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「…で、だ。団長の物と俺の物を見比べてもらえば分かるけど、団長は俺のとは装飾が違う」
「……本当だ」
「これは地位や立場的なものもあるけど、団長の物は総団長である事、俺の物は王宮騎士であることの証明として違う物になってる。他にも細かく言えば幾つも違いはあるけど、王宮騎士かそうじゃ無いかを判断するなら、此処を見ると直ぐに分かる」
そんな機会、そもそもそうそう無いだろうけど、でも、見分けの付け方を教えてくれるのは楽しいかもしれない。間違い探しみたいで。
「まあ、そもそも格好が違うから、そっちの方が目が行きやすいと思うけどね」
「…ん?待って。という事は、これまでの説明って一般常識?」
「街の人や奴隷で、ここまで詳細に知っている人は居ないかもしれないけれど、知ってても何らおかしくない情報ね」
「…時間を取らせてすみません」
「いやいやいや、イナに言いながら我々も整理しているようなものだ、気にしないでくれ」
「ティナは拗ねてるだけだ、気にするな」
「ちょ、アーク!」
ん?拗ねてる?何で?拗ねる要素あった?
「クク…イナが捕まった時、自分が頼りにならなかった事に拗ねてるんだ。頼ってもらえなかった、ってな」
「アーク!!!」
…………何それ。何それ何それ何それ!!!
「…ティナ」
「………何よ」
「大好き!!可愛い!!大好き!!」
「え…きゃあ!!」
思わず飛び付いた。顔を真っ赤にしているティナが可愛い。何なのこの可愛い人は!キュンキュンする!
「ねぇ見た!?可愛いよね!!これが可愛く見えない人なんて居ないよね!?ティナってばもう、死角無しだね!!美人で可愛くて何でも出来て!ゴメンねー!何でもするから許してー!!」
「意味不明な叫び声出さないで!!!」
…その後、爆笑するアークをよそに、ラスとサラに引き剥がされるまで、私はずっとくっ付いていた。くっつき虫ってあだ名が付きそうなくらい、ギュッとした。因みに大事な事だから言うけど、ティナは私より少し背が低いけど、出るとこ出ててウエストも細いから!
〇
それから話の腰を折りまくった私は、爆笑から復帰したアークと、少し疲れているティナのお陰で漸く本題に戻ってくることが出来た。
「…俺は今までの事で分かる通り、第二王子派の人間だった。ムスカード様側の連中が嫌いだった事もあるけど、何より陛下は下の人間の事を考えられる人だと思ったから。でも、イナの機械をファシート公爵様の所へ持って行ってから、少し何か様子がおかしいと思い始めた」
「どういう事?」
「…俺はずっと、ファシート公爵様は完全な第二王子派だと思っていたし、周りもそう思っていたと思う。娘である君を嫁に、と差し出したくらいだから。でも、さっきのイナの話を聞いて、ずっと感じていた違和感の正体が解けた」
「…シャルルが第一王子派だった事は誰もが知る事実だった筈だけど?」
「確かに、君が婚約者候補になってからは顕著だった。けれどそれが家の総意とは限らない」
ティナはあくまでも婚約者候補。もしその時そのままメルーソルの妻になっていたのなら、このご時世、自然と王妃に成ったかもしれない。何たって、今のオルスタムに、王妃は居ないのだから。
「…確かに、メルーソルの子を産む存在としては可能性はあった。でも、それと未来は別物でしょう」
「だけど、そのまま子供を産んでいたら?それは王家の血を引く存在だし、男であれば将来の王候補に名を連ねる事になる。女であっても、姫であり、王族だ」
「…そうね、私には価値が無くても、産まれる子供には価値が出来るわね」
「言い方は悪いけど、そういった意味ではティアナ嬢にだって価値はある。れっきとした王家の次に位の高い公爵家の令嬢で、一番可能性が高かったんだから。シャルル様も、次期宰相だった。ファシート家は、兄妹揃って少なくとも王に近い存在となり、公爵様自身、オルスタムに対して絶大な力を得られた…筈だった」
「あら、そう考えると公爵様も随分とダメージが入ったものね。ふふふ、いい気味だわ」
確かに、今宰相となったのはシャルルさんではなく、ルイザゼラという男性。急に出てきた感がするけど、街では非常に評判が良い。何でかって聞いたら、サブちゃん曰く男気があるらしい。魚屋のおばさん曰く、セクシーで優しいんだって。…セクシー関係なくない?って思ったけど、要するに、人受けする人なんだろう。
そう、結果として娘も息子も、そして自身も、公爵は欲張ったが故に欲しいモノから遠ざかったのだ。
「けど、それで何で違和感が解消されたの?」
「ああ、イナの持っていた機械の件、ムスカード様に行ったんだろ?」
「そうだね、そう聞いたけど」
「何で第二王子派の家の物がムスカード様に渡ったのか。これが全てだったんだよ…メルーソル陛下は全てを利用したんだ」
「どういう意味?」
「俺が盗ったイナの機械は、ファシート公爵様からメルーソル陛下へ行くと思っていた。俺は王宮騎士ではあるけど、護衛騎士じゃない。そんな存在が会えて、ティアナ嬢の関係者で事情が分かり、メルーソル陛下に情報が上げられる相手は、ファシート公爵様しか居ない、と思っていたから」
当時のサラは、とにかく現状の監視から、早く抜けたいと思っていたわけだしね。
「それなのに、一向にメルーソル陛下から音沙汰が無く…改心して機械を返してもらいに行ったところで、ムスカード様へ既に渡っていた。にも拘らず、公爵様としては、完全な第二王子派の俺がウロチョロする姿は、非常に邪魔だった筈だ。だからシャルル様を使って、イナを押さえようとしたんじゃないかと思う。血の付いたナイフは、多分先にフクロウがムスカード様を刺したヤツで間違いない。つまり、流れとしては、ムスカード様が襲われた後に、シャルル様が捕らえられた、で間違い無いんだ」
「…成る程、確かにな」
「だが、それだけでは終わらんな」
「…ええ、勿論です」
ラスの促しに、アークの言葉に一瞬浮かれていた顔が引き締まる。脳筋と思っていたサラが、まさかここまで考える事が出来るなんて、私正直かなり驚いている。
「ムスカード様が襲われた事が凄腕の暗殺者だろうという情報は、フクロウ相手なら間違いじゃない。そして、シャルル殿が捕まった相手も、フクロウであるなら、そこに手を回したのが間違いなくメルーソル陛下という事になる。フクロウは他の誰でなく、メルーソル様の命令しか聞かない部隊だからな。そんな部隊を抱える派閥の現宰相閣下が、シャルル様が先だと言ったのは、おそらくイナ、お前の事があったからだろう」
「え?」
ラスの言葉に目を見開く。
「動ける状態で放置されれば、周りを見て回りたくなるだろう、人というのは。そこでナイフを見付けさせ、本当は、ムスカード様を刺したのがイナだと、その現場をシャルル殿が押さえる算段だったのだろうと思うぞ、第一王子派はな。だが、そこにフクロウがいた事で計画が狂った。シャルル殿せいにしなかったのも、おそらくメルーソル陛下によるものだろう」




