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ムスカード王子、視察途中に暴漢に襲われ、中止する。そのニュースが入ってきたのは夜だった。優しい騎士様が町の人に教えた情報は正しく、私が午前中バタバタしていたその日の午後、団体様で市井に降りてきた。そしてその途中、大層な怪我をされ、結局此処へ来ることなくイベントは終わった。
さて、問題です。私は無事に戻ってこられたでしょうか。答えはイエス。私を宿屋の前に連れてきたイヴァンくんは、その後特に何も無かったかのように、またねと去っていった。またね、が非常に怖いけど、取り敢えず何も無かった。私は帰りが遅かったし、騎士に追いかけられているのを見たと言う人からの伝言が伝わったティナから、物凄く心配されたけど、強い人が助けてくれて無事だったと、当たらずしも遠からずな回答をしておいた。しかしながら、問題はそこじゃない。
「…ムスカード王子は怪我なの?」
「怪我と言うか…刺された。命に別状はないらしいが、どうやら絶対安静で一ヶ月だそうだ」
「えー…」
このニュースの最後の方を現場で見ていたお客様と話してて、どんなものかが分かってくる。恐らく殺すつもりだっただろうから…怖い。身近で殺人未遂事件とか怖くてたまらない。
「犯人は分かってるの?」
「あぁ」
「え!?」
「…ちょっと…」
「…?」
ふと声のボリュームを絞り、ちょいちょいと小さく手招きをするお客様。図体でかいおっさんが可愛くないけど、茶化す雰囲気でもない。内緒話をするつもりなのだ、私は耳を近づけた。
「…どうやら物凄く強い暗殺者だったらしくて、ワザと殺さなかったと噂になってる」
「え、何で…?だとしたら暗殺失敗にならない?」
「騒ぎを大きくしたかったんじゃないか、と」
…何でだろう?この人はどこまで何をどう考えているんだろう?知っているのかな、その何か、を。
「…どう、した…?」
うんうんと首を捻っていたところに、ナードがアークと一緒にやって来た。彼も結局此処から去れず残っていた。
「おお、フィルの旦那とアークか。丁度いい、アンタらの見解はどうよ?」
「は?何の話よ」
「そんなの決まってるだろ?」
最後まで言わないのは、どこで誰が聞いてるのか分からないからか。それとも、言わずに通じるからか。
「あー、俺はさなかった派。フィルは?」
「…俺もそう、だな」
「理由は?」
死のうが死ぬまいが、極端な話、騒ぎは大きくなる。何せ王子が刺されたのだから。だったら、もし彼を要らない!としたのなら、殺すだろうし、要る!となれば生かす…あれ?そういうこと?
「…まさか」
「生きている時点でこの国の、いやこの世界全員そう思うだろうさ。未だこの情報が他国の末端までは行ってないだろうから、今は未だ全員とまでは行かないだろうけど」
「いや、そんな皮肉はもういいよ。考えが至らなかった私がバカだと分かりましたよ」
「…イナは、馬鹿じゃ、ない…」
「うー…ナードぉ」
ナードだけだよぉ。本当に癒しなんだから!
「ま、どちらにせよ、俺たちは関わらないに越したことはないし、此処に来なくて清々した」
「いやそれは全くだ。けどな、そろそろだぞ」
「え?何が?」
「今回の件は犯人がどんな奴なのか、は、暗殺者だって分かってるってさっき言ったろ?けど、それが誰なのかはまで分かってない。恐らくそれを理由に、引っ張り出されるぞ」
「実行者はほぼ間違いなくムスカード王子の手の者だろうが、それが証明出来ない以上、メルーソル王子が手を回したと言われても、何もおかしくないからな」
「…成る程ね」
つまりだ。今回の襲撃はムスカードの自作自演の可能性が非常に高いし、それはこの世界の人なら誰だって分かってしまうような事実であるということ。けれど重要なのはそこじゃなくて、第一王子が襲われたという事実なのだ。そしてそれを疑われるのは、同じ王位継承権を持つメルーソルとなるのも、皆んなが、だよね、ってなる事実で。権力面倒臭いな!……でも待て、これってクーデターチャンスでは?
「…今、この国に居る騎士の多くが召集されてる。何か起きるかもな」
アークがボソリと呟いた。
〇
「ただ今戻りました」
奴隷で構成された影部隊フクロウは、僕を含めて5人。一応リーダーは僕。フクロウは夜に活躍できる鳥だから、って主様が言っていた。
「お帰り、無事に届けたみたいだね?」
「はい」
「彼女に怪我は無かった?」
「騎士たちに付けられた可能性のあるものが少し」
「…そう、それは気の毒なことだね」
そう言いつつ、主様が何か指示するわけではない。主様は基本的に、自分に使えるモノ以外気になさらない。今は彼女を判断しているところだ。
「…で?」
「は。オウム達は彼女を吊るす予定で間違いなかった様です」
「そう…なら私に来るね」
「はい。ですが既に報告が入っているかと思いますが、インコを押さえてあります」
「…ふふ、気に入ったんだって?珍しいね」
「…自分でも未だ分かりません。ですが、嫌いではありません」
「そう、まぁそれはその内分かるよ。…さて、私はこれからに備えようかな」
「お手伝いします」
オウムは彼女を、自分を襲わせた犯人にしようとしていた。今回、市井への視察の際に襲われるのは、オウムが立てた、神の使いの可能性がある女を、逃げ道を無くして言うことを聞かせる完璧な作戦だと言っていた。実際は僕の仲間がやったわけだけど。けど、その為に捕まえていた彼女を逃したのは僕だし、それをインコは知っている。勿論インコはテラが押さえてるから何も出来ないけど、彼女が居なくなったとなったら、次は主様の番だ。あのオウムが一つだけで手を出す訳がない。
僕は忠実な主様の僕だけど、今はオウムの猫でもある。オウムが主様の存在を知ってることは有り得ないし、僕らもバレる様なミスはしない。だからオウムはその名の通りペラペラと僕に色んなことを話す。今回の計画も、僕らの力を貸せと、嬉々として話してきた。だから本来斬りつける程度の予定を、死なない程度にしてやったから、相当怒っていると思うんだけど、そんなのご愛嬌だ。僕がオウムの大好きな猫になれば、ほぼ間違いなく許してもらえると思うしね。
「…ねぇ」
「はい」
「もし彼女が、アレの言う通り神の使いかそれに近い存在であれば、私の力になると思うかい?」
「はい。必要ですか?」
「…コレが終わったら考えようかな」
「畏まりました、お任せください」
そうか否かは未だはっきりとは分からない。この国に無い機械を持っていたのは、サイラスからインコに渡り、その物もオウムから見せてもらった。その事も主様には伝えてあるし、その物も見せた。今はオウムの部屋に置いてあるから、持ち出すのも簡単だ。だけど、彼女はそれを自分のものじゃ無いと言った。信じるなら、どっちなんだろうか。判断が難しいけど、主様が必要なら、例えどんな物でも揃えるまでだ。主様は僕を救ってくれた、僕の唯一、絶対の存在なのだから。




