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ラスは今回の経緯や順序、そもそもの出来事全てに違和感を感じている。その解消が私の身に起きた事で解決出来るのであれば…という事で話す事に決めた。ティナやアークについても、二人が優しい目をこちらに向けるものだから、何かあったら文字通り、自分の身を盾にしてやろうと決意した。私がどうしようも出来ない場合は、ラスとサラにも協力してもらう事にする。此処に居ないけどナードも頼らせてもらう。私以外の此処に居る人達の今後の為に、全員で全員をカバーしてもらう様に。それが出来れば良いけども、もし難しそうでも最後まで足掻くと決めた私に、怖いものなんて無い…筈。
「…ティナが覚えているか分からないけど…」
私はあの日の、サブちゃんの所に酒を買いに行った日の話をした。あの日、騎士達に追いかけられて、よく分からない酒場に閉じ込められた事。そこにシャルルと2人のフクロウと呼ばれる人が来た事。そこには血の付いたナイフが有った事。私は今日の事を言わない代わりに、何事も無く無事に帰ってこられた事。
「…ゴメンね、ティナ。あの日心配をしてくれたのに、嘘を吐いた」
「別に構わないわ、そのくらいの嘘。それに嘘じゃ無くてかなり短縮して言っただけじゃない」
「そう、かな…」
「本当に気にしないで良いわよ。貴女って結構面倒臭い性格よね、最近分かって来たわ」
「…嬉しくない」
「でしょうね、だったらもうそんな事一々気にしないで頂戴。私は元貴族で、過去に色々経験してきた身。貴女より経験は豊富だし、嘘には敏感よ」
つまりは、何か隠している事など、お見通しだったという事だ。気を遣わせているのは承知していたけど、こうなってしまうと、言わせてしまうと、本当に情けない。
「まぁ、とにかくだ。今回の件で俺達がどう振る舞おうが、お前の気にする事じゃないって事だ。誰かの目があるという事は、その内噂になる。それが早いか遅いかでしかないんだよ」
「そうだな。それよりも、どちらかと言えば我々よりイナの方が危ない可能性が高いな」
「…私?」
何で?と、ふと始まった私自身の危険話に、首を傾げてしまった。
「フクロウ、と言うのは言っていた通り影部隊だ。表に出る事はない、裏の仕事を行う集団のことで…」
「陛下の部隊さ」
今まで眠っていた人間が、むくりと起き上がって声を発した。
「…サイラス、お前寝ていたのではなかったのか?」
「途中から起きてました。すみません、中々入る機会がなくて…会話を奪ってしまいました」
「いや、構わんが」
ゴメンね、サラ。君のことはもう寝ている存在として考えてたから、会話を聞いているなんて思っても見なかったよ。でも、そうか。フクロウってメルーソルの部下なのか。
「フクロウって皆が知ってるものなの?」
「いいや、影部隊だって事は知ってる人間は居る。特に王宮騎士は、存在を目にする事もある。それが誰の命令で動いているのか、知っている人間は限られてるけれどね」
「あら、でもアンタは知ってたじゃない?」
「ティアナ嬢…もう君完全に俺の事馬鹿にしてるでしょ。俺結構王宮騎士の中でも結構上の立場に居るんだけど!?」
「日頃の行いのせいでしょ」
「だな」
何だろうね、このほのぼの。危ない話をしてる筈なんだけど。
「誰のせいだと思ってるの!…はあ、まあいいや。話戻すけど、俺達騎士は、大きく分けると二種類あって、王宮騎士とその他って感じになる。知っていると思うけど、シーランス団長はその両方を束ねている、総団長だ。その下には王宮騎士長や騎士長が居て、その下に俺達副長クラスになる。一応俺と同じ地位の連中までは、フクロウが誰の影部隊かは把握してると思っていい」
そう、ラスは元々こんなに気軽に話せる立場の人じゃない。爵位を持った、立派な人なんだそうだ。そしてサラもそう。もしティナが令嬢のままだったら、二人よりもティナが立場が上になるから、遊ぶのも問題ないのだろうけど、平民である私は凄い人達の中にいる事になる。ナード含め、ね。
「王宮騎士じゃない騎士も?」
「ああ。メルーソル陛下は表立って自身のだと公言していないし、そもそも彼等は普段フードを被っていて素顔を晒さない。だから誰も彼等の素顔を見た事が無いし、存在自体を知らない人間だらけだと、怪しい要素しかない彼等を害し兼ねない。そんな事では色々支障があるから、フクロウと言う名を騎士であれば間違い無く知っているし、俺達の様にある程度の地位が有れば、誰のであるか知っているってことだ」
「公言してもやり難いし、しなかったらそれはそれで面倒だし、ってこと…」
「そう言う事。綺麗なことばかりが国じゃないのは、ティアナ嬢もアークも痛いほど分かっているだろうしね」
サラの言葉受けて視線を向ければ、ため息と同時に肩を竦める二人。そんな姿に、何処の世界、国でも同じだと、私も思う。
「取り敢えず、フクロウの説明はその辺にして、本題だが。イナの話に出た騎士は、王宮騎士だな」
「ええ、それは間違いないと思います。そして、ムスカード派でしょう」
「何で?」
「俺と同じ格好だったでしょ、その騎士達」
「…多分」
「騎士は、役に応じて格好が違う。他にもその時の王の色を身につける決まりがある。それが、コレ」
そう言って見せてきたのは剣を繋いでいるベルトの金属の飾り部分。なんて言う名前か分からないから、この説明で通じるか分からないけど、ソコです!ソコなんです!
「此処に今、紅の宝石、ルビーが入っている。他の国も基本的には同じ仕組みになっていて、スペルリングはダイヤモンド、サーマルクはエメラルド、ウィンファルターはサファイアだ」
「ほ…こ、高級品…」
「一応は、国に仕える騎士だからね。模様はその国を象徴するものだし、ここで国を判断する事が、一番確かとも言える。格好はどうとでもなるけど、忠誠の装飾品を見せろと言われてしまえば、名前も裏に掘られてるから、万が一にも誤魔化しが出来ない。宝石はその国の王の物だから、偽物や違う人間の物を持つだけで罪になる」
…細かい。でも、それで安全と忠誠を見ているのか。…ん?それのどこで派閥が分かるのだろうか?
「…イナ、そんなに見なくてもちゃんと説明するって」
「え、嘘、ゴメン…失礼しましたー」
ガン見していた様で…しょうがないじゃん、気になったんだもん。
「…ムシャード様の時代、ココは黄色、黄水晶だった。そして第一王子のムスカード様、第二王子だったメルーソル陛下どちらかの護衛騎士は、この忠誠の装飾品の横にそれぞれの色の刺繍がされていた。ムスカード様は橙、メルーソル陛下は紅のね。どの国も現王に近い色の王子が、王位継承権が上である事を示す。そして騎士や貴族達は、必ず支持する、若しくは属する色を身に付ける。更に、商業の国でもあるこの国は、商人も目立たないけどどちらかの色があった。どちらの息が掛かった商売なのかが分かる様に……要するに、上の人間に媚を売り易くする為に」
あのサラが真面目に話している…なんて少しだけ不謹慎なこと考えつつ、ちゃんと真面目に聞いていた。少しこの世界で暮らした今知ることで、成る程と納得出来ることも多い。家が、自分が、相手が、どの派閥なのか。分かれば相手に対する態度を変える、実に人間らしいと思う内容だった。本当、どこの世でも一緒だ。




