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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
本章 兄弟様は主人公
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11

 ナティーシャに渡される書類の殆どは、国民からの意見書のようなものが多い。後回しにされてもいいもの、という括りなのだと暗に示しているようで、頭が痛い。今回そんな中にあった『神の使いの父親と思われる人間についての報告書』は、おそらく情報共有の為だったのだろう。エリルークやサシャが知らない訳もなく、それでいて二人が動かなかったという事は、二人にとって俺が気付いたこの一行は、気にもならないモノだった、といことで間違いはない。実際、オルスタム王の元婚約者候補の情報も、エリルークは知っているようだが何ら気に留めた様子はない。この状況からも、奴の言葉通り、些細なものなのだろう。若しくは、ワザとか。だが、俺にとっては大きな情報になる可能性がある。何たって『身分が不明な女が宿屋の従業員』らしいのだから。

 身分がハッキリしない、と言う事は、この世界ではほぼ有り得ない。この国で言えば、王、王妃、宰相の他に、聖職者や貴族、騎士、商人、奴隷等で国民は構成されている。俺が得た知識の中では、基本的にどれかには属し、身分が割り振られる。国民である証明は、アスタリスクの様な形のこの国の宗教のシンボルで、そこに彫られる自らの名前や誕生日。奴隷ですら一人一人に持たされるから、この国の国民は全員同じ宗教の元に集っているとも言える。例え違う神を信じたくても、此処ではNGだ。それだけ、良くも悪くも仲間意識が強い訳だが、その中で俺と親父が異質となる。俺たちは神の使いとその父親、という名称はあれど、身分は無い。俺も親父も異世界の人間だからだ。そう考えると、()()()()()()()()()()というのは、とても不自然な事なのだ。


「…って資料が出てきた。どう思う?」


 俺はあの部屋を後にして、親父の部屋へ資料を何枚か持って尋ねた。


「どんな生活をしてきたとか、オルスタムでの生活の話を具体的に聞いてないよな?」

「…そうだな、話してないな」

「…言いにくいことでも?」


 何となく、言葉を濁している気がする。とても良くしてもらった、とは聞いているし、資料にも無体を強いられていた事を示す類の記述は無かった筈。だったら何を言い淀む?


「…保護してくれた商人たちは皆、いい人だったと言ったな」

「ああ、事情も教えてくれたようだし」

「一時…宿屋に居た。俺がスペルリングへ戻る為に書類を取ったらと言われて、近い宿屋に移動したんだ」

「…知ってる。そこから此処へ戻ってきたんだろう?直前までいた所だと資料にある」

「そうだ」

「そこで何かあったのか?此処に、身分が不明な女が従業員とある。宿屋の事を教えて欲しいんだけど」

「!」


 親父の肩がピクリと跳ねた。別に脅しているつもりは無いのだ、嫌じゃなければ話して欲しい。今の自分では力になれる事は微々たるものだろうが、家族なのだから、と思うのは俺のエゴだろうか。


「親父?」

「………会ったよ」

「誰に?」

「はぁ………()()に、だ」


 天を仰ぎ見ながら、親父は大きなため息と共に名前を答えた。俺たちにとって、タブーの名前。俺の、血の繋がらない妹…だった女の名前。

 …俺は、今の家族の誰とも血の繋がりは無い。俺の生みの母親は、身体の弱い人だった。血の繋がった父親とはすれ違いのせいで離婚し、今の親父と、俺を連れて再婚した。だが、病気を拗らせ、一年と保たずに死んだ。そして残された俺は、親父に育てられる事になった。幼い子供を男手一つで育てる事もないと近付いて来たのが、いなの母親だった。親父はその気になって結婚したが、婚姻届を出したその日、その女はあろう事か外で子供を作っていて、挙げ句の果てに親父の子だと言い張った。親父は決して認めなかったが、いなの母親も認めず、別れるならと高額の慰謝料の代わりにといなを引き取らせた。その後、今の母親であるさくらさんと結婚して、湊という弟が出来た。湊は正真正銘、親父とさくらさんの子供だし、俺たちは、血は繋がって無いけど、家族としてはいい関係を築いていた。だが、いなは違う。さくらさんや親父も持て余し…俺も湊もどう接していいか分からない存在になっていった。いなが何かした訳では無い事は分かっている。だが、正直、アイツが居なければ、もっと何のシコリもなく、俺たちは家族としてまとまれたのでは、とも思う。そして年齢も定かでは無いから、裁判所からの連絡でアイツが二十歳まで生きていた事に驚きもした。いや、死んだとは思っていなかったが、自ら家族では無いと法的に示したかった意思を知った時、何故か鳥肌が立ったのを、今でも覚えている。


「何で…」

「分からない。向こうも、俺を見て驚いていたようだったから本人に間違いは無いだろうし、お前が居る事も知らないと思う」

「何か、話したのか?」

「いいや、話してない。だが…そうだな、言われてみれば一度最初に会ったきり、見かけてないな…」

「…居なくなった、訳では無いよな?」


 資料によれば働いている従業員のようだし、辞めたり途中でおかしな真似をすれば、報告が上がる筈。


「俺自身、何かない限り部屋から出るな、とは言われていたし、向こうも付き添いの商人に聞いて、ワザと会わないようにしたのかもしれない」

「それが可能な環境だったのか…なら、ますます商人には感謝だな」

「ああ、それは本当に。何から何まで世話になったから…」

「だけど、それでハッキリした。俺たち以外にも身分が不明な人間…異世界から来た人間が居る。あ、いなの手には何か模様はあったか?俺みたいな」

「そこまでは覚えていないし、第一見てない。会った事に衝撃を受けたから…」

「まあ、普通はそうだよな。でも、そうか…となるとウィンファルターに居る神の使いも、異世界の人間の可能性が高い気がする。下手をすれば、俺たちに近い存在かもしれないし」


 いなが居る、という事は、湊やさくらさんが居てもおかしくはない気がしてきた。何とかして、不自然な事が無いように、ウィンファルターの神の使いに会えないものか。資料を早く見なければ。


「…何でいなだったんだ、もし会えるなら、湊とさくらがいい。そう何度も考えた」

「うん?」

「だが、それと同時に、アレで良かったとも思うんだ。二人だけでも、こんな変な世界ではなく、日本で何の不自由なく暮らしてくれていればいい、と」


 考え事をしていたら、親父が話している事について行きそびれた。


「この世界は女性が不憫な世界だそうだから、さくらが変な目に合わないならそれに越した事は無い。お前が神の使いとして大変な中、こんな事を言うのは間違っているのかもしれないが」

「あー…神の使い、ね。まぁ、自分に特別な力が有るのかはよく分からないし、どうやってそれを使うのかも分からないから、正直自覚が無い。だから、いくら特別な存在として扱われたところで、所詮は一人の男に過ぎないと思ってる」

「そうか。お前は器用な人間だからなんでも上手くやるだろうが、あまり無理はするなよ」

「あぁ」


 器用、か。器用なら何か思い付け、俺。4つの国を一度に観られる機会を。神の使いであるなら、それくらいの事をして見せろ。

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