ゲームスタート
クーデターの後、ナードから手紙が届いた。それによると、彼が所属していた行商人一行は、しっかりと商売人だったようで、この機会を存分に活かして儲けたようだ。私の知恵というか、偏ったゲームの知識は大いに役立ったと書いてある。無事あの人もスペルリングへ行けたらしい。因みにナードもこの機会に国に戻っていった。戴冠式の事と、これからの事を考えるから、と。私やティナ達には、いつでも遊びに来て欲しいと言っていた。…王様であることは言ってないのに、大丈夫なんだろうか。
その戴冠式は、盛大に行われた。誕生祭と併せて執り行われたからだ。各国の要人も集まっていた。ただ、各国の王は居ない。何でかって聞いたら、王は基本的に国外に出ないのそうだ。出るとするなら王妃以下の存在なのだとか。よく分からない決まりだけど、そうというルールならそうなのだろうさ。まぁ、一般市民には関係ないことよ、ただお祭り騒ぎが出来て、上に立つ人が変わっただけの事。お偉い様方を守る人たちは大変だったようだけどね。目の前の人達のように。
「お疲れ様」
「…当面は未だ休めないが、何とかピークは終えたよ」
目の下に隈を作ってやつれているラスが、サラと一緒に久し振りにやって来た。サラはアークと飲みながらそのまま落ちた。どうやら相当疲れている様だ。前々から思っていたけど、此処はある意味ちょっとしたラスとサラの休息所と化しているきがする。休憩所じゃなくて休息所ね。
「今回の反乱は騎士が主導なんだよね?」
「…まぁ、そうだな。我等は関わっていないが」
「ん?騎士全員じゃないの?」
「…今此処にお前達しか居ないから話すが…」
前置きが入った。此処だけの話、ってやつだ。
「騎士も一枚岩じゃない。私は国に仕えているし、自分の信念に従って行動している。だからどちらの派閥というのもあまり無いが、中には利権を外せない連中も居る。サイラスもその一人だったが、今は考え方が変わったらしい。まぁ、それはこの際良いのだが…今回起こしたのは第一王子派の騎士だ」
「え?メルーソル派じゃなくて?」
騎士全体ではないと言うなら、メルーソル側が仕掛けるもんなんじゃないの?
「今回、陛下派は沈静化をさせる時に動いただけで、トドメを刺した者も含め、動いたのは第一王子派だったんだ」
「理由は?」
「…ティアナ嬢の兄、シャルル殿の存在だ」
「は?何でその人が出てくるの?」
アークとティナも会話に参加し始める。聴いているだけではいられなかったようだ…そりゃそうだ、気になるよね。
「シャルル殿が賊に捕まったんだ。だが、助けを求めたにも関わらず、視察で襲われた事も重なって、ムシャード様とムスカード様は動かなかった。動いたのはメルーソル陛下で、自分の派閥だった人を見捨てた挙句、襲われた件で散々言われた騎士達は面白くなかった。日頃から溜まっていた反感意識が爆発して、今回の反乱が起きたんだ」
「引き金になったってこと…」
「元々自分達の好きなようにやって来た奴の末路よね。まぁ、シャルルの件は知らないけど」
…真実が色々違う気がしてムズムズするのは、私がシャルルさんの件を知っているからだろうか。だってシャルルさんは賊ではなく、イヴァンの仲間であるテラとかいう人に連れて行かれた筈だ。二人がフクロウとかいう賊なら間違ってないけど、あの時彼は影の組織的なこと言ってたよね。影の組織って忍者みたいなのだと勝手に思ってたけど、実際はどうなのかな?賊なのかな。と言うか、ティナは相変わらず絶好調です。
「…と言うか、何でそもそもシャルルが賊なんかに捕まった?」
アークの問いにギクリとした。身体が動かないでいればいいけど、此処にはそう言うのを気付く人が多いんだよ。
「それなんだが、どうやら元々下見しろと言われていたようで、護衛の騎士数人と出ていたらしい。そこで賊に捕まったらしいんだ」
「ん?とするなら、流れがおかしくないか?」
「…そこがきな臭いんだ」
「は?」
…嫌な予感がするんですけど!?
「ルイザゼラ様によれば、シャルル様が捕らえられた後、ムスカード様が襲われた、との事だ」
普通、一般的に、下見って言えば先に行うものだ。そしてルイザゼラって言えば、この国の新しく宰相になった人の筈で、その人が騎士団長のラスに言った、と言う事は、その情報で統一されていくのだろう。…怪しんでますけどね、違和感だらけだもんね。だって、そもそもの大前提として、ムスカードの事件は自作自演だって、誰もが思ってるんだしね。
「下見中に襲われた、と言うからにはその通りなのだろう。だが、先に言ってきた通り、シャルル様が捕らえられたからと助けを求めたのは、ムスカード様が襲われた後なんだ」
「…襲われたこともあって動かなかったって言ったものね」
「そうだ。ムスカード様を襲ったのは手練れの暗殺者で、未だ捕らえられていない。シャルル殿の件もその仲間か本人かは分からないが、同じ目的の人間が行ったのは間違いない、と俺は見ている。我々騎士は、ほぼ全員、戴冠式関連警備で動けない状況にあった。犯人はその間、王家の周りを騒がす事はしていない。出来なかったのかもしれないが、な」
「…この状況で一番美味しい思いをしたのは、間違いなくメルーソルだな」
「その通り。反乱は全て、自らの内ではない騎士たちによるもので、シャルル殿といった第一王子派の貴族達の反応も見ることが出来た。つまりは、全て陛下が王になるための布石に見える。だが、先の順番の件といい、あやふやな面があるにも関わらず、それを抗うだけの情報がこちらに無い」
…私が頭が良い人ならば、多分何かしらの案が出るのだろうし、発言も出来るのだろう。自分が持っている大きなカードは、一体誰の為になるのか、話を聞きながら必死に考える。でも、分からない。あの出来事を言うことは簡単だ。でも、それでも、この事実を言ってしまって、私だってあやふやな部分があるのに、この人達を危険に晒さないだろうか。それが無いと断言されるのなら、私は間違いなく言う。恩や義理、何より優先される気持ちは、ここに居る人達の方がずっと上だから。
「イナ?」
「…ん?」
「どうしたの、ずっと黙ってるじゃない。貴女、この内容に付いて来られない程じゃないでしょう?」
「買い被りすぎだよ、でも、うん、ありがと。実はちょっと考えてたんだ」
「何を?」
「皆が助かるかどうか」
ポカンとされた。確かに言葉足らずだったかもしれないけど、そこまで?
「……何、今度は何を発表しようとしてたのよ」
「盛大だな、しかも助かるか否かだろ?凄い情報だな、それ」
そう言ってティナとアークはお腹を抱えて笑いだした。ラスも小さく肩を震わせているの、気付いてるんだからな!
「是非聞きたいじゃない、我々の生死が掛かった重大な話を」
「今回もこんな事が起こるんじゃないかって言い出したのを見事的中させたんだ。その手腕は神の使い顔負けなんだしな」
「止めてください、お願いします…恥ずかしくて死にそうだから!!」
「くく…良いじゃないか、是非聞きたいね」
ポロッと言ってしまった事がまさかこんな事になるなんて思っても見なかった。恥ずかしすぎるでしょ!
…て、ティナが雰囲気を作ってくれた、ってこと、本当は分かってたけどね。




