か。私が異世界から来た証明は出来たとしても、私が神の使いである証明は出来ていないから。はい、論破ー」
「煩い!!」
サイラスは私の手を振り払って、何処に持っていたのか分からない短剣を私に向け、叫んだ。
「…殺されたくなかったら、脱げ」
「何を?」
「神の使いならば身体の何処かに特有の模様があるのは知っているだろ。服を脱げ、確認する」
「…貴方に殺されそうになったので、絶対この国の人の為なんかに力を使いませんって言おうかな。何なら他の国に助けてもらえるよね」
「な!?」
「それに他人の部屋に勝手に入って他人の物を盗むし、覗きはするし盗聴もするし、そんな人の国を助ける義理は微塵もありませんって言って、ティナとアークの為に力を使おうかな」
そうだ、そうしよう。王族の言う事を聞かなきゃいけないなんて、誰が決めたの。他の国の神の使いが其々の王に物申せる様に、私だって言えるって事でしょ?だったらそう宣言して二人の為に使おう。私が神の使いだったら、だけどね。
「貴様っ…!」
「止めろサイラス、お前に彼女は殺させない。これ以上醜態を晒す様なら、騎士にも戻れなくなるぞ」
そう言いながら暗闇から現れたのは、アークと、一人の見たことのない男性だった。低く響く声だった。腰に剣を持っているし、鍛えていらっしゃる感じがするし…うん、騎士様な気がする。
「だ、団長!?」
「え?」
何だと、まさかの団長様とな!?貴方の憧れの人じゃないか。
「…イナ殿、うちのサイラスが大変失礼な真似をした。申し訳ない」
団長さんはそう言って私に頭を下げた。突然の流れに頭がついていかず、私はちょっとの間、と思うけど、反応が遅くなった。
「…え、あ、いえ、大丈夫です」
「そうか、そう言って貰えると有難い。本来騎士とは弱きを助けるべき存在であるのに…偏った見方で一番立場の弱い女性にこの様な…」
「王宮に住んでる騎士だから余計に仕方ないんだろうさ」
「そうだな、あの場所は本当に精神がおかしくなる。だからと言って常駐を外す訳にもいかない。元々見栄を張るのが男という生き物だから、余計に助長される事の無いように鍛えたつもりなんだがな…」
「っ!」
団長さんは冷静に怒っているようだ。人を殺せそうな視線を、私の横の人に送っている。物凄く怖い。響く低音ボイスが迫力を増強している。
「サイラス、お前はまだ騎士でありたいか?」
「も、勿論です!」
「そうか、ならば明日の昼までに、彼女の持ち物を返せ。そして平身低頭ティアナ嬢と、特にイナ殿に頭を下げてお詫びしろ。それが出来なければ除籍する」
「そんな!」
「当然だろう。お前が何と言おうと、犯罪を犯した奴を、簡単に騎士として戻す奴が何処に居る。私を舐めるな。それに、騎士としての誇りを先に傷付けたのはお前だ。お前に拒否権はない」
「ぅ、あぁ…」
サイラスはその場に崩れ落ちた。どうやら団長さんは全てご存知のようだ、言い逃れなんか出来そうもない。この中々の潔癖具合が、漢として尊敬される気がする。伊達に団長として立っていない、というわけか。
「…と言うわけでイナ殿、貴方の所持品は必ずお返しする。それまで少々時間を貰えるだろうか」
「構いません。元々使えない物ですし」
「そうなのか。ああ、後コイツも鍛え直す。徹底的にな」
「そうですか、頑張って下さい」
私は自分の持ち物さえ帰って来ればそれでいいです。
〇
団長であるシーランスさんは、そのままティナの宿屋に泊まる事になった。そして翌日の朝、サイラスがシーランスさんを伴って謝りに来た。けれど、機械はティナのお父様に渡してしまっているから、取り戻すまでに時間が掛かると言い訳された。そんなの知らないと、ティナが私の代わりに滅茶苦茶怒っていたが、有る場所がはっきりしているなら良いや、と、私は取り敢えず戻してくれるならそれで良いと言っておいた。但し、私が神の使いだという出鱈目な噂を広げられては困るので、出来るだけ早めに片をつけて欲しい事は伝えた。
「そう言えば団長さんはアークから聞いたんですか?」
私の事を知っていた様子だったから、アークが話しても大丈夫だと、信用に値する人だとされたんだろう。若しくは、サイラスを止めるためにやむなく、か。
「ああ。君の事については、未だこの国の王族には伝わっていない。恐らく未だファシート公爵様で止まっていると思う。今王宮全体はそれどころではないのが現状だからな」
「あ、それ聞きました。それこそ私が疑われた神の使い関係だとか」
「そうだ。そんな状態の場所に、不確定要素の噂話を追加すれば益々混乱を招く。だから言えないのだろうと思う」
「ま、どちらにしても私達庶民には関係無い事だわ」
「全くその通りだ、ティアナ嬢、騒がせて申し訳なかった。私もイナ殿の事を広めるつもりはないし、身内の恥も出来れば晒したくない。中身はどうあれ、腕は立つからな…」
理由は後半の方が大きいに違いない。私の事を話せば自然とサイラスの事も話す事になる。そうなれば経歴に傷が付き、色々勿体ないのだろう。腕が立つなら尚更。
「当面は私も行ったり来たりしながらになるが、様子見る。少しでも嫌な思いをしたら知らせてくれ」
「既に嫌よ。早く帰って欲しいわ」
「流石にそればかりは此方の判断では無理だ」
「これだから役職持ちって嫌。お金で解放されたと思ってもこうよ、本当に嫌になる」
ティナは頗る不機嫌だ。私の事もあるし、何より自分の元父親が関係する事が心底嫌らしい。
「あ、そう言えば。神の使いの父親が見つかってないそうじゃない。逃げてるの?それとも単純に逸れただけ?」
「逸れたにしては間が空いているな。誰かが故意に隠している可能性もあると思うが」
「誘拐って事?保護しようと他国も含め躍起になってる中、簡単に出来るかしら」
「誘拐というより、安全な場所に匿ってるとか」
「流石二人とも、耳が早いな。それはかなり機密事項なんだが……彼なら今、保護されている」
団長、今貴方機密事項って言わなかった?それを簡単に言ってしまって良いのか?まあ、今更なのかもしれないけどさ。先に話題を振ったのはティナだったし。
「保護って何処に」
「ある行商人の元に。勿論商品としてではなく、純粋に倒れていたのを助けたようだ」
「知ってるならとっとと交渉材料にすればいいじゃない」
「それが…それを知っているのはほんの僅かな人間だけで、王族に関係するところだと、俺だけなんだ」




