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追伸、お前の気持ちがよく分かった。そう綴られていた手紙の最後を見て、私はテンションが上がった。同士誕生!って。文面からしてナードのことだとすぐに分かったからね。後はティナもこっち側に…と思ったけど、おそらく時間の問題だと思うんだよ。話を戻して、この手紙の本文は、私とティナをサーマルクに、と言うものだった。そして一緒に材料を吟味してほしい、と。正直、私自身本物のテントを見たこともなければ、ビニールシートの延長程度の考えだったから、アークの力になれるとしたら、あくまで抽象的でしかない。そう伝えてある筈なんだけど、ナードの可愛さに負けて私たちを呼ぶ事にしたんだろう、分かる、分かるよ、可愛いものあの大型犬。…ダメだ、ナードにどうしても話が戻る。今買い出しで街に行っているティナが戻ったら、どうするか相談しなきゃいけないって言うのが、私の現在の優先事項であるっていうのに。アークがサーマルクに行ってから一週間、それは私達が宿屋を再開した日数でもある。その一週間の間にお客さんは数名来たし、それを差し置く依頼をティナに出来るだろうか。
「…戻ったわ…」
「あ、お帰…り?」
うんうんと、一応手を動かしながらどうやって話そうかとか、もし一人で行けとか言われた場合とか考えつつ、ティナの帰りを待っていた私。その人を迎えてイザ!って思う間も無く、ゲンナリしている彼女に、思わず首を傾げた。
「どうしたの?」
「…コレ、何かわかる?」
「封筒、だね。お手紙」
そう、とても綺麗な、高そうな封筒。それが、ティナの手に有る。ますます首を傾げる。それは何なのだろう、と言うか誰からなのだろう?彼女をこんな風にする人って言えば、元家族ぐらい…え、まさかね。
「…まさか」
「そう、そのまさかよ。まったく、もう私は関係ないって言うのに」
「ね。で、中は見たの?」
「未だよ。破って燃やして土に還してしまいたいわ」
「跡形も無いね…」
「でも見なかったら何がどうなるやら…」
「破る前に見て、を付け加えたらいいんじゃない?」
「そうね、でもそれが一番億劫なのだけれど?」
「……じゃあ私が見る?」
「そうね、この文字が読めるならね」
「…無理」
ティナの言う、この文字、というのはこの世界の文字の書ける大人の殆どが書く文字の事。私はそれが未だ読めないし、書くことも勿論出来ない。私が読んでいたアークや、この前のナードからの手紙の文字は、ティナの言う文字ではない、子供が書くもの。そう、私はこの世界の子供レベルである、という事ね。でも、ここまで来たのは頑張ってると思うんだよ。読み書き全く出来ません、の状態から、子供レベルなら何とか読み書き出来ます、まで来たんだもんさ。アークやナードは勿論、私の周りの人間はその事実を知っているから、私に何か読ませたり書かせる場合は、所謂子供文字オンリーになる。何かね、大人文字はミミズがいっぱい這っているだけにしか見えないんだよね。記号だよ記号。もしくはミミズ文字。
「そうよね、じゃあちょっとサクッと見ちゃうわ」
いつの間にか開いていた封筒から、綺麗に折られた白い紙を取り出して、目を通しだした。そんな彼女を、私は自分の目的を忘れ、ただただ見守った。
「………イナ」
それからそれ程経たない内に、ティナは低い声を出した。若干体も震えている。
「何、どうしたの、何て書いてあったの…?」
「貴女は直ぐにサーマルクに行く準備をして。今直ぐに!」
「ちょ、ちょっと!?急にどうしたの!」
「此処に居ちゃダメって事よ!私も直ぐに行くから、先に行って!必ずこの間取った書類を忘れないで。あれが無いと国境が越えられないから!」
「それは分かった、分かったからお願いだから理由を教えて!」
尋常じゃないティナ。その手にある手紙が原因なのは一目瞭然で、私との会話さえ惜しむ時間の猶予の無さは、どう考えてもおかしい。私は元からティナの言うことに従わないつもりはないし、行けと言われれば行く。だけど、ティナは?ティナどうなる。後から来ると言っても、待ち合わせ場所は?そんな事も言われてない。
「この手紙が投函されてからどれだけ経ったのか分からない…だからこそ時間が惜しいの!理由は後からちゃんと説明するわ、だからいい子だから先に国境を越えて!オルスタムからさえ出てしまえば、一旦落ち着けるから!」
「…分かった、じゃあ何処で待っていればいい?サーマルクの何処に行けばいいの?」
「サーマルクにはアークが居る。取り敢えず、アークの居る宿屋に居て。名前は分かるわよね?」
「それは分かるけど…」
「じゃあ決まり。私も後からそこへ行くわ、事情はその時アークにも話す。だから、さあ!」
そう言って背中を押された。後から来る、と言うからには、ちゃんと来るんだろう。視線で念を押したら、ちゃんと頷いてくれたから、信じるけど。今居るお客様の対応をしなきゃいけないから、って事だよね。そう、思っているからね?
私は促されるまま、部屋で自身の荷物を…と言ってもスマホが無い以上、ティナ達から貰ったこっちの服くらいしかないから、荷物らしい荷物は無いのだけど、取り敢えず纏めて、証明書を持った。そんな私にティナは何も言わず、裏口から私を外へ出した。
〇
「…そう、やはりそう動いたんだ」
「は」
「ならば此方も動かないといけないね」
「動かしますか?」
「…否、彼女は放っておいても、あの小さい男が黙ってないだろうから、動かすならこっちへ。あ、でもちゃんと招待状を贈らないとね」
「では彼女を正式に?」
「そうだね…そうした方が良いのだろう?」
「ええ、一番適任ですので」
「…だ、そうだ。憐れな子ウサギのお迎えをしなければね」
「承知いたしました、では私共はその様に」
前王と第一王子が死んだ後、城の中を改めてゆっくり見て回った。必要な場所、不必要な場所様々在るのは元から知っていたが、改めて見て回ると、こうも不要なものだらけだったのかと思ってしまう。前王、第一王子は二人ともベッドの上で死んだ。王の寝室は、もうベッドを捨て、他の趣味の悪い装飾品も売り、全て金に換えた。今その部屋はただの物置だ。正確に言えば、簡素なベッドのみ置いている。第一王子の部屋も全て捨てるものは捨て、売れるものは売り払った。その部屋はフクロウ達が使いたいと言うので、使わせている。私の部屋はそのまま自分が使用しているし、有り余っている部屋をルイザゼラや、今度やって来る憐れな子ウサギに回したところで、まだまだ余っている。実に無駄が好きな人達だった。
「…で?」
「と、申しますと?」
「言わせるなら言うけれど?」
「…失礼を。処刑の準備は整っておりますが、息子をするのは如何かと思います。父親はもう何の価値もありませんので、どう屠っても誰も何も遺恨は無いでしょう。ただ、息子の方は駒になります」
「私は別に構わないよ、生きていようが死んでいようが。確かに駒には成る。だが、それが生きていなければならない理由は?死んでいようが、駒は駒だよ」
「…確かに」
死んで終われるのは、とても幸せな事。死んでも駒になるなんてごめんだが、自分には無理だ。だからせめて、周りを巻き込んでやると決めたのだ。




