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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
本章 兄弟様は主人公
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 俺がこの世界、フォーシズに来たのは、今から三ヶ月程前だったと思う。気付いた時にはスペルリングの城に居た。話を聞けば、国の神聖とされる森の神殿が光り、その場に俺が倒れていたそうだ。自分でも見た事のない黒い不思議な模様が左の肩から手の甲にかけてあり、そのせいで神の使いなるものになった。どれだけ否定しようが、貴方は間違いなく神の使いだ、と断定されたから、間違いはないのだろう。その後、この世界の説明を受け、その異常さを肌で感じ、自分なりに異世界への順応をし始めてから数週間、俺は世話係として付けられていたこの国のナンバー3である宰相サシャ(と言ってもコイツ自身が世話をするわけではない)から、ある事を聞いた。


「貴方の父親がいるかもしれません」


 という内容だ。どうやら、森の外れにある場所で中年の男が商人に連れて行かれた、という情報が入ったのだとか。その男は一度近くの村で息子を探しているとの目撃をされていたらしく、あまり見かけない服装だった事から、もしかして、という事で俺に話をしたらしい。今考えれば、これで本当に俺の父親であれば、他国に渡すと交渉材料にされ兼ねない。そんな厄介者の白黒をつけたかったのだろうと簡単に想像出来るが、未だ冷静ではなかったその時の俺は、とにかくその人の情報が欲しかった。その人が自分の父親であるとはっきりしたのは、それから直ぐの事だった。


「…何だって?」

「だから、お前の父親は誘拐されたようだ、と言ったのだよ」

「何の為に…」

「前に教えてやっただろう?奴隷は珍しいものではないと。お前の父親であるという事実は誰も知らない上に、私自身も会った所で分からない。そんな価値があるか分からない男を誘拐するとしたら、奴隷しかないだろう?」


 父親確定だと判明した時、スペルリング王、エリルークに相談をした。奴は直ぐに調査を始める約束をしてくれたが、それと同時に対価を求められた。確かに、世の中ギブアンドテイクではある。だから、俺は無事に此処に戻って来ることが出来れば、考えてやると言った。そう、言ってしまったのだ。よくよく考えれば、本当に迂闊だったとしか言いようがない。何たって、今のこの状況の自分に、自ら英断出来るわけがない事を失念していたからだ。取引をする場合、お互いがフェアである事が最低条件だ。にも関わらず、今の俺は城の外に出る事が出来ない。つまりはスペルリングの城の連中の、強いてはエリルークの影響下にある、という事だ。相手のフィールドにいるにも関わらず、相手の出す条件をまんまと飲んだわけだ。日本にいた時の俺では考えられない失態だ。営業成績に直結するこんな簡単な、単純なミスをするなんて、と自己嫌悪に陥った。無事に戻った親父の


「誘拐なんかされていない。行き倒れていたところを行商人に保護されて、オルスタムに居たんだよ」


 という言葉を聞いた、冷静になった今になって。父親が誘拐されたと聞いた時、何としてでも此処へ戻さなければと考えた。その時が冷静じゃなかったからと、自分がやった事は今更覆す事は出来ない。だが、こちらから切り出すことはしない。敢えてやる必要は無い…流石にそこまで鈍ってはいない。


「…お前が目を覚ます前に、周りの様子を見るために側を離れた。その間にお前は連れていかれていたんだな…神の使いとして」

「そうらしい。迷惑な話だ」

「…俺は側を離れちゃ駄目だったんだな。無駄に時間だけが過ぎてしまった」

「だけどオルスタムの行商人に助けられて良かったじゃないか。奴隷商だったら会えなかっただろ」

「そうだな…世話になった。息子を探していると告げて、何とか探して貰えないかと頼んだ時、彼等は真剣に話を聞いてくれたし、商売がてらあちこちに行くからと、快く探す事を約束してくれた。一緒に生活して行く中でこの世界について色々と教わって…お前が神の使いとしてスペルリングに居る事、自分はその父親であるがゆえに、中々厄介なポジションにいる事を理解したよ」

「親父より商人達の方が早く気付いてたから、直ぐにこの事実は限られた人間のみの間だけの認識にされた。だが、俺が阿呆で、そんな事情を知らないせいで、父親を探してくれと頼んだ事によって噂が拡大していったわけだ。何処かの国に、スペルリングの神の使いの父親が居ると」


 各国の上層部に情報が流れた。その事で各国が出国を制限し、余計に帰りづらくしてしまった。今回、オルスタムで起きたゴタゴタに紛れて、行商人が手を尽くしてくれた事で何とかなったが。

 サシャによれば、オルスタムに居ると、スペルリングに残って居た、親父を保護した行商人の仲間から情報は貰っていたらしい。だが、その時既に出国制限が敷かれ、クーデターが無ければ未だ当分は無理だっただろうと言う事だった。今回の事で商人達はオルスタムに対して相当な裏切り行為を行った訳で、危険な橋を渡らせた上、世話をさせたとして、スペルリングからは謝礼金として相当な額を払ったそうだ。ナティーシャに盛大に文句を言われた。アイツは俺がエリルークの庇護下に居るのが面白くないようで、顔を合わせると何かと突っかかってくる、可愛らしい外見の少年王妃様だ。この国のナンバー2。

 今、親父は別の部屋で休んでいる。親父の身の安全は一旦保証されたと言っていいだろう。問題は今この目の前に居る、回想に出てきたこの国のトップ3人だ。


「陛下、これからの事ですが」

「うん?」

「女性の解放を、他国が説明するよう求めてきております。勿論、ウィンファルターへの女性保護についても、同様に我等から質問状を送ってもおりますが」

「ウィンファルターにも神の使いが居るんだもんね、それ関係だと分かって面倒な事をする。本当に神の使いって面倒だねぇ」


 俺をチラリと見て、あからさまに大きなため息を吐く王妃と、楽しそうに鼻で笑う王。


「国同士なんてそんなものだ、ナティーシャ。でも…そろそろ考えなければならない時期かもしれないな」

「何をです?」

「オルスタムも戴冠式を迎えれば、少しずつ落ち着いてくるだろう。同世代の王が出揃ったのだ、何か面白い事が起きそうだろう?例えば、何処かの国が野心を露わにするとか」

「…それの何が面白いのですか…」


 全面的にサシャに同意する。神の使いの父親が何処かに居るという噂一つで、各国が出国制限するくらいだ、神の使いである自分が城外へ出してもらえない程だ、神の使いが居ない二ヶ国が何か仕掛けそうだと言っているようなものじゃないか。


「まあ、面白いかどうかは置いておいて、何かが起きても備えられる様にしておけばいいんじゃないの?」

「…そうですね」


 物凄く疲れた顔をしているサシャの苦労が見える様な内容だ。…いや待て。苦労もそうだが、あまり深く考えてこなかったが、ウィンファルターにも俺と同じ神の使いが居るんだよな。ソイツはこの国の人間なんだろうか。


「……ウィンファルターの神の使いに会ってみたいな…」


 思わず呟いた俺の言葉に、耳に入ったらしいサシャがこっちを向いて盛大に睨みをきかせてきたのには、見て見ぬ振りをさせてもらった。

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