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話によれば、だ。スペルリングにいらっしゃる神の使いの、その父親は、元々神の使いと一緒に居たらしいが、神の使いが目を覚ます前に、王家の人に連れて行かれたんだそうだ。安全な所かどうか、父親が周りを見ていた隙に。戻ったら我が子が居ない!と焦った父親は方々探し回ったが、とうとう力尽き、倒れた。そこを運良く行商人の一行に助けられて、今オルスタムに居るんだそうだ。巡り合わせってあるよね、良かったねいい人に助けてもらえて。私もだけど、奴隷商人とかに出会っていたら、今のこの生活は有り得ないんだから。…こう考えると、本当に私は運が良いと思う。ティナやアークという存在が、中々癖があって厄介者であると、今回の件で証明されたのだから。良い意味でね。そんな存在と親しくなれたのは、本当にラッキーだとしか言えないよ。
「その人は自分の子供に会いたいって言わないんですか?」
「それはよく言っている。他にも、妻やもう一人の息子にも会いたいとね。だが、自分達が居るこの世界に他の家族が居るという保証は無いから、とにかく居ると分かっている息子には会いたい、と」
「じゃあスペルリングに行かなきゃいけませんね」
「ああ、だが今は国境越えは商人でもかなり厳しくなっているからな、簡単に国外に出せないんだ」
「人相書きでも出回ってましたっけ?」
「いいや。だが、今は特にスペルリングへの出国が厳しい。しっかりとした身分証明書が無い限り、無理だ」
「あー…成る程」
オルスタムの国民は、王族と奴隷以外身分証明書が与えられているらしい。それに記載されるのは職業や住所、名前等、所謂パスポートと言った感じだ。必要になるのは国境を越える時が殆どで、後はたまにされる職質の時。普段持ち歩く事もあまり無い物だから、その場で無くても困りはしないし、言い逃れは容易い。私も一回あったけど、普通に何とかなったし。
「普通にこの国に結婚の為に来た、じゃ駄目なのか?」
「それでも良いかも知れないが、それだと彼が何処で暮らしたいかにもよるだろう。息子は確実にスペルリングに居るんだし」
「…うーん、結局はオルスタムの都合に思えるのは私だけかな?」
「何?」
「だってさ、本当に息子に会いたいなら、アークの言う通り嘘でも何でもとっとと吐いて、さっさと証明を取って国外に出る方が良くない?息子は神の使いとして王宮で手厚く保護されてるんだからまず安全だし、居場所も分かってる訳だし、自分が父親だ!って言えば間違いなく王族関係者もしくは神の使い本人の確認はされるでしょ?そしたら後は本人達次第でしょ。それに付随する他の事はその後考えればいい。今まで他国に行ったオルスタムの人が、オルスタムの人間だっていう証明があるから他国には住めません!って言われているなら別だけど。出来るのにそれをさせないなんて、やっぱりこの国から出したくないって言うオルスタム都合に聞こえる」
どうだ、理屈っぽいか?と思いながらも、思ってた事を全部言ってやった。何処に住むかなんて問題じゃない。それは会いたいと思う親の思いを止める理由にはならない、と思うんだ。
「……そうね、その通りだわ。そもそもスペルリングに居た人間を連れて来たのだもの、返すのが当然だわ。証明が必要なら取ればいいのよ」
「し、しかし…」
「行商人は王族が探している存在を拾っているのに報告もせず、逃した事が露呈るのが怖いだけよ。上手くいけば甘い汁が吸えるけれど。ハイリスクハイリターンな存在を拾ってしまったのよ、お咎めが怖いなら、今からでも上に報告すればいいのにそれをしないのは、何故?」
「…シーランス団長、貴方はどうあがいてもこのオルスタムの騎士団長だ。この二人の様に柔軟に考える事が、些か難しい立場に居る。決して貴方を責めるつもりはないが、貴方はオルスタムに背けないし、商人も自分に益がある方を選ぶよな」
「…それは…その通り、だな」
団長さんは物凄く難しい表情を浮かべた。考えているのだろう、色々と。私やティナに言われ、アークに諭され、立場的なものや他の利権とか色々混乱しているのかもしれない。
「あ、と言うか、団長さんゴメンなさい。私偉そうに言ってしまった…」
「ん?あぁ、それは構わない。気にしないでくれ。この立場になると、対等な立場で物事を話してくれる人間が少なくなってな。ティアナ嬢やアークと違って、イナ殿は全くの身分無しだから、こうして話しているだけでも有意義なんだ」
そう、未だ身分証明書を持っていないのは私も例の父親と同じ。奴隷ですらない、浮いた存在が、この国に二人居ることになる。私の場合、国外に行くことも無いだろうし、もう少し落ち着いてからお役所に行ってもいいと思ってたから、何にも手続きしてないだけなんだけどね。
「なら私も良かったです。それと、敬称いりませんよ」
「む、なら私も、私に対しての敬語を止めてくれ。せっかくなら貴女とは対等でありたい。ティアナ嬢のように、色々教えてくれ」
「分かった。呼び方は団長で?」
「そうだな、好きに呼んでもらって構わないが…ラスとでも気軽に呼んでくれ」
「イエッサー、ラス団長」
「ぷっ、何それ、変な言葉ね」
ティナが声を上げて笑い出した。パアッとその場の空気が明るくなる。彼女は本当に凄い人だ、まるで太陽の様な人。ティアナという女性は輝いて見える。強く、それでいて優しく、何より、自分自身の信念に正直で真っ直ぐだ。反対に、それを補うアークエストという男性は、月の様な人だ。強い太陽の光を反射させて、柔らかくすることの出来る存在。彼が居るからティナも安心出来るのだと思える、良い関係だ。…どうしよう、私って詩人みたいじゃない?
「イエッサー?掛け声みたいなものかな。使わない?私がいた世界の違う国の軍隊さんとかがよく使うイメージなんだけどね」
「聞いたことないな。恐らくウィンファルターでも使わないと思うぞ」
「そっか、私もあんまり意味分からないんだけどね、イエス、って言う肯定と、サーって言う上官の、二つの言葉が合わさった言葉だった気がする。簡単に言うと、はい上官!とか、了解しました!みたいなニュアンスだったと思う。違ってたらゴメン」
「へー、面白いな。今更だけど、イナの世界のこと何にも知らないから、興味ある」
「そうね、色々警戒しなきゃいけない事が多過ぎて、聞くに聞けない状態だし。大丈夫な時でいいから、これから色々教えて頂戴ね」
「それは勿論。じゃあ、手始めに一つ。私の持ってたあの四角い機械はね、スマートフォンって言う、離れた人と話したり、文字を届ける事ができる物なんだ。便利でしょ?」
取り敢えず一発目、皆んなにも関わりがあった物から行ってみました。




