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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
本章 兄弟様は主人公
38/46

8

 サーマルクに入って早三日経つ。イナから聞いた水を弾く布と雨に強い金属を探す為、俺はサーマルクにやって来た。てんとについて色々イナから聞いたが、本人も実物をよく知らないらしく、とにかく野宿で便利な物とだけ聞いた。取り敢えず、雨に強い布の代表であるびにーるしーととすてんれすとか言う金具、紐で何とかなると思う、と。ただ、びにーるしーとは通気性が無いからと、他にもびにーるしーとの使い方についてだけはやけに詳しく教えてもらった。通気性が無い故に風を通さず温いし、雨は弾くし、と。蒸れと涼しさは全く無いから暑い季節は困るのだと。それでも外での生活として屋根にするとか風除けとかなら、実に重宝するそうだ。

 …欲しい。イナから時折聞く異世界の物の話は、てんとに限らずとても興味深い。すまーとほんもそうだ。遠く離れた相手に簡単に連絡が取れるのは便利でしかない。それはどうやって作ってあるのか聞いたことがあるが、本人にはてんと以上に複雑過ぎて全く分からないから勘弁してくれと言われた。


「アーク」


 そんな事を考えていたら、ふと知った声が俺の名前を呼んだ。


「…お?…フィル!」


 声の先にはフィルが立っていた。デカい姿は相変わらずだ。これでいてイナが可愛いと言うから、世の中よく分からない。…イナが異世界の感覚だからなのか?


「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」

「あぁ…連絡を貰ったのに、中々来られず…すまない」

「いや、寧ろこっちこそ忙しいのに悪いな」


 そう、サーマルクに行くにあたって、俺はイナにフィルへ連絡を入れてもらっていた。フィルの出身がサーマルクだと言う事は知っていたが、連絡先は聞いていなかった。それを知ったイナが、いつの間にか仕入れていたらしい連絡先に手紙を書いて送ってくれたのだ。時差があるにしても、こうして駆けつけてくれるのは物凄く頼もしいし、感謝しかない。


「それで…何を、探している…?」

「うーん、と…」

「…そうか、此方へ…」


 重大な案件ではないけど、聞かれたくはない。察してくれたらしいフィルは俺を何処かへ連れて行ってくれるようだ。少し裏路地の方へと導かれる。


「何事もなく無事に国外に出られて良かった。連れの件は、まぁ…色々あっただろうが」

「…元々、相手とは、やり取りを、していた…」

「だろうな、そうじゃなかったらこんなにスムーズには無理だったはずだ」

「ああ…」


 一緒に居たわけじゃないが、アッサリ事が済んだ事が何よりの証拠だ。さすがオルスタムの商人、手際が良い。


「…あ、あの…」

「あ?」

「…」


 裏に差し掛かる手前、その境目で、線の細い華奢な少年に声を掛けられた。


「と、突然すみませんっ!此処から先は…」

「…知っている。フィルが来た、と、伝えろ…」

「はっ!はい!!」


 声を掛けてきた少年はバタバタと奥に引っ込んで行った。何だったのだろう?このデカい男を見て話し掛ける勇気は中々だと思うが、華奢な男は何かの見張りか?


「…此処は…この国の中でも、特殊な、エリアで…例え王でも、許可がなければ、入れない」

「え、マジか。俺の話す事そこまで重要じゃないけど…」

「あぁ、それは…何となく、分かっている…だが、何か他にも…あるかもしれない、から…」

「そう、だな。助かるよ、近況も話せたら良いしな」


 俺がそう言うと、フィルは頷いた。確かに俺だけの話であれば大した秘密事項じゃないが、互いの近況となればイナの事も含めて下手に広げるのは良くない。その配慮に素直に感謝する。

 そしてそうこうしている間に、さっきの男が戻ってきて、俺たちを奥へと案内して行った。




 〇




 奥に居たのは恰幅のいいオヤジたった。彼はフィルを見るなり軽く手を挙げ、階段を顎で指す。それに俺たちは従って上がり、一つの部屋に入った。中はテーブルとソファーくらいの、閑散としたものだった。


「…此処なら、誰にも、聞かれない…」

「そうか、わざわざ悪かったな。と言うか、コ(・)コ(・)は何なんだ?」

「…シェド」

「あー…」


 その名前に、俺は頷いた。シェド、正式名称シェルドラ。それはこの世界で異端とされる種族の名前だ。特徴は身体能力の高さ。物心つく前から男女問わず鍛えられ、それ故に暗殺や傭兵として生計を立てている人間が多く、奴隷としても価値が高い。どこに住んでいるのか詳細が分からず、どこかの国にはいるだろう、程度だ。まさかそれがサーマルクに居るなんて。


「…彼等は、定住しない…今居る、だけだ…」

「心配しなくても、言ったりしないさ」

「信用、している…」


 心配されているわけではないと分かってはいた。そうじゃなかったらここに連れてはこないだろう。だが、お互い念のため口に出す。


「で、だ。早速だけど俺がこの国に来た理由だが、イナから何か聞いてるか?」

「いや…欲しいものが、ある…くらいだ…」

「そう、そうなんだ。俺はイナの世界にあったというてんとを作りたい」

「…?」


 てんと、と名前を出してもやはりピンとこなかったらしいフィルは、軽く首を傾げた。


「野宿をする時に便利なんだそうだ。取り敢えず、水を弾く布、水に強い金属が必要なんだ。何か心当たりは無いか?」

「水を…」

「…形はこんな感じで、紐を地面に金具で打ち付けて固定する。大きさによっては人が3、4人入れるとか。本当は色々骨として使ったりするらしいが、イナも構造をあまり詳しく知らないらしくて、木とかに括り付ける感じに天井はしたらどうか、と言っていた」


 持ってきたイナの絵を見せながら、説明をしてみる。この場にイナが居たらもっとスムーズだったのだろうが、これはあくまでも俺の好奇心の問題。アイツはティナの連れで、あの宿屋の従業員だ。


「布は風を通さず、雨も凌げるものにする。冒険者にはうってつけだと思わないか?」

「…成る程…面白いな。この世界では、見たことが、無い…」

「そうだ。だから量産出来れば売れると踏んでる。冒険者だけでなく、遠征する騎士やウィンファルターの兵士なんかも買いそうだろ?」

「ああ…」


 ニヤつく顔を抑えきれず、フィルを見れば、フィルも興味深そうな顔をしていた。


「協力してくれたら、当たり前だけど協力料は弾むぜ」

「…金属、は…部品か…?」

「そうだな、加工してもらうことになると思う。そういったことが可能な工場とかも教えてもらえると嬉しい」

「…少し、時間をくれ。探してみる…」

「悪いな。俺もイナと連絡を取って、詳細とか聞けるようにしておく」

「…呼べない、のか…?ティアナ嬢も、一緒に…」

「うーん、確かに呼んだ方が早いんだけど………ちょっとそっちの方向で連絡入れてみるか」


 …呼ばないつもりだったんだ、本当に。それだったら最初から引っ張って来た。ティナに文句を言われようとも、説得するだけの価値があったんだから。でも、それよりも手強いのが目の前に居た。呼ばないのかと心底残念がってしゅんとしたかと思ったら、来るかもしれないと分かった途端にぱっと華やいだ空気を惜しげもなく醸し出す、イナに可愛いと言われるこのデカい男が。俺も何だか大型犬のようだと、イナの気持ちが分かったようで…負けてしまった…。

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